- 服部 英樹
- ファイナンシャルプランナー
対象:家計・ライフプラン
「無税国家」。
そんなことはできっこないと考える人が大半であるが、それを実現しようとする自治体がある。
場所は東京都杉並区。
先月、杉並区長である山田宏氏が、将来的に住民税をなくす「減税自治体構想」の実現に向け動き出した。実際に学識経験者などの専門家を集め研究会の初会合を開いたのである。
「減税自治体構想」とは、自治体の予算の一定割合を毎年積立て、その利子や運用益により住民税をまかなうというもの。
杉並区の2007年度予算は一般会計で約1500億円。
この予算の1割、150億円を2%複利で運用すると、33年後に住民税収入(550億円)の1/4をまかなう事ができる。そして53年後には1/2、78年後には無税化できると区は試算している。
(ちなみに3%の複利運用であれば、22年後に1/4、36年後に1/2、53年後に無税化が可能)
学生時代からサラリーマン時代まで杉並区高円寺に住んでいた私は、当時から山田区長の手腕に注目していた。
その山田区長も今回3期目。この4年間で構想実現に向け道筋を付けたいと意気込んでいる。
もともと「無税国家」を提唱したのは松下幸之助氏であるが、松下政経塾出身の山田区長がそこで学んだこの構想を自治体版にアレンジしたものである。
「税収の増減で右往左往しない為にも、高い目標を持つべき」としてこの構想を打ち上げた。
「国がやらないから東京都がやる」石原都知事の発言をよく聞くが、国も都道府県もやらないから市区町村レベルでやるのであろう。
しかし実際、試算通りにいったとしても無税になるのは78年後。
その時、私は115歳である。それから杉並区に引越しをしても・・・。
ここで考えていただきたい。「税収の増減に右往左往しない為にも・・・」を「給料や年金の増減に右往左往しない為にも・・・」、と個人レベルでも考えることである。
国や都道府県や市区町村に頼っていても老後は先に来てしまう。
自分で老後の準備をすることである。
山田区長のモットーとする「前人が木を植え、後人が涼を楽しむ」を自分一人で行うこと、つまり個人のライフプランでも可能にすることである。
給与やお金の働き(複利運用)により時間をかけて老後資金を生み出し、年金額に左右されることなく将来「涼を楽しむ」ことである。
私のお客さんは計画の下、既にそういった行動を起こしている。
勿論、区長の言うように自分の子供達の若い世代も「涼を楽しめる」よう、国レベルでも変わっていくことが理想である。
また、この構想は自治体経営に長期的視点を持たせる意味でも非常に意義があるといえる。
何故なら、自治体は「入ってきた税金は使い切るもの」という単年度主義による予算使切り経営をしているからである。
そしてここでも考えたいのが家計も同じであるということ。
収入の何割を運用にまわせるか?毎年同じではないはず。
長期的視点からいつお金が貯めることができ増やすことが出来るか?
そして老後資金の不足を埋める為にどういった計画が必要か?
しかし家計の長期計画を持っている家庭は少なく、「単年度主義の家計」が多く見受けられるのが実情である。
この山田区長の「減税自治体構想」は本当に多くを学ばせてくれるものであり、そして急速に進む少子高齢化の日本で国家や都市の持続可能性を探る上でも今後の動きに期待したい。
しかし、本当に無税になれば有難いが、税金が無いということは税理士が要らないということ。
ん?・・・私の仕事が無くなってしまう。これからはやはりファイナンシャル・プランナか・・・。