使用者災害・第三者行為災害(交通事故)と社会保険給付等からの受給との控除の可否・過失相殺 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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使用者災害・第三者行為災害(交通事故)と社会保険給付等からの受給との控除の可否・過失相殺

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相続

使用者災害・第三者行為災害(交通事故)と社会保険給付等からの受給との控除の可否・過失相殺(要約)

労災保険法・厚生年金法の保険給付と損害賠償の調整まとめ
以下、労働者災害補償保険法を労災保険法、厚生年金保険法を厚生年金法、自動車損害賠償保障法を自賠法と略す。

労働基準法(他の法律との関係)
第84条  この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法 又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
2  使用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法 による損害賠償の責を免れる。

労災保険法第12条の4  政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2  前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。

厚生年金法(損害賠償請求権)
第40条  政府は、事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2  前項の場合において、受給権者が、当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で、保険給付をしないことができる。

損害が同質、同一である限り、両者は相互に補完しあい、労災保険給付による補償がされた場合には、第三者はその限度で損害賠償責任を免れ、第三者が損害賠償した場合には政府はその限度で補償義務を免れるとしなければならない。また政府の行う補償は、その実質において他人の損害賠償義務の履行であるから、賠償をした国は、保険受給権者(被害者)の第三者に対する損害賠償請求権に代位することができると考えるべきものであろう。
このような法理を根拠に、労災保険法12条の4(昭和48年法律第85号改正前は旧20条)は、労働者が保険関係外の第三者の不法行為によって業務災害を被った場合、政府が同法に基づいて保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、政府は保険受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し(同条1項)、また保険受給権者が第三者から同一事由につき損害賠償を受けたときは、政府はその限度で補償義務を免れると規定する(同条2項)。
このように、第三者の民法、自賠法上の賠償責任と労災保険法上の政府の労災補償責任とが相互補完の関係にあることに徴すると、同一事由に基づく同質、同一の損害の二重填補は排除されなければならないから、保険受給権者が政府から休業補償として保険給付を受ければ、保険受給権者の第三者に対する休業損害の賠償請求権はその限度において減縮されなければならない。
労災補償により、被害者・遺族の損害賠償請求権が減縮されるのは、政府によって損害の填補がされたからであって、加害者の不法行為が被害者自身に損失と利得とを生じさせた場合に損害額そのものを利益を受けた限度で減縮する損益相殺とはその性質を異にするが類似するものであり、したがって、保険者の代位と根拠を同じくする労災保険法12条の4(改正前の20条)の代位法理で説明するのが相当であるとするものが多い。


損害賠償額から控除する
○受領済みの自賠法の損害賠償額(最高裁昭和39・5・12民集18・4・583)
○自賠法の政府補償事業のてん補金
受領済みの
○厚生年金保険法による遺族年金(最高裁平成16・12・20)、障害厚生年金(最高裁平成11・10・22)、遺族基礎年金
○労災保険法による休業補償給付金・療養補償給付金、障害補償一時金(下級審)、遺族補償年金(最高裁平成5・3・24、最高裁平成16・12・20)、葬祭給付・遺族年金前払い一時金、障害補償年金前払い一時金、障害補償年金・介護補償給付金
○健康保険法による傷病手当金
○国民健康保険法による高額療養還付金
○地方公務員等共済組合法の遺族共済年金
○地方公務員災害補償法による療養費、葬祭費、遺族補償年金
○所得補償保険契約に基づいて支払われた保険金(最高裁平成1・1・19)

支給が確定しており確実な場合には控除すべきだが、支給が確定していない場合には、控除しない。
○ 最高裁判所大法廷判決平成5年3月24日・民集47巻4号3039頁
一 不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。
二 地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為のよって死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として同法の規定に基づく遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。


損害賠償額から控除しない
○自損事故保険金
○搭乗者傷害保険金(最高裁平成7・1・30)
○生命保険金(最高裁昭和39・9・25)
○傷害保険金
○労災保険法の休業特別支給金、障害特別支給金(最高裁平成8・2・23)
○地方公務員災害補償基金からの休業損害金
○生活保護法による扶助費(最高裁昭和46・6・29)
○香典、見舞金
○雇用対策法に基づく職業転換給付金
○独立行政法人自動車事故対策機構法に基づく介護料
○会社の業務災害特別支給規定に基づく見舞金
○介護費用の公的扶助
○身体障害福祉法に基づく給付等


ただし、控除する場合でも同一の損害項目からのみ控除できる。
慰謝料については、労災保険法の給付には慰謝料が含まれないから、労災保険給付をもって、慰謝料の損害の填補があったものとすることは許されない(最判昭和37・4・26民集16巻4号975頁、最判昭和41・12・1民集20巻10号2017頁)。

最高裁判決昭和58年4月19日・民集37巻3号321頁
労災保険法による障害補償一時金及び休業補償給付は、被災労働者の精神上の損害を填補するためのものではなく(労災保険法に基づく保険給付には慰謝料が含まれていない)、給付された補償金が財産上の損害賠償額を上回る場合であっても、これを慰謝料から控除すべきではない。

最高裁判決昭和50・10・24交通民集8・5・1258
国家公務員退職手当法の退職手当、国家公務員共済組合法の遺族年金、国家公務員災害補償法の遺族補償年金の各受給権者は、妻と子が遺族である場合には妻と定めているから、退職手当の受給額は妻の損害賠償額からだけ控除すべきであり、子の損害賠償額から控除すべきではない。

最高裁判決昭和62年7月10日・民集41巻5号1202頁
労災保険法による休業補償給付・傷病補償年金又は厚生年金法(昭和60年法律第34号改正前のもの)による障害年金は、休業損害・逸失利益から差し引くべきで、被害者の受けた財産的損害のうちのその余の積極損害又は慰謝料から控除すべきでない。

最高裁判決平成元年4月11日・民集43巻4号209頁
労働者が第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価格を控除するのが相当である。


最高裁判決平成11年10月22日・民集53巻7号1211頁
一 障害基礎年金・障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。
二 障害基礎年金・障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。
三 障害基礎年金・障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである。

 最高裁判決平成16年12月20日・裁判集民事215号987頁、判例タイムズ1173号154頁
不法行為により死亡した被害者の相続人がその死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,当該相続人がする損害賠償請求において,未だ支給を受けていなくても、支給を受けることが既に確定した遺族厚生年金を給与収入等を含めた逸失利益全般から控除すべきである。

○自賠法・労災保険法の給付は人身傷害分のみで、物損には充当できない。
○労災保険法の療養給付・療養補償給付は、治療費・入院雑費に充当され、入院付添費には充当されない。
○労災保険法の休業補償給付・障害補償給付(障害補償年金)は、休業損害・逸失利益に充当される。

最高裁判決平成22年9月13日・民集64巻6号1626頁
1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付を受けたときは,これらの各社会保険給付については,これらによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。
2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害をてん補するために労災保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときには,それぞれの制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。


社会保険給付がある場合の過失相殺
○厚生年金保険法、厚生年金保険法、健康保険
損害賠償額から保険給付額を控除した残額に対して過失相殺する
○労災保険法
過失相殺後の損害賠償額から差し引く( 最判平成1・4・11)
○自賠法の政府補償事業によるてん補金
労災保険法と同じ( 最判平成17・6・2)