満期養老保険金と既に給与として課税された保険料 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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満期養老保険金と既に給与として課税された保険料

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発表 実務に役立つ判例紹介
昨日、東京税理士会の有志でやっている判例研究会で
朝倉洋子先生がこのテーマで発表されました。

非常に変わった事件なので、裁決の射程距離は殆どないのかも
しれませんが、気になる事件だったので、紹介します。

平成20年6月6日非公開裁決(TAINSコードF0-1-310)

事案の概要は次の通り

満期保険金に係る一時所得の計算上、法人が給与として経理処理した
保険料は、受取人が負担した保険料と認められ、収入を得るために
支出した金額に該当するが、それ以外の保険料は、受取人自らが
負担したものとは認められないから、収入を得るために支出した
金額には含まれない。

国税不服審判所は、次のように判断している。

1 本件は、A医療法人の理事長である請求人が、A法人が支払った
満期保険金に係る支払保険料は、一時所得の収入を得るために支出
した金額に該当するとして、一時所得の金額の計算上、当該保険料を
控除して確定申告をしたところ、原処分庁が、支払保険料は、
請求人が支出した保険料とは認められないとして、更正処分等を
行ったのに対し、請求人が同処分等の違法を理由としてその全部の
取消しを求めた事案である。

2 所得税法34条2項に規定する「収入を得るために支出した金額」
について、「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を
生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」としているのは、
一時所得に係る収入に関連して、あるいは収入があったことに起因して
所得者が負担したようなものは収入を得るために支出した金額とする
ものであると解されるところ、このことは、個人を納税義務者とし、
当該個人の収入から支出を差し引いた純所得に課税するという
所得税の本旨からすれば、条理上当然であると認められる。

3 所得税法施行令183条4項においては、所得者自らが負担したと
認められる保険料等に限って「収入を得るために支出した金額」に
算入することとしている。

4 所得税基本通達34−4は、一時金の支払を受ける者(所得者)
以外の者が保険契約者として保険料等を負担した場合も、当該所得者
である使用人が実質的にその保険料等相当額を負担しているときには、
当該保険料等は当該所得者の収入を得るために支出した金額と認める
という趣旨で定められたものと解されている。

5 以上のことから、所得税法34条2項に規定する「収入を得る
ために支出した金額」とは、所得者である請求人自らが負担した金額
(実質的に負担した金額を含む)に限られると解するのが相当である。

6 A法人は、支払保険料のうち、その2分の1の金額を「保険料」
(以下「法人経理保険料」という)として経理処理し、その残額を
請求人に対する「役員報酬」として経理処理していることが認められる。

7 本件支払保険料については、A法人が保険契約者として生命保険会社
に支払っているところ、その経理については、法人経理保険料以外の
保険料は、請求人に対する給与として処理されており、請求人が
負担したと認められるから、この法人経理保険料以外の保険料は、
所得税法34条2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に
該当するが、法人経理保険料は「保険料」として処理されており、
請求人自らが負担したものとは認められず「収入を得るために支出した
金額」に算入することはできない。


つまり、2分の1は会社の経費として処理しているから、個人の必要経費に
ならないが、2分の1は会社が給与として処理しているから、給与でもらって
個人で保険料を支払ったと認めますよ、という趣旨である。

これが国税不服審判所の裁決として出たということは、
このスキームを使っての節税策(租税回避という感が強いですね)が
使えるような気がしないでもない。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。

朝倉先生も発表の中で保険の税務が整理しきれないと言われていましたが、
私も同感です。
この事件も、保険については外資の進出により新しい保険商品がどんどん
開発されているにもかかわらず、課税側は旧態依然のままで、未整理の
法律と通達のみで対応しようとしているところに問題があろう。

本件は、法人税基本通達9-3-4の不備をついたものである。

法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む)
を被保険者とする養老保険(被保険者の死亡又は生存を保険事故とする
生命保険をいい、傷害特約等の特約が付されているものを含むが、9−3−6に
定める定期付養老保険を含まない)に加入してその保険料(令第135条の
規定の適用があるものを除く)を支払った場合には、その支払った
保険料の額(傷害特約等の特約に係る保険料の額を除く)については、
次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。

(1) 死亡保険金(被保険者が死亡した場合に支払われる保険金をいう)
及び生存保険金(被保険者が保険期間の満了の日その他一定の時期に
生存している場合に支払われる保険金をいう)の受取人が当該法人
である場合
 その支払った保険料の額は、保険事故の発生又は保険契約の解除
若しくは失効により当該保険契約が終了する時までは資産に計上する
ものとする。

(2) 死亡保険金及び生存保険金の受取人が被保険者又はその遺族である
場合
 その支払った保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

(3) 死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が
当該法人である場合 
 その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は(1)
により資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。
ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む)
のみを被保険者としている場合には、当該残額は、当該役員又は使用人
に対する給与とする。

と規定されるところ、本件は(3)の逆のケースである。
本件通達は例示であるとされるが、本法にも通達にないケースであれば、
文理解釈が出来ない以上、反対解釈や類推解釈をせざるを得ない。
その結果、租税回避と言いたいような節税スキームが考案されかねない
事態を引き起こすのである。

私は本件については、裁決に批判的である。
なぜなら、死亡保険金の受取は会社で、生存保険金の受取は生存者
である理事長というスキームは、理事長へのボーナスではないか、
という疑いを持つからであり、理事長の法人に対する背任行為では
ないかと疑うからである。

つまり、法人格否認の法理を使えるケースになりかねないと考える。
私はクライアントにこんなリスキーな商品を提供できません。

節税を図ることを標榜していながらなんだ、と言われそうですが、
申告時点で税金が安くなっても、後から税務調査で指摘されて修正
するのでは、加算税や延滞税の無駄払いではありませんか。
結果として適正な節税を行わなければ意味がないと思います。

確かに節税策というのはリスクが伴うのは事実ですが、
リスク回避を考えるのも専門家としての責任ではないでしょうか。
リスク商品を提供する場合には、その効果だけではなく、
そのリスクをきちんと説明して、ご理解して頂いた上で、
クライアントの皆様にご選択して頂くのがあるべき姿でしょう。

自己責任の時代ですから、本質をしっかり見極めたいですね。