弁護士辞任のために懲役11年で裁判打ち切り - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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弁護士辞任のために懲役11年で裁判打ち切り

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雑感 業務その他
弁護士の職業倫理に疑問符を投げかけざるを得ない事件が起きました。
弁護士は依頼人の利益を最大限考慮しなければならない専門職業人であるが、
殺人事件の容疑者として高裁に控訴していたにもかかわらず、弁護士が
投げ出してしまったために、裁判自体が打ち切られて無罪を勝ち取る
チャンスがなくなってしまったというのである。
22日9時23分asahi.com記事はこう報じた。

殺人などの罪に問われ、一審で懲役11年の判決を受けて名古屋高裁に控訴
していた男性被告(29)が、弁護人が控訴趣意書を提出しなかったため、
裁判を打ち切る決定(控訴棄却決定)をされていたことが21日、分かった。
被告側は異議を申し立てたが、高裁は17日付で棄却した。
被告側は最高裁に特別抗告ができるが、これも棄却されれば、控訴審が
開かれないまま一審判決が確定する。
被告は無罪を主張していた。

被告は07年11月に大分市出身の津末一守さん(当時55)を殺害し、
遺体を岐阜市の長良川に捨てたとして殺人と死体遺棄の罪に問われ、
昨年11月、岐阜地裁で懲役11年(求刑懲役13年)の判決を受けた。
一審で被告側は「殺害、死体遺棄行為にかかわっておらず、無罪だ」と
主張していた。

関係者によると、弁護人=愛知県弁護士会所属=は控訴後の昨年12月に
選任され、控訴趣意書の締め切りを、当初の1月7日から延長するよう
申請したという。
高裁は締め切りを3月23日に延長したが、弁護人は当日になって再度、
延長を申請。
これを受け、高裁は同30日まで再延長した。
しかし、弁護人は同24日、3度目の延長を申請。
高裁が不許可の決定を出すと、同26日付で弁護人を辞任したという。

高裁は3月31日付で控訴棄却決定を出した。
弁護人は4月になって再度、選任され、控訴棄却決定に対する異議を
申し立てたという。

弁護人は、締め切りの延長を申請した経緯について「ノーコメント」としている。




この弁護士の対応については怒りを覚える。
12月に選任されたとはいえ、被告人の意向を十分に聴取するための時間として
3ヶ月を与えられていながら、2回目の期間延長も期限当日。
3ヶ月の間に何度面会していたかはわかりませんが、職務怠慢を疑われても
致し方あるまい。

依頼人である容疑者の意向を十分に汲めなかったにしても、提出期限の延長が
認められなかったら辞任すれば良いというものではないだろう。

この容疑者が懲役11年の実刑に服さなければならなくなったのは、
この弁護士のせいとしかいいようがない。
これが冤罪だった場合には、どう責任を取るつもりなのか。

弁護人辞任ですむ問題ではなかろう。
日弁連には早急に懲戒処分を含めた処分の検討をお願いしたいものである。

それこそ、弁護士の職業倫理が疑われ、真面目に一生懸命に弱い者のために
頑張っている弁護士の尊厳をズタズタに切り裂いたと言わざるを得ない。

こんな人が弁護士をやっていて、この行動が当然だと思われるのであれば、
弁護士業界の良識を疑わざるを得ない。
司法試験改革でロースクールが生まれ、法曹界の常識がおかしいから
裁判員制度ができたと考えるのは、考えすぎなのだろうか。

法曹界の良識が問われる重大な事件である。

私のような税理士にも同じことが言えよう。
依頼人である納税者から申告書の作成を依頼されても、資料を頂かなければ
申告書の作成は不可能になってしまうが、たとえ資料に不備があっても、
そのために申告書が作れないことを納税者が納得しない限り、一旦、契約を
交わしたのであれば、納期限までに判っている限りの資料に基づいた申告書の
作成をしなければ、契約不履行で訴えられることになる。
いわゆる税理士賠償訴訟であるが、もし契約不履行で期限内申告ができない
場合、期限内申告ができなかったことについての合理的な立証が
できなければ、敗訴することになる。

税理士の場合には、契約解除に合理性が無ければ、契約解除で終わりではなく、
契約不履行の責任を負うのである。
弁護士でも、今回の場合、契約不履行事件そのものではないのか。

専門職業人としての専門家責任は、一般の善管注意義務よりも重いのだから、
契約解除でOKなどと甘いことは言えないはずだ。

上告趣意書を出さないということの意味を被告人に説明をした上での
辞任であれば、被告人にも非があろうが、今回の場合には、弁護士の
一方的な辞任であったとしか思えない。
弁護士であれば、上告趣意書を出さなければ、当然に控訴が認められず、
被告人の権利が保護されなくなることは、十二分に知っていたはずである。

もしそれさえ知らなかったというのであれば、弁護士資格を返上するべき
ではないのか。
そもそも弁護士と名乗るだけの見識も知識も無かったということでしょう。

そうではないと思うから、弁護士業界を揺るがすトンデモナイ事件だと
考えるのである。

隣接分野の専門職業家として、大学法学部の教員として、弁護士業界の
良識を今一度問いたいところである。