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対象:特許・商標・著作権
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中国悪意登録商標に対する著作権の活用
~著作権の存在により先取り登録商標の取り消しに成功した事例~
中国商標判例紹介(6)(第1回)
2014年7月8日
執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁
米国NBA産物株式有限公司
原告(一審原告)
v.
国家工商行政管理総局商標評審委員
被告(一審被告)
1.概要
中国においては商標の第三者による先取りが問題となっている。一般に第三者の先取りに対しては中国商標法第32条に基づく異議申し立てまたは無効宣告請求を行う。中国商標法第32条の規定は以下のとおりである。
中国商標法第32条
商標登録の出願は先に存在する他人の権利を侵害してはならない。
中国商標法第32条における先に存在する他人の権利には著作権が含まれており、第三者の先取りに対しては著作権を主張して異議申し立てまたは無効宣告請求を行う事が可能である。
しかしながら、第三者の出願前に確かに著作権が発生していたこと及び著作権者を立証することが必要であるところ、現実には証拠不十分であるとして認められないことが多い。
本事件において評審委員会及び北京市第一中級人民法院は証拠不十分として著作権の発生を認めなかったが、北京市高級人民法院は、原告の商標権の存在及び他の証拠から著作権の発生を推定し、商標を取り消す判決をなした。
2.背景
(1)出願商標の内容
訴外第三者広東省東莞市長安華歆ビーフステーキレストランは、2001年6月4日に国家工商行政管理総局商標局(商標局)に第1957268号商標(268商標)を出願した。
268商標の指定役務は、第42類レストランサービスであり、ロゴは以下のとおりである。
268商標は、2002年7月14日に予備的査定され公告された。
(2)商標局に対する異議申し立て
米国NBA産物株式有限公司(原告)は268商標に対し異議申し立てを行った。原告は、第1037925号以下に示す“CHICAGO BULLS及び図”商標(以下、引用商標[1])の商標権者である。
引用商標は、1995年12月19日に申請され、1997年6月21日に登録された。指定役務は、第41類娯楽、スポーツ活動サービス等である。引用商標は更新手続きを経ており、存続期間は2017年6月20日までである。なお、268商標の指定役務と引用商標の指定役務とは非類似である。
原告の登録異議申し立てに対し、商標局は、原告の異議理由は成立しないとして、268商標についての登録を認めた[2]。原告は当該決定を不服として評審委員会に審判請求を行った。
(3)評審委員会での審理
原告の主張内容は以下のとおりである。
原告の“ブルズ図形”商標は、中国を含め全世界で広く使用され、また登録されており,世界的によく知られた商標である。268商標は、原告の先登録商標及びシカゴブルズチームのチームマーク“ブルズ図形”の剽窃であり,その登録及び使用は、消費者に誤認混同をもたらし、消費者及び原告の合法権益を害することとなり,商標法第13条(馳名商標の保護)の規定に反する。
原告商標中の“ブルズ図形”は美術作品に係る著作権を有しており,268商標は原告が享有する先権利を害し,同時に不正な手段で他人がすでに使用しかつ一定の影響を有する商標を先取りしており,商標法第32条の規定に反する。
原告は当該主張と共に以下の証拠を提出した。
(i)米国NBAバスケットボールプロリーグ29チームのチームマークに係る英文資料コピー。当該証拠中には、シカゴブルズチームのマーク“ブルズ図形”が含まれている。
(ii)原告“ブルズ図形”標章に係る中国の部分商標登録証コピー。これには:第746751号ブルズ図形商標(第16類)、第1059939号“CHICAGO BULLS及び図”商標(第9類)、及び、第1037925号“CHICAGO BULLS及び図”商標(第41類)等が含まれる。
(iii)“ブルズ図形”標章が実際に使用されていた情況を示すシカゴブルズチームの英文HPプリントアウト。
(iv)その他の商標公告情報コピー及び商標局異議裁定書コピー等
当該原告の主張に対し評審委員会は以下のとおり判断した。
商標法第32条にいう“先権利”は著作権を含む。挙証責任分配の原則に基づけば,ある作品に対し著作権を享有すると主張する当事者は、相応の挙証責任を負う。本案において、証拠は原告が“ブルズ図形”商標の権利者であることを示すことができるかもしれないが、商標権の帰属は必ずしも登録商標図形作品の著作権の帰属を必然的に示すものではない。
原告が、268商標の申請日よりも先に形成された先権利を享有するという証拠証明を十分に提供することができないという状況下では,原告の268商標の申請登録がその著作権を侵害するという理由は成立しない。
原告は評審委員会の判断を不服として北京市第一中級人民法院へ提訴したが、北京市第一中級人民法院は、評審委員会の判断を維持する判決をなした。原告はこれを不服として北京市高級人民法院へ上訴した。
⇒第2回に続く
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[1] なお、“CHICAGO”部分について原告は商標の専用権を放棄している。
[2] (2006)商標異字第02077号
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