内部統制の文書化をめぐる大きな誤解(2) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

原 幹
株式会社クレタ・アソシエイツ 
東京都
公認会計士

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対象:会計・経理

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内部統制の文書化をめぐる大きな誤解(2)

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内部統制 内部統制ブームって結局なんだったの
制度導入当初の大きな誤解に、いわゆる3点セット(業務フロー・業務記述書・リスクコントロールマトリクス(RCM)にまつわるものがあった。特に多かったのが
「内部統制制度では3点セットの文書化が強制されているので、とにかく今の業務を文書することからスタートしよう」
という誤解だ。

まず「文書化が強制されている」について半分は当たっているが、必ずしも正確な理解ではない。「内部統制基準」にはこのように書かれている。

「経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果、並びに発見した不備及びその是正措置に関して、記録し保存しなければならない」

また「内部統制実施基準」には次のように書かれている。

「把握された業務プロセスの概要については、必要に応じ図や表を活用して整理・記録するのが有用である。」
「内部統制に係る記録の範囲、形式及び方法は一律に規定できないが、たとえば、以下のような事項を〜(中略)」
「財務報告に係る内部統制について作成した記録の保存の範囲・方法・期間は、諸法令との関係を考慮して、企業において適切に判断されることとなるが、〜(中略)」

「3点セットの文書化が強制されている」とは書いてないことにお気づきだろうか。重要なのは「内部統制の有効性の評価に関する記録と保存」であって、3点セットという形式面にこだわるものではないのである。

さらにはこんなことまで書いてある。

「図や表の例としては、参考2(業務の流れ図、業務記述書)が挙げられる。ただし、これは、必要に応じて作成するとした場合の参考として掲載したものであり、また、企業において別途、作成しているものがあれば、それを利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足り、必ずしもこの様式による必要はないことに留意する。」

記録と保存の方式については企業の置かれた状況に応じて柔軟に判断することができるのみならず、既存文書を流用することも制度では認められている。
(少し補足しておくと、監査の実務サイドからは業務の文書化は実質的に避けられないという事情がある。監査する側にとっては、監査対象となる内部統制が文書になっていないと監査のしようがないということ)

次に
「とにかく今の業務を文書化することからスタートしよう」
という誤解がある。

再度「内部統制実施基準」に立ち戻ると、内部統制の評価プロセスは以下の3つから構成されている。

1)全社的な内部統制の評価
2)業務プロセスに係る内部統制の評価
3)内部統制の有効性の判断

2)については、さらに
決算・財務報告に係る業務プロセスの評価(以下、決算財務報告プロセスの評価と記述)
決算・財務報告以外の業務プロセスの評価(以下、その他プロセスの評価と記述)
に分かれる。

1)では、いわゆる会社全体として整備する内部統制を評価する。これは規程の整備や統制に関連する企業風土などが評価対象となる。

2)では、個々の業務プロセスの有効性を評価する。購買や販売など、業務プロセスごとに個別に評価を行う。

注意したいのは、【1)の結果によって2)の評価範囲が変わること】(より厳密には2)の「その他プロセスの評価範囲が変わること)だ。全社的な内部統制の整備・運用が適切であれば、業務プロセスの評価範囲を合理的な範囲で限定できるのだ。

これは「会社として統制する環境がしっかり整備されていれば、 個々のプロセスについて必ずしも細かくチェックすることは求めない」という趣旨による。つまり、1)の結果によっては「評価しなくてもよい範囲が出てくる」ことになるので、いきなり内部統制の文書化に着手してしまうと【評価しない業務についても文書化してしまう】ことにより無駄な作業をしてしまうリスクがあるといえる。

「とにかく今の業務を文書化することからスタート」することはたいてい「その他プロセスの評価」にあたると思われるが、「とにかく文書化」する前に「全社的統制の評価」に注意されたい。「全社的統制の評価」の結果いかんで、その先の作業量は大きく影響を受けるので、まずはこの作業をしっかり終わらせる必要がある。

文書化における誤解はこれらにとどまらない。まず文書化すべき文書はどれなのか、という点でもさまざまな誤解が生まれているのが実態だ。(つづく)