第3章 苦い後味 ? - 民事事件 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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第3章 苦い後味 ?

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  1. 暮らしと法律
  2. 民事家事・生活トラブル
  3. 民事事件
連載「刑事法廷」
ケース2 ある常習窃盗事件

第1回

 今回から紹介する事件は、今まで紹介してきたものとは異なり、私自身無罪を信じていいものやら悪いものやら、なんとも奇妙なものだったのです。
 この事件もまた国選弁護事件でした。被告人はNという初老の男性で、常習累犯窃盗罪で起訴されたものです。その年の6月に電車の終点T駅にて深夜、停車中の電車内で眠っている乗客の懐中物(手帳など3点、時価合計300円)を盗んだということでした。
 私はそれまでの経験で、窃盗を繰り返して常習犯として起訴された被告人を何人も担当してきましたが、それらの被告人に共通しているのは、刑務所での服役を終えて出所しても家族からは見放され、仕事もなく、手持ちのお金をすぐに使い果たし、困ったあげくにまた窃盗をしてしまう、というお決まりのコースを辿っていることです。本人は悪いということを重々承知でありながらも、どうにもならないのです。
 そのため、起訴状を読んで前科を知った段階で私は既にそのような先入観に捉えられていました。ところが、初めて接見したNは、今回のことはやっていない、と言うのです。当日はT駅のホームを歩いていると、向こうから顔見知りの警官がやってきて、いきなり腕をつかまれ逮捕された、自分のような窃盗のプロは手帳など盗まない、当時は貯金が50万円以上あり盗みをする必要もなかった、などと訴えてきました。しかしどうせ自分の言い分は聞いてもらえないから公判では罪を認めて刑を軽くしてもらおうと思う、とも言っていました。