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河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における機能的クレームの権利範囲解釈

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中国特許判例紹介:中国における機能的クレームの権利範囲解釈

~実用新型特許における機能的クレームの解釈~

河野特許事務所 2013年7月4日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                   曲声波    上訴人(原審原告)

v.

新世界 (中国) 科技伝媒有限公司等

                      被上訴人(原審被告)

 

1.概要

 中国においても他国と同様に作用的、機能的、効果的な文言を用いた請求項の記載が許容されている。

 

 しかしながら、機能的な請求項の場合、明細書の記載を超えて当該機能を有する全ての形態が権利範囲に含まれてしまうため、一定の制限が課せられている。司法解釈[2009]第21号第4条によれば、「請求項において機能または効果により表されている技術的特徴について、人民法院は明細書及び図面に表された当該機能または効果の具体的な実施形態及びそれと均等な実施形態と合わせて、当該技術的特徴の内容を確定しなければならない。」と規定されている。

 

 本事件においては実用新型特許の請求項においてソフトウェア処理に関する機能的記載が用いられており、その権利範囲解釈が問題となった。上海市高級人民法院は、明細書に対応する記載がないことから、イ号製品は権利範囲に属さないとする判決をなした[1]。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 上海科臻投資コンサルティング有限公司は、2004年3月23日“多路線公共交通電子標識”と称する実用新型特許出願を国家知識産権局に提出した。国家知識産権局は、2006年5月3日上海科臻投資コンサルティング有限公司に実用新型特許権を付与した。当該実用新型特許権は、曲声波(以下、原告)に譲渡された。特許番号はZL200420021194.5(以下、194特許という)である。

 

 参考図1は194特許に係る駅到着予報電子表示スクリーンを示す説明図である。

 

 

 

参考図1 194特許に係る駅到着予報電子表示スクリーンを示す説明図

 

 争点となった請求項1は以下のとおり。なお、争点となる箇所には筆者において下線を付した。

 

1,駅名表示器(1),駅到着予報電子表示スクリーン(2),多路線車駅列表表示板(3),及び、支柱固定座(4)により構成された多路線公共交通電子標識において:

a)駅名表示器(1)は標識の頂部に設けられ;

b)駅到着予報電子表示スクリーン(2)は標識の上部に設けられ,駅名表示器(1)の下方に連接されており;

c)多路線車駅列表表示板(3)は駅到着予報電子表示スクリーン(2)と支柱固定座(4)との間に固定されている。

 

 明細書第3頁には以下の記載がなされている。

「公知の公共交通路線電子標識の構造は、通常一つの公共交通路線上だけで使用することができる、或いは、複数の公共交通路線で使用できるとしても、長時間の停電または通信故障が起こった状況下では、電子標識は公共交通路線車駅列表等必要な公共交通乗車案内を正確に表示する事を保証できず,公共交通標識の24時間中断の無いサービス要求を満たすことができない。

 本実用新型は多路線公共交通電子標識構造を提供する。該電子標識複数路線の公共交通路線は同時表示の需要を満たし、また公共交通標識の24時間中断のないサービス需要を満たすことができる。」

 

 明細書第4頁には以下の記載がなされている。

「駅到着予報電子表示スクリーンは電子標識の上部にあり,駅名表示器の下方に連接されており,本実施例中では一般の三行表示LEDドットマトリクスキャラクタ表示スクリーンを採用しており,各路線の到着が最も近い車両の予測到着時間及び本駅に到達するまでの距離等の動態情報をスクロール表示し,また天気予報、ニュース、ビジネス上の広告等公衆が関心を持つ情報を表示することもできる。」

 

(2)訴訟の経緯

 新世界(中国)科技伝媒有限公司等(以下、被告)は上海浦東スマート公共交通駅亭プロジェクトに基づき、上海市に約500台公共交通電子標識(以下、イ号製品という)を設置した。上海浦東スマート公共交通駅亭プロジェクトに関するHPには以下の表示がある(参考図2参照[2])。

 

 

 

 

参考図2

 

 イ号製品も表示スクリーンを備え、各種情報を表示する。原告は被告が設置したイ号製品が194特許の侵害に当たるとして上海市第一中級人民法院に提訴した。

 

(3)中級人民法院の判断

 上海市第一中級人民法院は、イ号製品は194特許の技術的範囲に属さないと判断した。イ号製品の表示スクリーンには、各種情報が表示されるが、次の車両の到着予報時刻は表示されない。請求項1には、「駅到着予報電子表示スクリーン」と記載されていることから、イ号製品の電子表示スクリーンと、請求項1に記載の駅到着予報電子表示スクリーンの技術特徴は必ずしも同一ではない。

 

 イ号製品の表示スクリーンはリアルタイムで各種情報を表示する機能を有するが、上海市第一中級人民法院は、均等論上の侵害にも該当しないと判断した。明細書中には、駅到着予報電子表示スクリーンは、各路線の最も近い到着車両の予測駅到着時間及び到着までの距離等の動態情報をスクロール表示する以外に,さらに天気予報、ニュース、ビジネス広告等公衆が関心を持つ情報を表示することもできると記載されている。

 

 しかしながら、原告は電子表示スクリーンにはその他の技術方案の可能性があることを意識した上で、敢えて請求項には「駅到着予報電子表示スクリーン」と限定し、天気予報、ニュース、ビジネス広告等の公衆が関心を持つ情報の技術特徴を表示することを請求項に記載していない。

 

 上海市第一中級人民法院は、天気予報、ニュース、ビジネス広告等公衆が関心を持つ情報を表示するという技術特徴は、既に原告が自ら特許の保護範囲外に排除したと認定すべきであり,これらの技術特徴は、現有の技術領域に属すると判断した。以上のことから,上海市第一中級人民法院はイ号製品中の電子表示スクリーンは、請求項1に記載された駅到着予報表示スクリーンの技術特徴とは均等でもないと認定した[3]。

 

 

3.高級人民法院での争点

争点:実用新型特許において請求項に機能的な記載を行った場合の権利範囲はどのように解釈すべきか

 請求項には「駅到着予報」電子表示スクリーンと機能的な表現がなされている。一方実用新型特許は、製品の形状、構造又はそれらの組合せを保護するものであり(専利法第2条第3項)、到着予報等のソフトウェア処理を保護するものではない。このような場合に、実用新型特許の権利範囲をどのように解釈すべきかが争点となった。

 

 

4.高級人民法院の判断

争点: 実用新型特許の機能的請求項の権利範囲は明細書及びその均等物に限定される。

 明細書の記載によれば,「駅到着予報電子表示スクリーン」は多行表示のLEDドットマトリクス表示スクリーンと記載されている。しかしながら、請求項及び明細書には、多行表示LEDドットマトリクス表示スクリーンを採用して、具体的にどのようにして、各路線の最も近い到着車両の予測到着駅時間及び駅までの到達距離等をスクロール表示するかについて、全く記載されていなかった。

 

 また本案において、各路線の最も近い到着車両の予測到着駅時間及び駅までの到達距離等の動態情報をスクロール表示する「駅到着予報電子表示スクリーン」が、相対的に確立した技術であり、また当業者が熟知しているという証拠も提出されなかった。

 

 原告は、国家標準GBT5845-2008《都市公共交通標志》を提出したが、当該国家標準は単に“電子標識”に対する定義を行っているにすぎず,請求項に記載された駅到着予報に関する技術を開示していない。

 

 司法解釈[2009]第21号第4条は以下のとおり規定している。

 

第4条 請求項において機能または効果により表されている技術的特徴について、人民法院は明細書及び図面に表された当該機能または効果の具体的な実施形態及びそれと均等な実施形態と合わせて、当該技術的特徴の内容を確定しなければならない。

 

 上海市高級人民法院は、特許明細書には、多行表示LEDドットマトリクスを採用した表示スクリーンの“駅到着予報電子表示スクリーン”に関し,“各路線の最も近い到着車両の予測到着駅時間及び駅までの到達距離等の動態情報”を予報する機能を実現する具体技術手段の記載が存在しないことから、「駅到着予報電子表示スクリーン」の権利範囲を確定する術がないと判断した。

 

 上海市高級人民法院は、イ号製品の技術方案が如何なるものであったとしても,原告の侵害主張は成立しないと判断した。このように判断しなければ、請求項1中の“駅到着予報電子表示スクリーン”機能特徴そのものの記載に基づき権利範囲内容を直接確定しなければならず、それでは、当該機能を実現することのできる全ての実施方式をカバーすると解釈でき、このような解釈は最高人民法院が同司法解釈を設けた趣旨に合致しないからである。

 

 また、実用新型は製品の形状、構造またはその組み合わせについて適用される実用的な新たな技術方案であり,製品の形状及び/または構造に対してなされた改良である。このように、実用新型特許は製品を保護するものであるが,実用新型特許の技術方案は必ずしも、形状及び構造性の技術特徴によってだけ構成されるというものではない。

 

 実用新型特許に係る技術方案においては形状及び構造性の技術特徴を有するほか,非形状及び非構造性の技術特徴をも有することができ、これらの技術特徴が共同で限定する技術方案が形状または構造の製品を確定していれば,当該製品は実用新型特許の保護客体となることができる。上海市高級人民法院は、実用新型特許請求項の保護範囲は,請求項に記載の形状及び構造性の技術特徴と、非形状及び非構造性の技術特徴とを含む全ての技術特徴をもって共同で限定されると判示した。そして本案においては、「駅到着予報」電子表示スクリーンと非形状及び非構造の技術特徴による限定がなされており、当該限定を除いた解釈は認められないと判断した。

 

 

5.結論

 高級人民法院は、技術的範囲に属さないとする中級人民法院の判断を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 中国における実用新型特許には194特許の如くソフトウェア処理を含む発明創造に特許が付与されるケースが多い。日本では実用新案特許がほとんど活用されていないが、中国では様々なタイプの実用新型特許権が数多く成立しているので注意が必要である。

 

 中国における機能的クレームについては2009年の司法解釈により、その権利範囲解釈が明確化されたが、筆者の知る限り本事件が、同司法解釈が適用される最初のケースである。本事件では、明細書の記載が十分でなく、その結果当該機能的クレームの権利範囲がゼロと、厳しく判断された。少なくとも最低限のアルゴリズムを明細書に記載すべきであった。

 

以上



[1] 上海市高級人民法院2011年2月10日判決 (2010)沪高民三(知)終字第89号

[2] 新世界(中国)科技伝媒有限公司HPより(2013年5月19日http://www.nwtm.cn/)

[3] 上海市第一中級人民法院判決 (2009)沪一中民五(知)初字第133号

 

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