重婚的内縁関係と遺族年金の受給権者としての「配偶者」 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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田中 圭吾
田中 圭吾
(行政書士)
村田 英幸
(弁護士)

閲覧数順 2017年11月18日更新

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重婚的内縁関係と遺族年金の受給権者としての「配偶者」

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相続

重婚的内縁関係と遺族年金の受給権者としての「配偶者」

◎重婚的内縁関係にある者がいる場合

最高裁1小判決昭和58年4月14日、遺族年金却下取消請求事件、民集37巻3号270頁 、判例タイムズ534号108頁、『社会保障法判例百選』№40事件

戸籍上届出のある妻が、夫と事実上婚姻関係を解消することを合意したうえ、夫の死亡に至るまで長期間別居し、夫から事実上の離婚を前提とする養育料等の経済的給付を受け、婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化し、一方、夫が他の女性と事実上の婚姻関係にあったなど判示のような事情があるときは、右妻は、農林漁業団体職員共済組合法(昭和46年法律第85号による改正前のもの)24条1項にいう「配偶者」にあたらない。

一 原告(控訴人・上告人)Xは、農林漁業団体職員共済組合法(昭和39年法律第112号による第1次改正後、昭和46年法律第85号による第2次改正前のもの、以下「本件共済組合法」という)46条、24条に基づき、亡夫A(右共済組合員)の遺族(配偶者)として、遺族給付の支給を求めたが、被告(被控訴人・被上告人)農林漁業団体共済組合の却下決定を受け、また、Xの審査請求に対し農林漁業団体職員共済組合審査会は、これを棄却した。

二 Xは、被告共済組合の右却下決定の取消を求めて提訴したところ、本件第1審判決(行裁集28巻10号1111頁)は、本件事実関係のもとでは、XとAとは昭和31年12月の別居以後は事実上の離婚状態にあり、Aの死亡した昭和43年8月4日頃には、その婚姻関係が形骸化し、かつ、その状態が固定化していたというべきであるとし、このような状態にある者は、戸籍上届出のある配偶者であっても、本件共済組合法24条1項所定の、遺族給付を受けるべき「配偶者」に当たらないとして、Xの請求を棄却した。

控訴審判決(行裁集30巻4号785頁)は、第1審判決を引用し、本件共済組合法27条にいう給付を受けるべき同順位の遺族が2人(X及びAと内縁関係にあるN)がいる場合に該当するというXの主張はその前提において失当とし、Xの控訴を棄却した。

三 本判決は、本件共済組合法24条1項の「配偶者」の意義について判示し、そのうえで本件事案に対する原審の認定及びその判断を是認して、判決要旨のとおり、Xは、右「配偶者」に該当しないとしたのである。

 これまで、本件共済組合法24条1項に規定されている「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。 以下同じ。)」については、同種の規定が、他の社会保障法にも、例えば、国家公務員共済組合法2条1項2号イなど数多く置かれているため、この解釈をめぐって内閣法制局意見ほかの行政解釈が下されており、本判決の解釈は、ほぼその大勢にそったものといえる。

すなわち、右「配偶者」を民法上の配偶者の概念と同一のものとみないで、本件共済組合法の有する社会保障法的な趣旨・目的に照らし、戸籍上届出のある配偶者であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込のないとき、すなわち事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受けるべき配偶者に該当しない、としている。

 四 最高裁1小判決昭和58年4月14日は,重婚的内縁関係にある者の受給権の存否を直接問題とするものではなく,上記説示部分は,法律上の配偶者であっても例外的に遺族年金を受給できる配偶者に当たらない場合があることを判示したものである。この事案の死亡組合員には重婚的内縁関係にある者が存在しており,実質的には,法律上の配偶者と重婚的内縁関係にある者との間の優劣が問題となったものである。

したがって,最高裁1小判決昭和58年4月14日が,法律上の配偶者であっても事実上の離婚状態にある場合には遺族給付の関係では「配偶者」として扱わなくてもよいとしているのは,重婚的内縁関係にある者との関係及びその者の受給資格を念頭に置いてした判示とみるべきであり,前記の行政実務の見解に沿う考え方を前提にしたものとみてよいと考えられる(昭和58年最判解説(民事)11事件139頁[園部])。

 五 なお、本判決は、原判決の引用する第1審判決が、本件共済組合法24条1項の当初の規定及び第2次改正後第3次改正(昭和48年法律83号)前の規定が、「配偶者」の場合「組合員の収入により生計を維持していることはむしろ当然のこととされ、ことさらこれを明記しなかったものと解される。」という解釈が維持されたものである。

また、本判決が、法律上の婚姻関係の形骸化の判定基準として、XとAとの間に、事実上婚姻関係を解消することの合意があったこと、共同生活を伴う婚姻関係を維持継続しようとする意思がなかったことを挙げていることは、重要な先例としての意義がある(有地享・昭和58年度重判解説ジュリ815号89頁、右近健男・民商90巻1号84頁)。

最高裁判決17年4月21日、遺族共済年金不支給処分取消請求事件

最高裁判所裁判集民事216号597頁、判例タイムズ1180号171頁

私立学校教職員共済法に基づく退職共済年金の受給権者であった男性が死亡した場合に同法に基づく遺族共済年金の支給を受けるべき「配偶者」に当たるのは法律上の妻ではなく内縁関係にあった女性であるとされた事例

【判決要旨】 私立学校教職員共済法に基づく退職共済年金の受給権者であった男性が死亡した場合において、同男性が法律上の妻と20年以上の長期にわたり別居を続け、その間、両者の間には反復、継続的な交渉はなく、婚姻関係修復の努力もされていないなど両者の婚姻関係は実体を失って修復の余地がないまでに形がい化しており、他方、両者の別居後に同男性と親密な関係となった女性は、同男性と同居して夫婦同然の生活をするようになり、同男性の収入により生計を維持し、最期までその看護をするなど事実上婚姻関係と同様の事情にある者であったという事情の下では、遺族として同法に基づく遺族共済年金の支給を受けるべき「配偶者」に当たるのは、法律上の妻ではなく、内縁関係にあった女性である。

 1 本件は,私立学校教職員共済法(以下「私学共済法」という。)に基づく私立学校教職員共済制度の加入者で,退職共済年金の受給権者であったAが死亡したことから,Aと内縁関係にあったXが,Y(日本私立学校振興・共済事業団)に遺族共済年金の支給を請求したところ,不支給の裁定を受けたため,その取消しを請求した事案である。

 2 私学共済法は,私立学校教職員共済制度の加入者又は加入者であった者であって,かつ,退職共済年金の受給権者であった者が死亡したときには,その者の遺族に遺族共済年金を支給すること(私立学校教職員共済法25条、国家公務員共済組合法2条1項・88条1項4号),この遺族共済年金を受給することができる遺族とは,加入者等の配偶者,子,父母,孫及び祖父母であって,加入者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた者であること,並びに上記配偶者には届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含まれること(私学共済法25条,国家公務員共済組合法2条1項2号・3号)を定めている(同様の規定を置くものとして,健康保険法1条2項1号,国民年金法5条6項,国家公務員災害補償法16条1項1号,労働者災害補償保険法16条の2第1項,農業者年金基金法33条1項,戦傷病者戦没者遺族等援護法24条1項,労働基準法施行規則42条1項など)。

 3 本件の争点は,Aと重婚的内縁関係にあったXがAの遺族共済年金の支給を受けることができる遺族たる「配偶者」に当たるかどうかであり,その判断に当たり,Aの法律上の配偶者であるBを同「配偶者」に当たらないということができるかどうかである。

 4 私学共済法25条が準用する国家公務員共済組合法2条1項3号,2号が遺族年金を受給することができる「遺族」と定める加入者等の「配偶者」に,法律婚関係にある被保険者と重ねて事実婚関係に入った者,いわゆる重婚的内縁関係にある者をも含むかについて,現在の行政実務では,法律婚を保護する見地から,法律婚関係が実体を失って形がい化した状態が固定している場合(継続して約10年以上)に初めて,内縁関係にあった者を年金等の関係において「配偶者」として扱うこととしている。

 裁判例も,この行政実務の見解を前提として判断している。そして,法律婚関係の実体喪失,形がい化(事実上の離婚状態)の有無の判断方法については,重婚的内縁関係にある者の生活実態と相対的に判断するのではなく,法律上の配偶者の生活実態に即して絶対評価的な判断方法を採るものが多数である。

 5 法律上の婚姻関係が「事実上の離婚状態にある」か否かの具体的な判断基準であるが,別居の経緯,別居期間,婚姻関係を維持ないし修復するための努力の有無,別居後における経済的依存の状況,別居後における婚姻当事者間の音信・訪問の状況,重婚的内縁関係の固定性等を総合的に考慮して判断すべきであるとする本件の原判決の判断基準は,最高裁1小判決昭和58年4月14日以後の多くの裁判例のそれと同様のものであり,平成17年判決は,これを是認したものである。

 上告理由は,AとBの間に「離婚の合意」がなかったことを問題とするものである。確かに,前記最高裁1小判決昭和58年4月14日の事案は,夫婦が事実上婚姻関係を解消することを合意した上,長期間別居していたというものであった。

しかし,私学共済法に基づく遺族共済年金の受給権者の認定は,誰が法律上の配偶者であるかという観点からではなく,誰が遺族共済年金の受給権者である「配偶者」に当たるかという観点から判断されるべきものであるから,「婚姻関係を解消することの合意」が具体的に成立していることが必須の要件となるものではないと解することが可能であろう。

また,少なくとも,夫婦間に婚姻関係を維持継続する意思ないし婚姻関係を回復する意思がないと認めるべき客観的な事実関係があるときには,具体的な離婚の合意が成立したという事実がなくても,それに準ずるものとみることができる場合があるものと考えられよう。

 本件については,別居の経緯と別居期間の長さ,別居後において扶養関係や音信・訪問等がほとんど途切れていること,かって夫婦の生活の本拠であった大学の宿舎から円満に転居してもらうために,Aは,Bに対し,平成元年12月22日,1000万円を送金しているが,これは婚姻関係を清算する趣旨を含むものであったこと,さらには,Aと被上告人との内縁関係の固定性等を総合的に考慮して,AとBとの間の法律上の婚姻関係が事実上の離婚状態にあったとした原審の認定判断が是認されたものである。

 6 本判決は,最高裁1小判決昭和58年4月14日の考え方を具体的な事案に適用し,重婚的内縁関係にあった者に遺族共済年金の支給を認めたものであり,事例判断であるが、この点に関する先例として意義を有し,実務上参考になる。