ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第三回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第三回)

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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第三回)

~引用発明の認定に誤りがあるとして拒絶審決が取り消された判例~

 
原告:マイクロソフト コーポレーション
被告:特許庁長官

 

2014年4月11日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 田中 伸次

 

1.概要

 本件は、発明の名称を「階段化されたオブジェクト関連の信用決定」とする発明について、引用発明及び周知技術から容易想到であるとして請求を不成立とした拒絶査定不服審判の審決の取り消しを求めたものである。

 

2.背景

1)     特許の内容

 本件特許に係る発明(以下「本件発明」と記す。)は、ウェブページに関連付けられたオブジェクト(例えば、ActiveXオブジェクト)をアクティブ化(実行することを承認して、実行可能な状態にすること)についての発明であり、請求項1に係る発明は、以下のとおりである(段落符号は判決文で符された)。

【A】ウェブページに関連付けられたオブジェクトを検出することと、

【B】前記オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定することと、

【C】前記オブジェクトがユーザによって開始されていないと判定された場合、複

数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し、

前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することと、

【D】前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことを

ユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提

供するためのモードレスプロンプトを表示することと

【E】を備えることを特徴とする方法。

 

 本件発明は、インタネットブラウザにより、ActiveXオブジェクトなどのプログラムまたはスクリプトがダウンロードされた際、ユーザによって開始されていないもので、信用ができないものの場合は、アクティブ化する前に、モードレスプロンプトを表示し、アクティブ化の受諾または拒否をユーザに選択させる。例えば、図に示すように、モードレスプロンプト805はブラウザの上部に表示される。モードレスプロンプト805のテキスト領域には、「Internet Explorerは信用できないソフトウェアのダウンロードをブロックしましたコンテンツは正しく表示されない場合があります。ダウンロードするにはここをクリックして下さい・・・」と記載されている。

図1 モードレスプロンプトユーザインターフェースの例

 

 ユーザが、モードレスプロンプト805をマウスでクリック、マウスホバー(マウスオーバー)等すると、メニュー810が表示され、オブジェクトのアクティブ化を対話式に受諾または拒否することが可能となる。

 アクティブ化を受諾または拒否の選択は、図2に示すようなモーダルプロンプトで行っても良い。

 

図2 モーダルプロンプトユーザインターフェースの例

 

2)     審査経過

 本件特許に係る特許出願(以下、「本願」と記す。)の審査経過は、以下のとおりである。

平成16年 7月22日              PCT国際特許出願

平成19年 7月23日            審査請求

平成22年 3月 9日              拒絶理由(最初)通知書送達

平成22年 6月 8日              意見書、補正書提出

平成22年 7月20日              拒絶理由(最後)通知書送達

平成22年10月20日              意見書、補正書提出

平成22年12月 3日              拒絶査定送達

 

 拒絶査定は、記載不備(第36条第6項第2号)、進歩性違反違反(第29条第2項)を理由にされた。本件において、ポイントとなるのは、最初の拒絶理由通知書に対して提出された平成22年6月8日付補正書で追加された、構成【B】「前記オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定すること」に関わる刊行物の記載内容である。

 

3.訴訟での争点

1)     争点

訴訟で争点となったのは、以下の事項である。

a       本願発明と刊行物1発明(以下、「引用発明」と記す。)との相違点認定

b       本願発明の進歩性(容易想到性)

以下では、争点aに含まれる引用発明の認定について取り上げる。

 

2)     引用発明の認定

審査及び審決で引用された刊行物1は、非特許文献(園田道夫,「基礎から固めるWindows セキュリティ 第1回 ActiveX コントロールとスクリプトの危険性 悪用されやすいIEの標準機能 実行条件を制限し安全を確保」,日経Windows プロ,第73号,第98~102頁,日経BP社,2003年4月1日)である。

刊行物1の第99ページの「ActiveXコントロールを実行するか設定可能」との節には以下の様な記載がされている。

「ActiveXコントロールの実行条件は,IEの[ツール]-[インターネットオプション]にある[セキュリティ]タブで制限できる(図2)。これにより,ActiveXコントロールが無条件に実行されることを防いでいる。

 「インターネット」「イントラネット」「信頼済みサイト」「制限付きサイト」の4種類にアクセス先を区別し,それぞれについてどのような場合にActiveXコントロールを実行してよいかを設定する(表1)。インストール済みのActiveXコントロールを実行するかどうか,「署名済み」や「安全だとマークされている」ActiveXコントロールを実行するかどうか,といった内容を設定できる。

 ここで,[無効にする]を選択すればその条件ではActiveXコントロールを実行しないようになる。逆に[有効にする]を選択すれば実行するという設定になる。[ダイアログを表示する]を選ぶと,ダウンロードや実行をしようとするたびに確認を求めるダイアログを表示するようになる(図3)。」

 審決では、上記の記載等を根拠に、刊行物1には「前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定することと,」(以下、構成【Ⅱ】と記す。)が記載されているとした。

 そして、相違点1として、「オブジェクトがユーザによって「開始」されたかどうかの判定を行っているのに対し,刊行物1発明の構成【Ⅱ】は,オブジェクトがユーザによって「開始」されたかどうかの判定を行うことについて,明確には記載されていない点。」が認定された。

 この相違点について、審決では、「サイトの利用は通常サイトの開始によりなされるものであるから,開始がなされていないものは,安全性について確認されていないということができる。したがって,開始されたかどうかにより安全性の確認を行う,すなわち『開始』されたかどうかの判定を行うことは,当業者が適宜なし得る事項である。」と判断し、進歩性を否定した。

 

4.裁判所の判断

 裁判所は刊行物1について、「[信頼済みサイト]の設定に際してActiveX コントロールを実行してもよいサイト(Webページ)を登録し,安全なサイトについてのみActiveX コントロールの実行を許可する運用を行うとは,サイトがユーザによって[信頼済みサイト]に登録されているか否かの判定を行うことを意味するのであり,ActiveX コントロールそれ自体がユーザによって登録されることや,ActiveX コントロール自体がユーザによって登録されたかどうかを判定することは刊行物1には記載されていない。」として、構成【Ⅱ】の認定は誤りであると判断した。

 また、上述した引用発明の構成【Ⅱ】以外の構成【Ⅲ】、【Ⅳ】についても、裁判所は、次のように、審決の認定に誤りがあるとした。

「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制することと」(構成【Ⅲ】)

については、刊行物1に、「複数の実行条件に関する区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられる」との記載があるとはいえない。そうすると、引用発明は構成【Ⅲ】を有しているとはいえないとした。

「前記ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示することと」(構成【Ⅳ】)

については、引用発明は、ダウンロードやActiveX コントロールを実行しようとするたびにユーザの対話式の選択を要求するというものであるから、ダイアログによる選択の前に積極的にActiveX コントロールの実行を抑制する判断が経由されているものではなく、ダイアログが表示されることを根拠として直ちにActiveX コントロールの実行が抑制されていると評価することはできない。そうすると、引用発明は構成【Ⅳ】を備えているとは言えないとした。 そして、進歩性については、引用発明の認定に誤りがあるため、審決において進歩性の判断はされていないとした。

 

5.結論

 裁判所は、審決の判断過程に誤りがあるため、容易想到性判断に誤りがあるか否か判断するまでもなく、審決は取り消されるべきものとした。

 

6.考察

 構成【Ⅱ】の認定について、被告は、

「ActiveX コントロールはWebページに一体に埋め込まれたものであり,[信頼済みサイト]へのWebページの登録は,当該Webページに関連付けられたそれらActiveX コントロールに対する実行許可のために行うものであり,[信頼済みサイト]への登録から,Webページに関連付けられたActiveX コントロールの実行を許可するものかどうかの判定をすることが読み取れる。」

と述べ、審決の認定に誤りがないことを主張したが、裁判所は、

「サイトの登録の有無は,サイト又は所定のWebページに対して行われるものであるのに対し,ActiveX コントロールの実行許可の判定は,そのサイト又は各Webページに関連付けられた個々のActiveX コントロールに対して行われるものであって,両者の判定は技術理念としては異なるものであり,その判定の目的とするところが同一方向にあるからといって,サイト(Webページ)とActiveX コントロールとを同一視することはできない。」(下線は筆者)

として、被告の主張を退けた。

 しかしながら、本件発明の特徴(信用できないプログラムまたはスクリプトは、直ちにアクティブ化しないで、ユーザに判断させること)を考慮すると、構成【Ⅱ】を審決のように認定するか、判決のように認定するかについては、本質的な問題ではない。

 さらに、本稿では検討しなかった引用発明の認定、相違点の判断についても、本件発明の特徴を考えれば、進歩性の判断を左右するような内容ではないと考える。

 構成【Ⅱ】については、刊行物1には明確に記載されておらず、また、本件発明において、どのような技術的な構成を特定したものか不明確であった。そのため、審査過程において、審査官は不明確の拒絶理由を通知するとともに、最後の拒絶理由通知、拒絶査定の査定文においては、当該構成の技術的な意義を認定した上で、進歩性を判断していた。これに対して、原告も意見書で反論をしていた。

 このような経緯から見ても、訴訟では、上記の相違点についての判断を主たる争点すべきであったと考える。

 また、権利行使の場面を想定すると、発明特定事項の技術的な意義、及び発明特定事項と従来技術との間に進歩性が担保される相違点があることを明らかにすることは、必要不可欠なことであると考える。この点が、審査、審判段階で争点となったのにも関わらず、訴訟で最終的な判断されなかったことは、本件特許権の有効性についての疑義が生じる原因となる。この点を考えても、原告は上記の相違点を主たる争点とすべきではなかったのではないか。

 特許出願人は、特許権を受けることのみに拘るのではなく、権利行使の場面も視野に入れた対応をすべきと考える。

以上



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