本物のバルサミコ酢? その1 - 西洋料理 - 専門家プロファイル

大庭 麗
イル・クッキアイオ イタリア料理教室 
料理講師

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閲覧数順 2024年04月26日更新

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本物のバルサミコ酢? その1

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イタリア食材

イタリア食材のひとつ、バルサミコ酢。
ちょっと、オシャレなイメージもあり、最近ではご自宅のキッチンに
常備している方も多いようです。


さて、みなさんは世の中には大きく分けて2種類のバルサミコ酢が存在していることを、ご存知ですか?
そして、みなさんが口にしたことのあるバルサミコ酢は残念ながら、伝統的な本物のバルサミコ酢ではない可能性が高いようです。

それは一体、どういうことなのでしょうか。
そもそも、バルサミコ酢って一体なに? 今回はそんな謎をひも解いていきたいと思います。

 

イタリア語で芳しい、芳香性といった言葉を意味するお酢、バルサミコ酢(aceto balsamico)
その優れた殺菌作用から17世紀には、うがい薬や強壮剤、また養毛剤と言った薬として
扱われていました。また当時は媚薬としても有名だったそうです。

古代ローマ時代より、モスト・コットと呼ばれ甘味料として用いられてきた
ブドウの絞り汁を煮詰めたもの、それがバルサミコ酢の原料となります。
たまたま当時、そのモスト・コットを樽に入れて保存していた為に、
自然な酢酸発酵が起きて、熟成したものがバルサミコ酢のはじまりと言われています。


アチェート・バルサミコ・ディ・トラディッツィオナーレ(aceto balsamico di tradizionale)
と呼ばれる、伝統的製法によって作られたバルサミコ酢は、現在イタリアにおいてD.O.P.
( 食品の保護指定原産地表示。地理的、気候、環境をはじめとした
地域性と生産技術や生産方法がその産地を限定し、他の地域では作り出せない物に与えられる
品質認定表示)によって、その産地、製造方法が指定されています。

この様なD.O.P.に定められた伝統的なバルサミコ酢の製造は、イタリア国内でも
エミリア・ロマーニャ州のモデナとレッジョエミリアの2地域のみに限定されています。
また使用するブドウの生産地域、ブドウ品種も指定されています。
(トッレビアーノ、オッキオ・ディ・ガット、スペルゴラ、ベルッツェミーノ、ランブルスコ品種のみ)
絞ったブドウのジュースを約24時間弱火で煮詰めて、糖度の強いブドウのシロップ(モスト・コット)を作ります。
次にこのモスト・コット樽に入れて、熟成を開始します。樽は寒暖の差の激しい屋根裏の様な風通しの良い場所に
必ず置かれなくてはなりません。そして樽内での長期的な酢酸発酵を経て
モストはだんだんとバルサミコ酢へと変化していきます。


このバルサミコ酢用の樽の上部には、四角い小さな穴が開いています。
この穴は、酢酸菌が呼吸する大切な役割を果たしており
常にその蓋は開いており、小さな布がかけられています。
当然のことながら、蓋が開いていることによって、中の液体が揮発していきます。
という訳で、量の減った樽は数年に一度2~3割り小さな樽へと中身の入れ替えが行われます。
その際必ず半量の熟成途中のバルサミコ酢を樽内に残し
2種類の熟成段階の物を混ぜる必要があります。

 

そしてその熟成の段階に応じて、オーク(樫)、栗、桑、トネリコ、桜などの
異なる種類の木製樽が用いられます。
これらすべての工程や熟成条件が、バルサミコ酢の生成に重要な役割を果たします。
自然な発酵過程と長期熟成からつくり出される
伝統的なバルサミコ酢は最低でも、12年~25年の熟成期間を要します。
中には50年、100年物のバルサミコ酢もあります。
こうした熟成を経て完成した、12年~25年物のバルサミコ酢は、一度生産者の元を離れ
協会認定試験官により、厳正な審査にかけられます。
色の艶、濃さ、瓶内の液体の濃度、香り、味がチェックされ、その全ての審査を通った物のみが
特別な形状のボトルに100mlずつ詰められ、D.O.C.のシールを貼られます。

 

協会側によって瓶詰めがなされ、瓶に蓋がされて、1本1本に登録番号が刻印されて
生産者に返却されることでアチェート・バルサミコ・トラディッツィオナーレの品質を管理し
不正が防止されています。その為、2地域ともに、独自のボトル、箱などのパッケージが統一されています。
ちなみに、モデナ地域ではフラスコ型をした瓶を用い、
ラベルのデザインのみがそれぞれの生産者によって異なります。
レッジョエミリア地域では、細長い瓶が用いられ、12年熟成物はオレンジ色
18年物はシルバー、25年物はゴールドと異なる色の異なるラベルが貼られています。

この様にして、厳しいD.O.P.に定められた製法を用いて、12年~25年の熟成期間を要して初めて
アチェート・バルサミコ・ディ・トラディッツィオナーレ(伝統的製法のバルサミコ酢)が誕生する訳です。
(現在イタリアでは、このD.O.P.の規定する審査を通った物以外に、
アチェート・バルサミコ・ディ・トラディッツィオナーレ(aceto balsamico di tradizionale)
と明記して販売することが禁止されています)

 

25年物のアチェート・バルサミコ・ディ・トラディッツィオナーレは、100キロの原料のブドウから
その百分の一にあたる1kg弱にまで減ってしまいます。
結果、イタリアにおいても1瓶(100ml)で約100euro(約1万2000円)と高級品ですが、
その製法を考えると納得の価格かもしれません。

そして、その使い方はお皿に盛りつけたリゾット、お肉の煮込み料理の仕上げに数滴用いるのが主流です。

その他では、生のイチゴやバニラのジェラートに数滴たらすなど
その品のある酸味と甘みのバランスは、料理、デザートまでをも引き立てます。


本物のバルサミコ酢 その2へ 続きます。

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