早わかり中国特許:第37回 中国特許民事訴訟の基礎 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第37回 中国特許民事訴訟の基礎

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年6月20日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2014年6月号掲載)

 第37回 中国特許民事訴訟の基礎

 

1.概要

 第36回に引き続き中国における特許民事訴訟について解説する。

 

2. 特許無効宣告により遡及効を有さない場合

 特許権の無効を宣告した決定は、特許権無効宣告前に既に人民法院が下し、かつ、執行した特許権侵害判決、調解書、既に履行または強制執行を行った特許侵害紛争の処理決定、ならびにすでに履行された特許実施許諾契約及び特許権譲渡契約に対しては、原則として遡及力を有しない(専利法第47条)。判決確定後に特許が無効宣告される場合があるが、悪意のある場合を除き、訴訟経済、当事者間の訴訟負担を軽減すべく、原則として遡及力を有しない旨規定したものである。

 

 ここで、専利法第47条における「特許権無効宣告前」とは、復審委員会における無効宣告審査決定日をいい、復審委員会が無効宣告請求決定書を発送した日、または特許権者が同決定書を受領した日でもない点に注意すべきである。「特許権無効宣告前」が正確に何時かが問題となった判例を紹介する。

 

3.事例紹介

(1)概要

 無効宣告請求により特許が無効となった場合、特許権は初めから無かったものとみなされる(専利法第47条)。ただし、専利法第47条第2項では、判決が確定し既に執行が完了していた場合は、一定条件下で遡及効を発生させないことにより、紛争の蒸し返しを防止せんとしている。専利法第47条第2項は以下のとおり規定している。

 

専利法第47条第2項

 特許権の無効の決定は、特許権が無効とされる前に人民法院が言い渡しかつすでに執行した特許権侵害の判決、調解書、すでに履行又は強制執行された特許権侵害紛争の処理決定、ならびにすでに履行された特許実施許諾契約及び特許権譲渡契約に対しては、遡及効力を有しない

 

 専利法第47条第2項では「無効とされる前に」と規定しているが、無効宣告請求の決定日、決定書の発送日、または決定書の到達日のいずれであるかは明確ではない。

 

 本事件では決定日の次の日が執行完了日であり、当該執行が、専利法第47条第2項の「無効とされる前」の執行に該当するか否かが問題となった。最高人民法院は、遡及力を発生させる基準となるのは決定日であるとする判決をなした[1]

 

(2)背景

(i)特許の内容

 2004年2月6日喬宏岳は、国家知識産権局に「マイクロキャタピラースマート型農業用機械」と称する実用新型特許申請を行った。2005年2月16日国家知識産権局は、喬宏岳に実用新型特許権を付与した。特許番号はZL200420041558.6(以下、558特許という)である。

 

 2005年3月7日秦豊公司(原告)と喬宏岳は《特許権譲渡契約》を締結し、本案特許を原告の所有とし、原告により年金が支払われた。2005年4月22日国家知識産権局は本案特許権譲渡により登記を行った。

 

(ii)訴訟の経緯

 2007年原告は市場において、東明公司(被告)が生産する1YG-7.5型リモコンマイクロ農機(以下、イ号製品という)が本案特許権を侵害するとして、被告に警告書を送付した。被告はこれに応じることなく大量生産及び販売を行い、かつメディア上に宣伝を行った。原告は、侵害行為の即時停止及び損害賠償144万元(約2,300万円)等を求めて陝西省西安市中級人民法院に提訴した。

 

 被告はこれに対し、復審委員会に無効宣告請求を行った。2008年9月27日特許復審委員会は第12379号無効宣告請求審査決定をなし、本案特許請求項1、4、5、6は無効、請求項2、3は有効と判断した。当該決定がなされた後、規定期間内に双方は行政訴訟を提起しなかった。

 

 その後一審法院は審理を再開し、イ号製品は558特許を侵害すると判断し、イ号製品の販売差し止め及び15万元(240万円)の法定賠償を被告に命じる判決をなした[2]。被告はこれを不服として陝西省高級人民法院に上訴した。

 

(iii)第2回無効宣告請求

 2009年6月22日、訴外陝西金之誠包装材料有限公司は特許復審委員会に本案特許権の無効宣告請求を行った。2010年1月21日、特許復審委員会は第14443号無効宣告請求審査決定をなし、既に効力を発した第12379号無効宣告審査決定の有効を維持し、請求項2、3は有効と判断した。陝西省高級人民法院は一審判決を維持する判決をなした[3]

 

(iv)第3回無効宣告請求と再審請求

 その後、さらに第3回目の無効宣告請求が、復審委員会に提出された。2011年3月25日、復審委員会は第16225号無効宣告請求審査決定をなし、秦豊公司の本案特許権を全部無効とした。

 

 専利法第47条第1項の規定に基づき、無効宣告された特許権は始めから存在しないものとみなされる。そのため原一、二審判決が認定した被告が特許権侵害を構成するという前提は存在しないこととなる。同時に、本案特許権第16225号の無効宣告決定をなした際、本案原一、二審判決は未だ執行を終えておらず、第16225号決定は原一、二審判決に対しても遡及力を有する事となる。被告は、民事訴訟法第179条第1項第(一)の規定に基づき再審を申請した[4]

 

(v)一審及び二審判決の執行

 被告が請求した本案特許無効宣告に対し、復審委員会は第16225号決定をなし、本案特許権を全部無効とした。第16225号決定の決定日は2011年3月15日であり、発送日が3月25日、郵便を通じて秦豊公司に到達した日時は2011年4月3日である。秦豊公司は第16225号決定を不服として、北京市第一中級人民法院に行政訴訟を提起したが、2011年9月20日、北京市第一中級人民法院は第16225号決定を維持する判決[5]をなした。原告は、当該維持判に対し法定期限内に上訴しなかったため、該判決は既に法律効力を生じている。

 

 2011年3月9日、原告の強制執行申請に応じて、陝西省西安市中級人民法院は被告の中国農業銀行有限公司礼泉県支店の口座の内155468.00元(約250万円)を凍結した。2011年3月16日、陝西省西安市中級人民法院は執行行為を終え、(2011)西執民字第38号民事裁定をなし、本案一、二審判決の執行を終結する裁定をなした。

 

 

続きは、月刊ザ・ローヤーズ20146月号をご覧ください。




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[1] 最高人民法院2012年11月20日判決 (2012)民提字第110号

[2] 陝西省西安市中級人民法院2009年6月5日判決 (2008)西民四初字第18号

[3] 陝西省高級人民法院2010年11月3日判決 (2009)陕民三終字第52号

[4] なお、中国民事訴訟法第179条は2012年の改正により第200条へと改められた。

第200 条(再審事由)

当事者の申立が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、人民法院は、再審をしなければならない。

第1号 新たな証拠があり、原判決、裁定を覆すのに足りる証拠

[5]北京市第一中級人民法院2011年9月20日判決 (2011)一中知行初字第2148号

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