『新・裁判実務体系21 会社更生法・民事再生法』青林書院 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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『新・裁判実務体系21 会社更生法・民事再生法』青林書院

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『新・裁判実務体系21 会社更生法・民事再生法』青林書院
2005年、本文約520頁。
会社更生法については、22項目、約278頁、金融機関更生特例法については、1項目である。合計約286頁である。会社更生法に関する論考が、本全体の約55%を占めている。
民事再生法に関しては、19項目、約234頁である。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
Ⅰ 会社更生法
「1 会社更生手続の実務の概要―東京地裁」
 東京地方裁判所民事第8部における会社更生事件の手続の概要について、述べている。
「3 会社更生手続の選択基準」
 再建型倒産手続を選択するポイントは、減価償却費と通常支払うべき利息を差し引いた後、また、保全処分により、取引先の買掛金・リース料等の通常支払うべき支払いを停止するので、その上で、1・2か月間の資金繰りができるかどうかにかかっている。
ただし、臨時の出費として、従業員の最後の給料6か月分と退職金を支払う必要がある。また、後述する裁判所への予納金、申立てする弁護士費用が必要である。
また、倒産手続を取ることにより、取引が中止されたり、銀行等の預金が相殺されるなど、通常であれば、入金予定のものがなくなることも多い。
上場企業であれば、キャッシュ・フロー計算書を作成しているが、上記のとおり、通常支払うべきものを支払わない前提なので、異なっている点に注意が必要である。
 再建型倒産手続を選択するとして、会社更生手続を選択するポイントとして、以下の点が挙げられる。
(1)株式会社であること
(2)企業が大規模であること 
(3))経営者の交替の必要があること。原則として、会社更生手続では、旧経営陣は退陣し、保全管理人・管財人に財産管理処分権が専属する。また、役員の損害賠償責任査定がされる場合がある。
会社更生法の改正により、役員の損害賠償責任査定がされるおそれのある取締役は、管財人になることができないとされた。上記のおそれがない場合には、旧経営者が引き続き経営を続けることができる(いわゆるDIP型)。DIP型の管財人の実例も少数ながらあるが、会社更生手続が成功した実例ではないようであり、今後の事例の集積を待たなければならないであろう。
 旧・会社更生法では、法律管財人には弁護士、事業管財人にはスポンサー企業から派遣された有能な経営者(更生会社の旧・経営者ではない)がなる実例が多く、法律が改正されても、裁判所としては、そのほうが手堅いと判断する場合も多いであろう。
(4)株主の交替の必要があること。会社更生手続では100%減資が通例である。すなわち、会社のオーナーが変わる。
(5)民事再生手続で経営者・株主を温存しようとして、不正行為等がある場合には、債権者の反発が強い場合には、会社更生手続、または、清算型手続(破産など)に移行する場合が多い。
(6)債権者の数が多いこと。
債権者が少数であれば、または、小口の債権者が多数の場合でも、民事再生手続でも対応できる。また、民事再生手続では、再生計画案の可決に、債権者の頭数の過半数および議決権総額の過半数が必要である。債権者の頭数を要件とした立法趣旨は、民事再生手続の債務者が中小企業が想定されており、多額少数の債権者(例えば、メインバンク)の意向だけでなく、比較的少額で多数の債権者(例えば、商取引の債権者)の意向を反映させるためである。
しかし、債権者が多数で、例えば、社債を発行している場合、資産等を証券化している場合など、債権者の意向を説得したりコントロールすることが困難な場合には、会社更生手続を選択する。会社更生手続では、債権者の頭数の要件はなく、議決権総額だけが基準である。
(7)事業譲渡
 債務超過の場合、株主総会の特別決議なしに、裁判所の許可により、事業譲渡できる。この点は、要件の違いはあるが、破産法、民事再生法、会社更生法でも同じである。
 近時は、会社更生手続で事業譲渡して、事業譲渡代金を弁済原資として一括弁済し、更生会社は清算してしまう手法が主流である。
 なお、従来は、将来の収益を弁済原資として、長期間弁済していくのが、会社更生手続であった。景気が好況で物価がインフレ傾向の時代は、それでも良かったであろう。しかし、それでは、不況で、スピードの速い時代の変化についていけず、将来の不確実な収益を弁済原資としているので、更生計画の変更を余儀なくされる更生会社の事例も多かった。債権者としても、手続開始から約1年以内の一括弁済のほうが、確実で実益があり、賛成を得られやすい。
これらの点を要約すると、会社更生手続は、厳格な手続を伴うM&Aと考えてもよい。
(8)担保権実行を阻止すること
 民事再生、破産ともに、担保権は別除権であり、別除権の受戻し、または、担保権消滅請求制度を利用しない限り、制約できないが、前提として、弁済原資ないし担保権目的物の売却できる見込みが必要である。
 会社更生手続では、手続内で弁済原資が手元にない状態でも、担保権は更生担保権として、制約される。
 なお、競売等の実行中止命令、担保権消滅請求制度は、いずれの手続にもあるが、担保権が実行されても、保証金なしに担保権の実行を阻止できるのは会社更生手続だけである。
(9)退職金のカット
従業員の最後の給料6か月分と退職金のいずれか多い額を共益債権として、その余は優先的更生債権として、支払う必要がある。
会社都合と定年退職の退職金については、全額、共益債権になる。
(なお、破産の場合の財団債権は、最後の給料3月間分に相当する分だけである。これは、破産が清算型倒産手続であり、弁済原資に乏しいからである。)
(10)裁判所への予納金
 会社更生手続の裁判所への予納金は、最低でも1千万円以上から数千万円とされる。
 民事再生手続の裁判所への予納金は、最低でも数百万円とされる。
 破産手続の裁判所への予納金は、少額管財手続の場合には、20万円である。
 その他、官報公告費用、債権者・管財人等への連絡用として、郵便切手の予納が必要である。
 それ以外に、申立てをする弁護士の弁護士費用・実費が必要である。
(11)簿外債務
 M&Aする場合、民事再生手続では失権しない場合があるが、会社更生手続では債権届出がないと、失権する。
 担保権については、民事再生手続では失権することはないが、会社更生手続では失権する場合もある。
 ただし、例外的に、会社が消費者金融の場合、利息制限法は公序の一部をなすことを理由に、利息制限法違反の超過利息による不当利得返還請求権は、失権しない。
 会社更生手続の場合には、スポンサーから見れば、簿外債務の危険が最も少ない。
(12)企業価値の毀損
 倒産手続をとった場合、商取引・銀行取引が中止されたりして、会社の企業価値が毀損する。企業価値が毀損されて、経営者・資本が交替しても、あるいは事業譲渡しても、事業が再建できる場合に、会社更生手続を利用するメリットがある。
(13)インサイダー取引
 倒産手続を取ることは取引に悪影響をおよぼすので、倒産手続申立て前に、倒産情報が広まることは避けなければならない。
 ことに、会社更生手続を取る企業が上場企業の場合には、金融商品取引法で規制されているインサイダー取引が生じないように、注意を要する。
「5 会社更生手続への移行」
倒産手続のうち、いずれの手続を選択するかは、第1次的には、申立てをする債務者または債権者等の判断による。
 倒産法では、法律上では優先順位が、会社更生手続、民事再生手続、破産手続の順に定められている。しかし、実際には、各手続の特徴と、具体的な事案に応じて、最終的には裁判所で判断される。
 再建型倒産手続の民事再生手続から会社更生手続へ移行する、あるいは移行させられるポイントについて論じている。
 移行する場合は、再生債務者である株式会社が、会社更生手続開始の申立てをすることである。
 移行させられる場合は、債権者が会社更生手続開始の申立てした場合、裁判所が会社更生手続のほうがより適切と判断した場合である。

「8 会社更生手続におけるスポンサー」
・スポンサーへの事業譲渡、会社分割の手法
事業譲渡の場合、更生会社がスポンサーに事業譲渡した代金をスポンサーから受取る。更生会社は、事業譲渡代金を弁済原資として、債権者に対して、一括弁済する。
 会社分割の場合、スポンサー企業は、分割される事業部門の受け皿として新設した会社に出資し、更生会社は。事業、従業員を新設会社に承継させ、新設会社の株式を取得する(物的会社分割)。スポンサーは、更生会社の保有する新設会社の株式を買い取る。その買取り代金をもって、更生会社は、債権者に対して、一括弁済する。
・スポンサーの必要性
 会社更生手続の申立てを行ったことが判明すると、銀行等の取引が停止され、ほぼ全ての仕入れ先等の取引先が現金決済を要求する。運送業者・倉庫業者が留置権を主張して、製品・商品の引渡しを断られる。販売先等からは、信用不安、今後の取引が継続できるかの不安から、取引を断われることが多い。競業会社に従業員が引き抜かれてしまうことも多い。信用不安、従業員流出とともに、更生会社のノウハウ・顧客も、競業他社に奪われてしまうことがある。
 会社更生手続申立ての際に、ある程度、スポンサーがいて、資金や今後の事業継続のメドが立っていれば、このような事態を避けることができる。
・保全管理人の場合
 会社更生手続開始前に保全管理人にとって最も重要な職務の一つは、スポンサー企業探しである。会社更生手続の申立てが公表された後は、スポンサー探しは、申立て前より、公けにしやすいが、前記のとおり、信用不安等が生じている。
 保全管理人がスポンサーを選定し、スポンサーから事業管財人の派遣を決めて、裁判所の会社更生手続開始決定に至った例も多い。
・スポンサー選定の方法
 M&Aの場合、公開入札(オープン・ビッド)によるべきという法律はないから、会社更生手続の場合に公開入札によるべき必要性はない。会社更生手続の申立ては密行性があるから、スポンサー候補に対する情報開示も限定される。
デューデリジェンスの際に必要な原価に関する情報、顧客情報、取引先との契約内容、知的財産権に関する情報等の企業秘密については、開示できない場合もある。
スポンサーを決定する場合に最も重要なのが譲渡代金が最大価格であることであるが、譲渡代金の支払条件も重要である。最高価格で落札しても、代金が支払えないのでは、そもそも話にならない。
スポンサー候補が複数の場合、情報開示等の手続に注意が必要である。前述したとおり、企業秘密が含まれているので、全てのスポンサー候補に、全ての情報を開示する必要はないが、スポンサー企業の選定が恣意的であるかのような非難を招かないように注意が必要である。
債権者に説明ができ反発を招かない程度の事業譲渡の手続、譲渡代金、条件等が必要である。債権者が反発すれば、更生計画案に反対されるからである。
・フィナンシャルアドバイザー
 倒産手続でM&Aする場合、最も適切なスポンサー探しに有用な方法として、フィナンシャルアドバイザーを使う例がある。しかし、フィナンシャルアドバイザーの報酬は、管財人等の報酬の数倍以上である。報酬が高額である点が、フィナンシャルアドバイザーを使う場合のネックとなっている。
・自力再建の場合
 自力再建の場合、更生計画で100%減資して、新しい経営者が増資に応じる場合がある。会社更生手続を利用した一種のMBOである。
 また、更生会社の将来の収益を弁済原資として自力再建を図る手法の場合も、100%減資して、ニューマネーを運転資金・設備投資に使う等のために、資本として注入する必要がある。この場合も、やはり、新しく株主となる者がスポンサーといえる。
・清算型倒産手続
可能な経営改善策・リストラを実施しても、企業から得られる利益が投下資本に見合わない場合には、清算型更生計画または破産手続へ移行する。