商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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鈴木 祥平
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閲覧数順 2017年08月19日更新

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商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務

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相続

商品先物取引会社が委託者に対して負う説明義務

最高裁判決平成21年12月18日

裁判集民事232号833頁、判例タイムズ1318号90頁

損害賠償請求事件

【判示事項】 特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員の従業員が,信義則上,専門的な知識を有しない委託者に対して負う説明義務

【判決要旨】 特定の商品の先物取引につき、委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員が、専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合、当該商品取引員の従業員は、信義則上、その取引を受託する前に、委託者に対し、その取引については上記取引手法を用いていることおよび上記取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。

【参照条文】 民法1条2項

       商品取引所法213条、商品取引所法214条、商品取引所法217条1項

       商品取引所法施行規則103条、商品取引所法施行規則104条1項

 1 本件は,Xが,商品取引員であるY1に委託して行った商品先物取引において損失を被ったことについて,その従業員であるY2による説明義務違反等の違法行為があると主張して,Yらに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

 2 Xは,Y1との間で商品先物取引委託契約を締結し,これに基づき,平成17年6月14日から同年11月15日まで,Y1に委託して,東京工業品取引所の白金の商品先物取引を行い,その結果,Xは合計687万9970円の損失を被った。Y1は,少なくとも,上記取引期間中,平成18年4月限及び6月限の白金について,それぞれ委託玉(商品取引員が顧客の委託に基づいてする取引)と自己玉(商品取引員が自己の計算をもってする取引)とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返していた(以下,このように委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法のことを「本件取引手法」という。)。そして,本件取引手法が用いられると,取引が決済される場合,委託玉全体と自己玉とに生ずる結果が,一方に利益が生ずるなら他方に損失が生ずるという関係にあり,この意味で,委託者全体と商品取引員との間には利益相反の関係があった。

 3 Xは,Y2がY1において本件取引手法を用いていることについて説明しなかったことがXに対する不法行為を構成すると主張した。しかし,1,2審とも,本件取引手法は個々の委託者とY1との間で直接的な利益相反関係を生じさせるものではないことなどを理由として,Y2がXに対し本件取引手法を用いていることを説明すベき義務を負っていたとはいえないなどとして,Xの請求を棄却すべきものとした。

 4 これに対し,最高裁第二小法廷は,専門的な知識を有しない委託者の投資判断は,商品取引員から提供される情報に相応の信用性があることを前提にしているとした上で,本件取引手法には,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在しており,商品取引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるなどとして,少なくとも,特定の商品(商品取引所法2条4項)の先物取引について本件取引手法を用いている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合には,当該商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については本件取引手法を用いていること及び本件取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負うと判断した。そして,原審が,Xが専門的な知識を有しない委託者であるか否か,Y1がXから商品先物取引の委託を受ける前から白金について本件取引手法を用いていたか否か,Y2が上記のような説明をしたか否か等につき審理することなく,Y2に説明義務違反がないと判断したことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻した。

 5 最一小判平21.7.16民集63巻6号1280頁は,「特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合には,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。」と判示している。

 この判決が,上記説明義務を認めた主たる根拠は,「商品取引員が差玉向かい(板寄せによる取引について,商品の数量及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合に,この差の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法)を行っていると,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡することになり,取引が決済される場合には,委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるから,差玉向かいには,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在するので,商品取引員が差玉向かいを行っているということは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与える」ということにあると考えられる。そして,本件のように「板合せザラバ」という売買手法(一定時刻までに出された注文を対象として,約定枚数が最大になる価格で約定可能な全ての注文を約定させる取引方法である「板合せ」と,定められた時間内に買付希望者と売付希望者が自由に約定値段と取引枚数を合意して売買を成立させる取引方法である「ザラバ」とが組み合わされた売買手法)が採用されている取引であっても,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とを均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法が用いられたならば,上記と同様のことがいえるように思われる。

 もっとも,前掲第一小法廷の事案は,商品先物取引委託契約上の説明義務違反があったとして,債務不履行に基づく損害賠償を求めたものであったのに対し,本件は,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案であった。裁判実務上,私的自治・自己決定原則が妥当するための基盤の確保を目的とし,情報格差を是正するために,一方が他方に対し当該取引につき自己決定に必要となる重要な事項を説明すベき義務が認められている。そして,投資取引における説明義務違反の事例については,不法行為構成によって処理されることも多く,このような実務の状況については,学説上も格別疑義は示されていない(潮見佳男「投資取引と説明義務――取引交渉における自己決定権侵害と説明義務・情報提供義務」先物取引被害研究30号95頁,加藤雅信『新民法大系(1)民法総則』239頁など)。

本判決は,このような裁判実務も踏まえ,商品取引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものであることから,前記4のとおりの説明義務を信義則を根拠として認めることとし,これにより,不法行為に基づく損害賠償責任が認められる可能性があることを示したものであると思われる。

 なお,前掲第一小法廷の判決においては,「委託者が,商品取引員から差玉向かいを行っていることなどの説明を受けた上で取引を委託したときにおいても,委託者において,どの程度の頻度で,自らの委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となっているのかを確認することができるように,自己玉を建てる都度,その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負う」との判示がされている。本判決ではこの点については言及されていないが,これは,かかる通知義務を否定する趣旨ではなく,本判決の結論を導く上で,必ずしも通知義務の有無につき判示する必要がないと考えられたことによるものではないかと推察される。