異物誤飲の症状は、忘れたころにやってくる - ペットの医療・健康全般 - 専門家プロファイル

アレス動物医療センター センター長
富山県
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異物誤飲の症状は、忘れたころにやってくる

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犬の病気 異物誤飲

 あ、うちのワン子が、石ころを飲み込んだ!!
 というシチュエーションを目にしたとき、あなたはどのような対応をしますか?

1. すぐに病院に電話する。
2. とりあえず、数時間様子を見てみる。
3. どうせうんこと一緒に出るだろうと、気にも留めない。

 正解は?
 
 もちろん1ですね。
 たぶん、このような書き方をすると、ほとんどの人が1を正解と思うでしょう。

 では、1を実際行動に移しますか?

 これが意外と、そうでもない。
 たいがい正解は1とわかっていても、2を選択する飼い主様が多いようです。
 まあ、中には3を選ぶ、のんきな飼い主様もいるでしょうが、なんだかんだと2を選ぶ方が多いのです。

 では、様子を見ていて、何時間たって症状が出なかったら、安心できますか?
 1時間?
 6時間?
 いやいや12時間?
 さすがに1週間たって、元気も食欲もあれば、もう大丈夫でしょう、なんて言っていると、とんでもないことになりますよ。

 異物を飲み込んだ時に安心できるのは、口からその異物が、全部出てきたときか、あるいは便と一緒に全部出てきたときだけ。
 出てこない限りは、何時間、何日、何カ月、何年たっても絶対安心してはいけないのです。
 
 え? そんな大げさな??
 いやいや、誇張でも何でもないのです。
 本当に安心してはいけないのです。

 一般の方は異物を飲み込むとどれくらいで症状が出ると思っているのでしょう。
 というか、そもそもどんな症状が出ると思いますか?

 吐く?
 下痢をする?
 はたまた便が出なくなる?
 それとも食欲や元気がなくなる?

 実は、全く無症状でスタートすることがとても多いのです。

 なぜなら異物を飲み込んでも、胃の中に転がっている限りは、ほぼ何の症状も出ません。
 異物が、腸に入って、腸閉塞を起こして初めて、激しい嘔吐や食欲不振になるのです。

 中には数年前に飲みこんだものが、急に症状を起こす、ということもあるのです。

 私が以前経験した患者さんで、こんなことがありました。

 嘔吐が止まらず、食欲もないというワンちゃんがやってきて、レントゲンや血液検査をしても異常がない。
 飼い主様に聞いても、特に異物を飲み込んだ記憶も、中毒を起こすようなものを飲み込んだ記憶もない。
 そこで内視鏡とバリウム検査をしたら、バリウムが腸の途中からまったく流れなくなってしまった。
 慌てて開腹すると赤いゴムの破片が2つ。
 飼い主様に見せると「2年前にのみ込んだゴムボールのかけらだ」とのこと
 「いや、だって異物を飲んだことはないっておっしゃったじゃないですか」と聞くと
 「2年前にのみ込んだ時は、2,3日後にゴムのかけらが大量に便から出てきて、その後けろっとしていたんだ、全部出たものだと思って…」

 つまり2年前にのみ込んだゴムボールは大半が便から出たけれど、2つだけかけらが胃の中に残っていて、広い胃の中に転がっている間は何の症状もなかったのに、狭い腸に運悪く2年後に入り込んで、詰まってしまった、と。

 なんでほとんど出たのに2つだけ残っていたの?とか言ってもしょうがないのです。
 私たち獣医師でも、何なら100%出て、何なら詰まるかなんて、予想はできません。

 待ち針を大量に飲みこんだのに2日後には全部出てきたワンちゃんもいました。
 小さな梅干しの種が腸に詰まって、死にかけたワンちゃんもいました。
 出るかもしれない、出ないかもしれない、そんな時は最悪の事態=出ないかもしれない、という気持ちで行動しなければいけません。

 また、吐いたり、食欲がなくなったりという症状はなくとも、じりじりと痩せていくという地味~な症状で出てくることもあります。

 異物誤飲で出会った、もう一人のワンちゃんはこんな感じでした

 飼い主様は全身の毛がすごく抜けて、ハゲてきたと来院。
 「皮膚病だと思う」とのこと。
 体重を計ると、半年前まで8kgあったのに、6kgまで激やせ。
 触ると肋骨がごつごつ触れるくらいに痩せているのに、毎日見ている飼い主様はその少しずつの体形の変化に気づいていない。
 食事変えました?と聞いても
「いや、いつも通りよく食べるし、元気に走り回っているよ」と首をかしげる飼い主様。
 で、それはおかしいとレントゲンと血液検査。
 結果胃の中に石ころがごろごろと写って…

 これは何かというと、石を飲み込んだのですが、ずっと胃の中にあって腸にはつまらなかった。
 ただ、ずーっと胃の中に異物があるので、吐くほどではないけれど、弱い胃潰瘍が慢性的に起こってしまった。
 そうすると、体は常にこの胃潰瘍を治し続けなければいけない。
 胃潰瘍を治すために常に栄養をロスし続け、今まで食べていた食事量では体を維持できなくなる。
 慢性的に続く栄養失調で、とうとう毛にまで栄養が行きわたらなくなり、結果→脱毛。

 怖いですね。

 いっそ石を飲み込んだ直後に、吐いたり、苦しんだりしてくれれば、飼い主様もあわてて病院に飛び込んできてくれるのでしょう
 ところが症状が地味なので、飼い主さんは気付かなかったり、あるいは忘れてしまったり。

 だって、2年前にのみこんだものが急に悪さをするとか、元気も食欲もあるのにこっそり痩せているなんて、誰も考えないですから。

 ただこれだけは覚えておいてください。
 今飲み込んだ異物の症状は、すぐ出るとは限らないのです。
 吐物なり、便なりに確認できるまでは、一生心配していなければいけません。

 だから、迷わず病院に電話してください。
 一生心配しつづけるなんて、こんなつらいことはないです。
 様子を見ていいかどうかは飼い主様が判断することではなく、プロの獣医師か判断すべきことなのです。

 異物誤飲の症状は、忘れたころにやってくる。

 次回は異物を誤って飲み込んでしまったときに、どう対処すべきかを詳しく書いてみたいと思います。

カテゴリ このコラムの執筆専門家

(富山県 / 獣医)
アレス動物医療センター センター長

地域に密着したワンランク上のホームドクターを

アレス(Alles)とはドイツ語で「あらゆること」を意味します。インフォームドコンセントの充実、年中無休、CTスキャナ導入など動物たちの幸せにつながることなら、飼い主様のあらゆる要望にお応えしたい。そんな願いを込めて診療に取り組んでいます。

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