取締役の報酬の減額・不支給、変更 - 会社法・各種の法律 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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閲覧数順 2024年04月23日更新

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取締役の報酬の減額・不支給、変更

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4 取締役の報酬の減額・不支給

いったん定められた報酬額を取締役の同意なしに減額ないし不支給にすることはできるでしょうか。取締役の職務内容に著しい変更があった場合はどうでしょ

うか。

(1)最判平成4・12・18民集46巻9号3006頁

 事案は,経営者の死後,会社の代表者をめぐって長男と長女の娘婿が代表者の地位をめぐって対立し,結局,長男が代表取締役に就任したものの,長男と長女の娘婿の対立は激化し,代表取締役である長男が,取締役である長女の娘婿の同意を得ることなく,その役職を常勤取締役から非常勤取締役に変更する旨の決定を行い,その後,当該取締役の同意を得ることなく,報酬の支払いを停止したため,当該取締役が会社に対して,任期満了までの報酬を求めたというものです。

裁判所は,「株式会社において,定款又は株主総会の決議によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には,その報酬額は,会社と取締役間の契約内容となり,契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから,その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても,当該取締役は,これに同意しない限り,報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は,取締役の職務内容に著しい変更があり,それを前提に株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」と判示しました。

(2)判例の射程

本判例以前には,常勤取締役から非常勤取締役となることにつき本人の承諾がある事案で月額96万円から60万円への減額が認められた裁判例(大阪地判昭和58・11・29判タ515号162頁)があります。また,各取締役の報酬が役職ごとに定められており,かつ,任期中に役職の変更が生じた取締役に対し,当然に変更後の役職につき定められた報酬が支払われている会社で,一方的に代表取締役から非常勤取締役に役職変更が行われた事案で月額360万円から40万円への減額が認められた裁判例(東京地判平成2・4・20判時1350号138頁)もありました。そして,学説上もこれらの裁判例を支持し,職務内容に変更がありかつ当該取締役の職務内容変更についての同意があれば,任期途中の報酬額の変更を認める見解が多いとされています(江頭憲治郎ほか『会社法判例百選』143頁 甘利公人)。

そこで,本判例の射程は,取締役の同意なく役職が変更され,しかも,報酬を不支給にした場合に限定して考えるべきでしょう。

また,取締役の任期は原則として2年(会社法332条1項本文)ですから,実際の不都合は少ないと考えられます。報酬を支払いたくなければ,正当の理由がある場合には解任し,あるいは,任期満了により再任しなければよいからです。取締役が再任される場合でも株主総会決議,あるいは,取締役会が再任後の任期の報酬額を従前よりも減額することは許されると解されます(平成4年最高裁判例解説民事編597頁参照 水上敏)。

(3)学説の理解

 前述のとおり,職務内容に変更がありかつ当該取締役の職務内容変更についての同意があれば,任期途中の報酬額の変更を認める見解が多数説ですが,取締役の報酬が取締役の役職ごとに定められ,それが会社の内規,慣行となっており,その内規,慣行を了知して取締役に就任している場合等に,ある取締役の役職が変更になったときは,その報酬を変更後の役職の報酬額に減額することについては,その者の個別の同意を要しない,あるいは,明示又は黙示の特約・同意があったものとする見解も有力です(前掲最高裁判例解説民事編598~599頁)

多数説の理解に立てば,職務内容の変更を口実に報酬の減額が行われる可能性は否定できません。

有力説の理解に立つ場合でも,役職に基づく報酬の基準が明確でない中小企業の場合はもとより,取締役と会社間の任用契約には様々なものが考えられますから,役職変更への同意および報酬減額への同意の認定は慎重になされるべきと考えられます。特に,取締役は役職が変更されたとしても,対外的には取締役として,例えば,監視義務違反による第三者に対する損害賠償責任を負う可能性がありますから,無報酬とすることについて,黙示の合意を認定することは,より慎重になされるべきと考えられます。正当な理由を欠く解任の場合に,取締役に残存任期中の役員報酬が損害賠償として認められる(会社法339条2項)こととの均衡からも,報酬の減額への黙示の同意は簡単に認められるべきではないと主張する有力説(江頭憲治郎『株式会社法第3版』420頁)があります。

 なお,会社の経済状態および取締役の職務内容に照らして,取締役の報酬が不当に低く定められた場合あるいは無報酬とされた場合には,取締役は,労務の提供を受けた会社に対して,不当利得返還請求をすることができるという考え方もあります(弥永真生『取締役の報酬の減額・不支給に関する一考察』筑波法政16号54頁)。

(4)最判昭和31・10・5裁判集民事23号409頁

 「取締役会の決議に従い,社長が正当に一営業期間内自己の受くべき報酬額を決定した後においては,社長の同意がないかぎり,取締役会といえども,右報酬額を変更することはできない。」と判示されています。

 

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