- 松山 淳
- アースシップ・コンサルティング コンサルタント/エグゼクティブ・カウンセラー
- 東京都
- 経営コンサルタント
対象:キャリアプラン
- 宇江野 加子
- (キャリアカウンセラー)
- 冨永 のむ子
- (パーソナルコーチ)
日に新た(3)
「返信したのか」
「はい」
「なんでだ」
「なんでって、何年も前からお願いしている通り、
製品開発が私の夢なんです」
「そんなことはわかってる。
今の仕事はどうするんだ、投げ出すのか」
「投げ出すなんて言ってません。
サラリーマンが部署を異動するのは普通のことだと思いますが」
「なんだその態度は」
「だいたい、私の異動希望ってちゃんと上にあげてくれてるんですか」
課長の目が一瞬泳いだ。
「やっぱり」
「何がやっぱりだ、だいだいなあ、お前はなあ・・・」
「私が何ですか」
「もういい、勝手にしろ」
扉を閉める大きな音と
机をこぶしで叩く音が小さな会議室に同時に響いた。
(会社ってこんなところなのか)
背筋を伸ばしてパイプ椅子に座っていた遼太は
腰を緩め両手をポケットに入れ天井を眺めた。
あふれそうになる涙を必死にこらえた。
***
ほとんどの若手社員は希望を出さず、
出した十数名も上司に説得され翻意した。
創業者である大貫社長は、
来期、相談役に退くこと宣言していて、
次期社長有力候補の竹下常務は、このプロジェクトに賛成していない。
社内の風評は、「
竹下さんが社長になったらどうせ、すぐ潰される」であり、
先行きのないプロジェクトに参加したところで
「何の得にもならない」
という判断と説得が若手の意欲を削ぎ落とした。
逆風の中、プロジェクトはスタートした。
皮肉なことに、総務課長と喧嘩した小会議室に臨時の机が置かれた。
新しくもらった名刺を眺め
「総務部総務課兼新製品開発プロジェクトチーム主任」
という文字が、
名刺からはみ出しそうになっているのを見て遼太は苦笑した。
まあいいか、とつぶやくと、
社長が地方の営業支店から呼び寄せた上島課長が、
他人の給与明細を横目でのぞき込むように、
遼太の手もとを見ていた。
窓の外では銀杏の彩りが錦秋の季節になることを知らせていた。