中国におけるApple特許権侵害訴訟事件 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国におけるApple特許権侵害訴訟事件

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中国におけるApple特許権侵害訴訟事件

河野特許事務所 2012年8月24日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

1.概要

 Appleは中国“iPAD”商標事件で、中国深センの唯冠科技有限公司に6000万ドル(約48億円)を支払うことで和解が成立したばかりであるが、現在は中国特許権侵害の問題に直面している。

 上海のソフトウェア会社が、iPhoneに搭載されている音声認識ソフトウェアSiriが同社の所有する発明特許権を侵害するとして2012年6月21日上海の人民法院に提訴したものである。

 本稿では問題となった中国企業の特許の概要について解説すると共に、日本企業が注意すべき点について言及する。

 

2.特許の内容

 上海智臻ネットワーク科技有限公司(原告)はチャットロボットシステムと称する200410053749.9特許(以下、749特許)を有している。749特許は2004年8月13日に中国知識産権局に出願され、2009年7月22日に公告された。

 

 参考図1は749特許の代表図である。

 

 

参考図1 749特許の代表図

 

 チャットロボットシステムは、チャットロボット9、通信モジュール21、人工知能サーバ3、検索サーバ4、ゲームサーバ5及び対応するデータベースを有している。ユーザはリアルタイム通信プラットホームまたはショートメッセージプラットホームを通じてチャットロボット9と各種対話を行う。

 

 チャットロボット9は、通信モジュール21にて受信したユーザの語句が定型語か或いは自然言語であるかを区別するために用いるフィルターを有している。チャットロボット9はフィルターによる区別結果に基づき、当該ユーザの語句を対応する人工知能サーバ、検索サーバまたはゲームサーバに転送する。

 

 原告は2004年頃から“小iロボット”と称する音声認識に関するサービスを提供している。原告は知的財産権の取得に積極的であり、本件特許を含め全部で7件の特許出願を行っている。

 

3.Apple(被告)の製品と訴訟の提起

 被告は音声認識ソフトウェアSiriをiPhoneのアプリケーションとして提供している。原告は2012年5月Siriが749特許を侵害するとして警告をなした。原告は被告から回答がないため2012年6月21日上海の人民法院へ特許権侵害訴訟を提起した。

 

4.日本企業の注意点

 中国では中国企業または個人が発明特許権または実用新型特許権を用いて外国企業を提訴する事件が相次いでいる。本事件では原告のビジネスと直接競合する分野に被告が参入したため特許権侵害訴訟に発展した。日本企業が中国市場に参入する場合は、特許権侵害訴訟のリスクが米国以上に高いことを理解した上で、クリアランス調査を行っておくことが必須である。

 

 第2に中国企業の訴訟パターンに注意すべきである。本事件を含め、中国企業は外国企業に対し警告を発し、その後特許権侵害訴訟を提起することが多い。問題なのは、警告から特許権侵害訴訟までの期間が極めて短いことである。本事件も約1ヵ月で訴訟を提起しており、警告時には既に訴訟の準備を完了させていたことがうかがえる。

 

 日本企業と異なり中国企業は訴訟の提起に躊躇しない傾向にあることから警告を受けた場合、提訴を覚悟した準備が必要となる。また本事件では被告は警告に対し何ら応答しなかったが、得策でないと考える。筆者は実務において中国企業から警告書を受けたとの相談を受けた場合、筆者にて速やかに分析を行い何らかの回答を早い段階で行うようにしている。これは中国企業が本事件のように応答が無ければ速やかに訴訟を提起してくる傾向にあるからである。いずれにせよ、特許及び商標に関わる紛争が急増していることから事前に中国特許権侵害の予防策を講じておくことが重要となる。

 

                                                                                                                                         以上

中国特許に関するご相談は河野特許事務所まで

 

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