![松本 啓介](https://d32372aj5dwogw.cloudfront.net/home/profile/front/html/img/professional/ll/1324380370.jpg)
- 松本 啓介
- マツモトケイスケ一級建築士事務所 代表
- 富山県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
太陽光発電やLED照明など、住宅における省エネ製品が注目されていますね。
ただ、この流れも売り手側の経済原理なのか設備を設けることばかりが省エネとして先行してしまって
環境に適応した住まいというものがなおざりになっているような気がします。
採光・通風・換気 + 断熱 + 気密
まず住宅性能の基本となるのが、採光・通風・換気+断熱+気密です。
これらを無視しては、せっかくの省エネ機器も台無しになってしまいます。
高断熱高気密に抵抗のある方もいらっしゃいますが、断熱と気密は切り離せない関係にあります。
ここで言う気密とは隙間風のことですが、本来断熱材は空気を閉じ込めておくことで断熱性能を発揮します。
隙間風が起きると断熱層内にも気流が生まれ、断熱性能が低下してしまいます。
気密するということは室内を密閉してしまうということではなく、壁体内に気流が生まれないようにするということなのです。
窓を開けたり閉めたりする計画換気を行うことが重要になります(閉めたままでいると本当に密閉されますので)。
先人の知恵に学ぶ
とはいったものの、住宅の敷地条件は様々です。
全てが満足できる敷地を確保できるとは限りません。
しかし、計画を工夫することで解決できる場合も多々あります。
例えば京都の町屋住宅では、長屋形式のために敷地いっぱいに建物を計画してしまうと
道路側しか採光・通風が望めません。
そこで敷地の半ばに庭を設け、光庭として敷地の奥まで光が届くようにしています。
また、中庭は通風装置としても機能しています。
夏の暑い日、道路側に打ち水を行い、建物の前側の温度を下げます。
すると中庭との温度差によって道路から中庭へ抜ける気流が生まれ、心地よい風が建物内に流れるようになります。
自然のポテンシャルを生かす
20世紀は、豊富なエネルギーと資源を用いて地域風土に関係なく、一定の快適性を力任せに室内にもたらす技術が発展
してきました。
しかしながら、そのような技術を支える化石エネルギーへの過剰な依存が地球環境問題の一因になり、様々な意味で
自然と人間の関係をいびつにしてきました。
これからは、建物が建つ地域の気候特性を十分に考慮した建築デザインが望まれると思います。
そのデザインとは
1.卓越風の風向きを考慮した開口計画
夏に涼を得るには建物内への風の導入は欠かせません。各地域の各月における風向きの平均風速と頻度割合を
掛け合わせた風力図により、各季節の卓越風を知り開口部を計画します。
敷地などの条件により卓越風を得にくい場合、窓の側から袖壁を張り出したり障害物を置くことで風が回り込み、
間接的に風を室内に取り入れることもできます。
2.日射取得と遮蔽のコントロール
各地域の南中時の太陽高度は以下の式によって求められます。
夏至の南中高度=90度 - ( 緯度 ) + 23.4度
冬至の南中高度=90度 - ( 緯度 ) - 23.4度
これを元に南側に主開口をとった場合の庇の深さを検討します。
南側の日射コントロールには、庇の計画の他、落葉樹を植えることも有効です。
東西方向の日射コントロールには、ブラインドや簾が有効です。
3.昼光利用
昼間の明るさを室内に取り込むことで人工照明による無駄な点灯を少なくし、照明エネルギーを軽減します。
天窓は壁面に設ける側窓の約3倍の明るさを室内にもたらしてくれますし、
直接採光を得る方法以外にも吹き抜けや光庭を設けたり、欄間を設けるなどの空間構成による導光手法、
屋外床面や庇による水平面反射による導光手法もあります。
4.日射熱利用
2で触れた庇によりコントロールされた日射を室内の床に蓄熱させることで自然の床暖房ができあがります。
例としては、南側に配されたリビングの一部を土間床にすることによって、日中は熱を吸収して室のオーバーヒートを防ぎ、
夜間は吸収・蓄熱した熱を放出して室温の低下を防ぎます。
その他、太陽熱給湯による給湯熱の底上げにも活用できます(地域の日射量が大きく影響します)。
4.屋外空間と建物の関係性
屋外空間を適切に計画することにより、屋内にも快適な熱環境を呼び込んでくれます。
建物の遮熱が十分であれば、屋外に計画した植栽によって、水分の蒸発冷却作用によって周囲よりも低温の部分を
つくることができます。
ゴーヤなどのグリーンウォールによる壁面緑化はその代表的な例です。
2でも触れましたが、南側に配置された落葉樹は夏には豊かに繁った葉で強い日差しを遮り、冬は葉を落とし
日光を遮ることなく室内まで呼び込むことができます。
5.ライフサイクル
省エネを考えるにあたって、ライフサイクルコスト(LCC)を中心に検討することが必要です。
そうでなければ、せっかく様々な技術を用いて建物を省エネ化してもかつてのようにスクラップアンドビルドのままでは
何の意味もありません。構造的観点、耐久性、プランのフレキシビリティなど、何世代にもわたって長く使えるように
建てることも重要です。
ライフサイクルコストともうひとつ、環境配慮に欠かせない考え方がライフサイクルCo2(LCCo2)です。
建物を計画しはじめてから解体するまでの費用を合計したものがライフサイクルコストというのに対し、
建物を計画しはじめてから解体するまでのCo2の発生量を合計したものがライフサイクルCo2です。
LCCo2には、建築材料の輸送にかかわるCo2の排出量も考慮する必要があります。
例えば木造住宅の木材にあっては、できるだけ国産の木材や地場でとれた地域材を使用するなどで
輸送におけるCo2排出量を抑える必要があります。
この考え方を食品の場合にフードマイレージと呼ぶのに対し、ウッドマイレージと呼んでいます。
ウッドマイレージ(m3・km)は、建築物や製品に使用された木材の量(材積)(m3)に、
その木材が運ばれた実際の輸送距離(km)を掛け合わせたものと定義されています。
安全・安心・快適で健康的な住まいを
建物を計画するにあたっては、建てる場所の法的諸条件はもちろんのこと、自然条件を読み取り建築に生かすことは
欠かせません。
自然のポテンシャルを最大限に生かし、安全安心で、気候に適応した快適で環境にやさしく、そして美しい建築を後世に
残すことが大切だと思います。
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