債権回収はどのようにすればいいのか - 民事事件 - 専門家プロファイル

鈴木 祥平
弁護士
東京都
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対象:民事家事・生活トラブル

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債権回収はどのようにすればいいのか

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長年に渡る不況が続いていることもあり、どこの企業も資金繰りが難しくなってきたのでしょうか、「商品を納めたのに買主が代金を支払ってくれない」、「工事を請負ったのだけど、注文者が代金を支払ってくれない」などという債権回収のトラブルが多く発生しています。いくら支払いを強く迫ったところで、開き直られてしまえば効果的な回収を図ることはできません。その場合には、弁護士を介入させることにより、債権回収を図ることがありますが、弁護士が債権回収をする際に執る手段として、一般的な手段としては、以下の方法があります。

 (1)  弁護士が取引先に電話連絡をするなどして催促する方法

債権や売掛金が回収できない場合は、多くの会社では、弁護士に相談する以前に、自分達で電話や面談による催促を行っていると思いますが、払わない取引先はのらりくらりと支払いを延ばしていることが多くあると思われます。

しかし、弁護士が受任通知を送付し、電話や面談で交渉することによって、取引先の反応が変わることがあります。弁護士が介入して支払いを求めることで取引先にこちらの本気度が伝わって支払ってもらえる場合もあります。

(2)弁護士が(弁護士名義)で「内容証明郵便」を送付し、催促・督促する方法

債権回収の手段として「内容証明郵便」を送付するということは、多くの会社でも行われている手段であると思います。弁護士を依頼するまでもなく、弁護士に依頼しなくても、自ら、売掛金等を請求する内容の「内容証明郵便」を作成してこれを相手方に送付することもできます。

しかし、会社が会社名で「内容証明郵便」を送付した場合、「相手方に対する強制力」はさほど強くありません。債権回収を実現するためには、「支払わなければマズイ」と相手方に思わせなければなりません。

内容証明を送られて来ることに慣れている業者などは、「内容証明郵便」が届いたくらいでは「支払わなければマズイ」と思うことはないでしょう。

これに対して、弁護士が弁護士名で内容証明郵便を送付した場合、取引先は「このまま支払わないでいると訴訟を提起されるかもしれない」(=「訴訟リスクの顕在化」)と考え、支払いに応じる可能性が高くなります。

実際、弁護士が作成する「内容証明郵便」には、「期限内に支払わなければ法的措置を講じる」と必ず記載しますので、相手方は、「支払わないとマズイ」と思う可能性が高くります。弁護士名義での「内容証明郵便」は、相手方に「支払わないとマズイ」と思わせるという意義があります。

例えば、売掛金が多く発生する取引が多い場合には、個別案件ごとに弁護士に委託するのではなく、「弁護士と業務委託契約を締結した上で、一定の期間を経過した売掛金については、すべて弁護士に債権回収を委託するなどの方法を取る」ということも一つの手であると思います。

「この会社は、支払いを怠ると弁護士がすぐに出てくる」ということが相手方に伝われば、支払いをのらりくらりと引き延ばすという態度を取ることはなくなると思われます。弁護士と債権回収の業務委託契約を締結することで、個別案件ごとに依頼をした際に1件あたりにかかる債権回収のコストを低額に抑えることができるというメリットがあります。

 悪質な業者になると、債権額が低い金額であれば、「法的手続を取るコスト」と「回収できる金額」が見合わないことを逆手にとって、のらりくらりと支払いを引き延ばす業者もいます。

(3)民事調停手続を利用する方法

「調停」は、「裁判所を利用した話合いの手続」です。弁護士に依頼しなくても、ご自身で調停の申立を行うことも可能です。しかし、調停は「裁判所を利用する手続き」であるとはいえ、あくまで話し合いの手続ですから、相手方が任意に裁判所に出頭しなければ成立しません。

また、このような手続に慣れている狡猾な相手になると、不当な引き延ばしを行うこともあり、さほど実効性がない恐れがあります。

これに対して、弁護士に依頼して弁護士名義で調停を申し立てた場合には、「相手方に、裁判所へ出頭しなければならない」、「調停で話を付けないと次は訴訟になってしまう」(=「訴訟リスクの顕在化」)という気持ちが芽生えやすくなるといえるでしょう。

 (4)支払督促手続を利用する方法

「支払督促手続」とは、「支払督促」(=金払えという書面)という書類を裁判所から相手方に送付して貰い、相手方の反論がなければ、「支払督促」に記載された「債権を公に認めてもらう」ことができるという制度です。「債権を公に認めてもらった」からといってもそれだけで支払いをしてもらえるというわけではありません。「権利を公に認めてもらった書類」のことを「債務名義」といいます。

この「債務名義」があると、「強制執行」をすることができます。「強制執行」とは、語弊をおそれずに言うと、「国家権力(=司法権力)によって債務者の財産を強制的に売り払って現金に変えて(=競売手続)、その現金から債権を回収する(=配当を受ける)制度」(※債権執行の場合には、債務者が持っている第三者に対する債権を代わりに回収するという「取立て」の方法もあります。)のことを言います。

「債務名義」を得た上で強制執行をかけることで債権を回収することが可能です。「債務名義」を得られると強制執行をされてしまうから、それを避けるために強制執行に至る前に任意に支払ってくれる場合もあります。

(5)「少額訴訟手続」を利用する方法

「少額訴訟」とは、60万円以下の金銭の支払を請求する訴訟を提起する際に求めることができる特別な訴訟手続です。「通常訴訟」と違う大きな点は、原則として審理を1回のみで終わらせて直ちに判決を行う手続であるというところです。

しかし、「少額訴訟」も、相手方が応じず、「通常訴訟」への移行を求めた場合には、「通常訴訟」へ移行されてしまいますので、時間を浪費するおそれがあります。また、「少額訴訟」によってなされた判決に、相手方が異議の申し立てをすることは可能です。 

(6)「訴訟手続(通常訴訟)」を利用する方法

「訴訟手続(通常訴訟)」は、債権・売掛金を回収する方法としては正攻法の手段といえます。「訴訟手続(通常訴訟)」については、審理に時間がかかるという印象をお持ちの方も多いかもしれません。

ただ、①「争いが無い事案の場合」や、②「相手方が欠席した場合」については、第1回目の裁判期日終了後直ちに判決が出るということもあります。

また、③「相手方が裁判期日に出頭した場合」でも、「事実関係を争うことなく一括では支払えないので、分割払いにして欲しい。」等と和解の申し入れをしてくるケースも多いので、直ちに「判決」とはいかないにしても、「裁判上の和解」が成立する場合もあります。「裁判上の和解」が成立した場合には、その際に作成する「和解調書」も「債務名義」(=権利を公に証する文書)になりますので、和解の約束を守らない場合には、「強制執行」をすることができます。ですから、「判決」をもらうのも、「和解調書」をもらうのも「強制執行」をするという点においては、同じです。

「裁判上の和解交渉」がまとまらないときはいつでも「和解交渉」を打ち切って、早期に「判決」を貰うことができます。また、相手方の住所が判明しない場合でも、「公示送達」制度を利用することにより、「判決」を貰うことが可能です。

 (7)強制執行手続を利用する方法

 「訴訟」は何のためにするのかというと、「判決」を裁判所に出してもらうためです。なぜ「判決」を出してもらうのかというと、「判決」は、「債務名義」と呼ばれ、「権利を公に認めてもらった書類」です。「権利を公に認めてもらう」ことで初めて「強制執行」をすることができるわけです。「判決」は、「強制執行」をするために取得するわけです。

「強制執行」とは「国家権力(=司法権力)によって債務者の財産を強制的に売り払って現金に変えて(=競売手続)、その現金から債権を回収(=配当を受ける)する制度」(※債権執行の場合には、債務者の代わりに取り立てて回収できます。)をいいます。

 「強制執行」には、大きく分けて、①「不動産執行」(=債務者の不動産を強制的に売り払って現金に変えてそこから回収する方法)、②「動産執行」(=債務者の動産を強制的に売り払って現金に変えてそこから回収する方法)、③「債権執行」(=債務者の代わりに債権を取り立ててそこから回収する方法)の3種類があります。

一般の会社において「強制執行」をするといえば、そのほとんどが③「債権執行」です。そして、その「債権執行」の中心は、「銀行預金の差押え」といえます。

「銀行預金を差押え」れば、「回収すべき金額の範囲内である限り、差押時の預金残高をそのまま回収する」ことができます(但し、銀行が、売掛先に、貸付を行っている場合には、相殺を理由に、預金残高を回収できないこともあります)。

また、相手方が企業であれば、仮にその口座にほとんど預金がなかったとしても、営業に重大な支障が生じるため、任意に代金を支払わせることができる場合があります。

また、相手方(債務者)が債権を有している相手方の取引先等の第三債務者が判明している場合には、相手方の有する当該債権を差押えることもできます。

相手方は、自らの取引先からの信用を失いたくないとの理由から、差押後に任意に支払ってくる可能性もあります。このように、強制執行手続は債権回収における最後の手段として非常に有効です。

 (8)仮差押え等の保全処分を利用する方法

売掛金の支払いを怠るような相手方ですと、業績が悪化しているなどの理由で、売掛金の回収の原資となりうる資産が、流出してしまう可能性が高いこともあります。

このような場合には、「訴訟」を提起して、「判決」が出たとしても、「強制執行」が可能になったときには、「強制執行」をかける対象となる財産がなくなっていたという可能性もあります。

「判決」を得たとしても、「強制執行」をかける対象財産(=「責任財産」といいます。)がなければ、その「判決」は「単なる紙切れ」になってしまいます。 

このようなことを避けるためには、訴訟を提起する前に「債務者の財産」をキープしておく必要があります。キープするとは、「債務者が勝手に処分できないようにする」(=保全(仮差押え))という意味です。

もっとも、仮に差し押さえるためには、裁判所に、「保証金」として、一定額の金銭を供託する必要があります。仮差押えの結果、債務者との話し合いがスムーズに進み、訴訟までしなくとも支払ってもらえるなどの解決に至るケースもあります。

 

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