OECD報告書の最後に、労働市場について紹介します。
OECDは、「1990年代以降経済成長が著しく減速する中、長期雇用、
年功賃金、そして60歳での定年といった伝統的な労働市場慣行」が
「経済状況にそぐわなくなった」ため、非正規労働者割合が高まっている
ことを指摘した上で、「政府は、短期的な派遣労働者の利用を法的に制限し、
そうした労働者を継続的に雇用することを促す政策を提案している。
これは、硬直性に伴う費用を高め、全体として雇用を減らすことに
なるかもしれない。それよりも、非正規労働者の社会保険の適用範囲を
拡大し訓練プログラムを向上させる、非正規労働者に対する差別を
防止する、そして、正規労働者に対する実効的な雇用保護を減らすといった
ことを含む包括的な取組みが必要である」と、政府の政策に懸念を示す。
さらに、「高い賃金の正規の地位を得ることに伴う困難は、特に子育ての
ために労働力人口から離れた女性が働くことを妨げるかもしれない。
出生率を上昇させるとともに、働き盛りの女性の比較的低い参加率を高める
ためには他の改革も必要となる。第一に、保育所の利用可能性を拡大する
ことが重要である。第二に、女性が仕事と家庭での責任を両立することが
できるよう、よりよいワーク・ライフ・バランスが必要となる。
第三に、税制や社会保険制度は、配偶者が働くことを妨げる側面を取り除く
ために改革されるべきである。」と指摘する。
OECDが、女性の労働参加率を高めることの重要性に注目するのは、
「今世紀半ばまでに生産年齢人口が40%近く減少することが見込まれる」
からであって、同様の理由から「高齢労働者をより有効に活用すること」
にも注目し、「現在、大多数の企業は、60歳の時点で義務的な退職を
強いている。政府は、義務的な退職を禁止し、年齢ではなく能力に基づく
より柔軟な雇用と賃金制度を目指すべきである。」そして、このことは、
「高度な技術を有する外国人労働者の流入増加を伴って行われるべき」
と指摘しました。
つまり、OECDは、小泉改革によって導入された単純派遣労働を禁止する
より、正社員と派遣やパート、アルバイトらとの差別的な取扱いの根絶を
意識しているようですね。ただ、この提案は、受け入れ難いかも知れません。
正社員の労働条件のマイナス要因を減らす代わりに、非正規労働者を
切り捨てる、いわゆる“派遣切り”によって、雇用側のコスト調整が
図られている感が強いだけに、短期的には、菅政権が目指す派遣規制の方が
効果的ではないかと思います。
しかし、労働人口の激減が近い将来に起こってくることが明らかである
以上、非正規労働者の柔軟性を高めることが必要になる、と考えています。
OECDが指摘するように、女性や高齢者の活用がうまくいかなければ、
日本企業は、働いてくれる人を求めて、工場の外国への移転を選択せざるを
得なくなってしまいます。そうすれば、日本経済の空洞化は避けられず、
若者の就職先はますます減ってしまうことになるでしょう。
外国人労働者の受け入れを真剣に考える必要があるのかもしれませんね。
このコラムに類似したコラム
ビジネス法務2010年8月号、労働者派遣法の平成24年改正 村田 英幸 - 弁護士(2013/11/02 03:14)
婚姻、妊娠、出産等を理由とする解雇・不利益取扱いの禁止等 村田 英幸 - 弁護士(2013/10/07 15:08)
労働者派遣法の平成24年改正、その1 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/29 10:42)
労働者派遣法の平成24年改正、その5 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/29 10:55)
労働者派遣法の平成24年改正、その6 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/29 10:56)