米国特許判例紹介:Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性(第1回)

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Alice最高裁判決後の米国ビジネス関連発明の保護適格性

~動画配信サービスの特許保護適格性判断~

米国特許判例紹介

2014年12月16日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

ULTRAMERCIAL, INC.,

Plaintiffs-Appellants,

v.

WILDTANGENT, INC.,

Defendant-Appellee,

 

1.概要

 米国特許法第101条は「新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる」と特許保護適格性について規定している。

 

 特許保護適格性に関しては、これ以上の規定はなく、最高裁判例[1]により、自然法則、物理的現象、及び、抽象的なアイデアの3は、保護適格性を有さないとされている。2014年6月に下されたAlice最高裁判決[2]では、金融問題及びリスク管理に適用される方法クレームが抽象的なアイデアに過ぎないとして米国特許法第101条により無効とされた。

 

 Alice最高裁判決では、最初にクレームが特許適格性のない抽象的アイデアに向けられているか否かを判断し、次いで、クレームの構成要素が、クレームの本質を特許保護適格性のある応用に変換しているか否かを判断している。

 

 本事件ではCAFCにて一旦保護適格性ありと判断されたが、Alice最高裁判決を受け、再びCAFCに差し戻され、保護適格性があるか否かが争われた。CAFCは、クレームされた方法は、通貨として広告を利用する抽象的アイデアに過ぎないとして米国特許法第101条に規定する保護適格性を有さないと判断した。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 Ultramercial, Inc.(原告)は「通信ネットワークを通じた消費者に代わる介入スポンサーによる知的財産ロイヤリティ支払方法及びシステム」と称する米国特許第7,346,545(以下545特許という)を所有している。

 

  参考図1は、545特許の図1である。

 

 参考図1 545特許の図1

 

 545特許は、著作権保護された製品(例えば音楽、映画、本)を、インターネットを通じて配信する方法をクレームしており、消費者が、広告を見る代わりに、著作権保護された製品を無料で受信し、広告掲載者は著作権保護されたコンテンツに代金を支払うものである。争点となった545特許のクレーム1[3]は以下のとおり。

 

1.仲介業者を介したインターネットを通じた製品配信方法において、

コンテンツプロバイダから、知的財産権が保護され購入可能なテキストデータ、音楽データ及び映像データの少なくとも一つからなるメディア製品を受信する第1ステップ;

 

メディア製品に関連する複数のスポンサーメッセージから選択されたスポンサーメッセージを選択する第2ステップ;前記第2ステップは、スポンサーメッセージが先に示された総回数が、スポンサーメッセージのスポンサーにより契約された取引サイクル回数より少ないかを検証するために活動ログにアクセスすることを含み;

 

インターネットウェブサイトにて販売するためにメディア製品を提供する第3ステップ;

 

前記メディア製品への一般公衆のアクセスを制限する第4ステップ;

 

消費者がスポンサーメッセージを閲覧するという前提条件下で、消費者に無償でメディア製品に対するアクセスをオファーする第5ステップ;

 

スポンサーメッセージの閲覧要求を消費者から受信する第6ステップ;前記消費者は、メディア製品に対するアクセスがオファーされたことに応答して前記要求を送出し、

 

消費者からの要求の受信に対応して、消費者に対するスポンサーメッセージの表示を促進する第7ステップ;

 

スポンサーメッセージが対話式メッセージでない場合、前記スポンサーメッセージの表示を促進するステップの後に、前記メディア製品への前記消費者のアクセスを許可する第8ステップ;

 

スポンサーメッセージが対話式メッセージである場合、少なくとも一つのクエリーを消費者に提示し、前記少なくとも一つのクエリーに対する応答受信後に前記消費者に前記メディア製品へのアクセスを許可する第9ステップ;

 

活動ログに対する取引イベントを記録する第10ステップ;該第10ステップは、スポンサーメッセージが提示される総回数をアップデートすることを含み、

 

表示されるスポンサーメッセージのスポンサーから支払を受信する第11ステップ。

 

(2)訴訟の経緯

 原告はHulu,LLC、WildTangent(以下、被告)に対し、545特許のクレーム1を侵害するとして、カリフォルニア州連邦地方裁判所に提訴した。被告は、クレーム1は米国特許法第101条に規定する保護適格性を欠くとして特許無効を主張した。

 

 地裁は、被告の主張を認め、545特許のクレーム1は保護適格性を欠くとして、特許無効との判決を下した[4]。原告はこれを不服としてCAFCに控訴し、CAFCは、クレーム1は抽象的アイデアではないとして地裁の判決を取り消した[5]。しかしその後、Prometheus最高裁判決[6]の影響を受けて当該CAFC判決は取り消され、再び本事件はCAFCにて審理されることとなった。CAFCは再びクレーム1は保護適格性を有するとの判決[7]をなした。

 

 被告はこれを不服として最高裁に上告していた。その後、Alice最高裁判決[8]が下され、最高裁は本事件をCAFCに差し戻し、Alice最高裁判決に基づく審理を行うよう命じた。

 

 

3.CAFCでの争点

争点1:クレームに係る発明は抽象的アイデアか否か

 

争点2:抽象的アイデアとすれば、それを遙かに超える(significantly more)十分な要素または組み合わせを含むか否か

 

 

4.CAFCの判断

 Alice最高裁判決では、以下の2つのステップにより保護適格性の有無を判断しなければならないと判示された。

 

 第1ステップ:クレームが特許適格性のないコンセプト(自然法則、自然現象及び抽象的アイデア)に向けられているか否かを決定する。

 

 第2ステップ:クレームがこれらの特許保護適格性のないコンセプトに向けられていると判断した場合、クレームが「特許保護適格性のないコンセプトそのものを遙かに超えることを確保するのに十分な要素または組み合わせ」を含むか否かを判断しなければならない。

 

結論1:クレームに係る発明は抽象的アイデアである

 545特許は、著作権保護された製品を監視する特別なインターネット及びコンピュータベースの方法をクレームしており、簡単にまとめると以下のステップを含んでいる。

 

(1) 著作権者からメディア製品を受信し、

(2) 各メディア製品に関する広告を選択し、

(3) 前記メディア製品を販売のためインターネットウェブサイトで提供し、

(4) メディア製品に対する一般公衆のアクセスを制限し

(5) 消費者が広告を見ることを条件として前記メディア製品に対する無償アクセスを提供し、

(6) 消費者から広告を見るための要求を受信し、

(7) 広告の表示及び必要とされるインタラクションを広告と共に促進し、

(8) 前記表示及びインタラクション後に、消費者に関連するメディア製品にアクセスすることを許可し、

(9) 活動ログにおける取引を記録し、

(10) 広告主からの支払を受信する。

 

 この順番での組み合わせステップは、抽象的概念に言及しており、特別なコンクリートまたは有形の形態を有していない。

 

 著作権のあるメディアを受信し、広告を選択し、選択された広告を見ることとの引き替えにメディアをオファーし、広告を表示し、消費者にメディアにアクセスさせ、広告主からの支払いを受信する処理は、全て抽象的な概念であり、コンクリートまたは有形の適用ではない。

 

 第2ステップは特殊性の度合いを追加しているが、その他のステップの大部分により具現化された概念は、無料コンテンツの配信前の広告を示す抽象的アイデアだけを記述している。

 

 Alice最高裁事件で、最高裁は、ある程度ではあるが、全ての発明は、自然法則、自然現象または抽象的アイデアを具現化し、使用し、反映し、基礎を置き、または適用するものであると述べた。

 

 CAFCも、この点認識しており、全てのソフトウェアベース特許のクレームが、必ずしも抽象的アイデアに向けられているわけではなく、将来の事件では、異なる結果となるかもしれないと述べた。

 

 しかしながら、545特許のクレームは、実際に抽象的アイデア、すなわち地裁が判断したように、交換品または通貨として広告を使用する方法に向けられている。

 以上の理由によりCAFCは、クレーム発明は抽象的アイデアであると判断した。

 

⇒第2回へ続く



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[1] Diamond v. Chakrabarty, 447 U. S. 303, 308 (1980)

[2] Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 134 S.Ct. 2347 (2014),

[3] 545特許クレーム1:A method for distribution of products over the Internet via a facilitator, said method comprising the steps of:

a first step of receiving, from a content provider, media products that are covered by intellectual property rights protection and are available for purchase, wherein

each said media product being comprised of at least one of text data, music data, and video data;

a second step of selecting a sponsor message to be associated with the media product, said sponsor message being selected from a plurality of sponsor messages, said second step including accessing an activity log to verify that the total number

of times which the sponsor message has been previously presented is less than the number of transaction cycles contracted by the sponsor of the sponsor message;

a third step of providing the media product for sale at an Internet website;

a fourth step of restricting general public access to said media product;

a fifth step of offering to a consumer access to the media product without charge to the consumer on the precondition that the consumer views the sponsor message;

a sixth step of receiving from the consumer a request to view the sponsor message, wherein the consumer submits said request in response to being offered access to the media product;

a seventh step of, in response to receiving the request from the consumer, facilitating the display of a sponsor message to the consumer;

an eighth step of, if the sponsor message is not an interactive message, allowing said consumer access to said media product after said step of facilitating the display of said sponsor message;

a ninth step of, if the sponsor message is an interactive message, presenting at least one query to the consumer and allowing said consumer access to said media product after receiving a response to said at least one query;

a tenth step of recording the transaction event to the activity log, said tenth step including updating the total number of times the sponsor message has been presented;

and

an eleventh step of receiving payment from the sponsor of the sponsor message displayed.

[4] Ultramercial, LLC v.Hulu, LLC, No. CV 09-06918 RGK, 2010 WL 3360098, at *6(C.D. Cal. Aug. 13, 2010)

[5] Ultramercial, LLC v.Hulu, LLC, 657 F.3d 1325 (Fed. Cir. 2011)

[6] Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 132 S.Ct. 1289 (2012)

[7] Ultramercial, LLC v. Hulu, LLC, 722 F.3d 1335 (Fed. Cir.2013)

[8] Alice Corp. v. CLS Bank International, 573 U.S. __, 134 S. Ct. 2347 (2014).

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