- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:事業再生と承継・M&A
- 村田 英幸
- (弁護士)
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事業承継と株式公開(IPO)
1 株式公開とは、未上場会社の株式を証券市場(株式市場)において不特定多数の株主により所有され、株式市場において自由に売買が行われることを可能にすることです。株式を(公募や売出しによって)新規に公開することから新規公開、IPO(Initial Public Offering)とも呼ばれます。
かつて、東京などの証券取引所に公開することを上場と呼び、日本証券業協会の登録銘柄となることを意味する店頭登録(それまで店頭市場では旧証券取引法上、成行売買、先物取引、オプション取引、立会外分売などが認められていなかった)と区分されていましたが、平成16年のジャスダック証券取引所の発足とともにその区分は廃止されています。
2 株式公開のメリット
(1)長期安定資金の調達と財務体質の強化
銀行借入よりも低コストで株式市場から直接資金が調達できるため、資金調達能力が増大し、時価発行増資等によるプレミアムにより自己資本が充実し財務体質の強化が図られます。
(2)会社の知名度・社会的信用力の向上
株式公開後は、株式市況欄を始めとする新聞報道等の機会が増えることにより、企業の知名度が向上し、優良企業としてのイメージが高まり、取引先、金融機関等からの信用が高まります。
(3)優秀な人材の確保とモラールの高揚
株式公開による知名度・信用力の向上、自己資本充実による安定性の増大により、将来性のある安定した職場として、従来よりも高く評価され、優秀な人材の採用が可能となります。また、株式公開会社の役員・従業員であるという自覚によるモラールの高まりが期待されます。
また、役員や従業員に対して、ストック・オプション制度、従業員持株制度といった複数のインセンティブ制度を導入することにより、会社業績の向上を図ることも期待できます。
(4)内部統制の強化
株式公開の準備過程において、個人的経営から組織的な経営への転換がなされ、株式公開後は、投資家をはじめとした第三者のチェックを受けることから、内部統制(会社法362条4項、会社法施行規則100条)が十分機能した社内管理体制への充実が図られます。
(5)法人税課税の軽減
株式を公開することにより、法人税法で規定される非同族会社となると、 それまで受けていた同族会社に対する留保金課税等の不利な取扱いがなくなります。
(6)創業者利潤の実現
オーナーは、株式公開時の株式の売出によって投下資本の一部を回収し、 創業者利潤を実現することができます。
(7)株式の公正な価格形成と財産価値の増大
株式が証券市場で流通し、公正な株価が形成されることによって、 株式の換金性が増し、 株主の財産形成が図られます。
(8)事業承継
株式公開は、自社株式に換金性を付与するという意味でそれ自体も事業承継対策として大きな意味を持っています。
① 株式の公開により、会社(企業)は証券市場における機動的な資金調達(直接金融)による事業資金の調達が可能になり、既存株主にとっては株式の市場売却によって投下資本の回収が容易になるなどの利点があります。
② 市場の厳しい評価にさらされ、投資家への説明責任を求められることから事業の改革を通じた競争力の強化や、環境問題、企業の社会的責任(CSR)などへの積極的な取り組みにつながるなどのメリットがあると考えられています。
(9)M&Aの選択肢のひとつ
株式公開した自社株を利用して、資金流出なしで(ただし、反対株主の株式買取請求はあります)、株式交換等によるM&Aをより有効に活用できます。
3 株式公開のデメリット
(1)株価の変動のリスク
会社の株式の価値を日々、市場投資家が判断することから、経営者が株主価値の向上について、どの程度の力量・資質などが資本市場の論理から厳しく問われることになります。
(2)コンプライアンス経営の実行と責任
株式公開に伴い、会社法、金融商品取引法、日本証券業協会の定める規則等、遵守すべき法令等が拡大します。このため、株主代表訴訟、役員・企業に対する損害賠償請求等の訴訟が提起される可能性が高まります。
また、取締役の解任などで役員の地位が不安定なものになるおそれがあるリスクがあります。
(3)M&Aや株式の投機的取引に対する危険性
証券市場で自由に株式が売買されることになるので、投機的取引の対象となったり、経営陣にとって友好的でない株主による敵対的買収などのおそれがあります。安定株主対策、 日々の自社株取引の管理等を慎重に行っていくとともに、株主総会の運営についても対策が必要となります。
(4)株式事務・経費の増大
公開により株式の流通性が高まり、株主の異動が頻繁になり株式事務の負担が増え、 株主総会運営等の事務量増大に伴う継続的なコストが増加します
(5)企業内容開示義務
株式を公開すると、投資家に投資判断資料を提供するため、決算発表、有価証券報告書の提出等、企業内容の開示を適時に行う必要となり、事務・経費負担が増大します。会計をガラス張りにしなければならないこと等から節税や蓄財等がしにくくなることから同族企業の多くは株式を公開していません。
4 株式公開の方法
株式公開の方法は証券取引所市場への上場があります。株式公開時においては、通常、新株を発行し、株式市場から新たな資金調達を行う「募集」や既存株主が保有株式を売却する「売出し」が行われます。
5 株式公開にかかる費用
株式公開には、その準備段階から公開達成までの期間に様々な費用がかかります。
(1)公開準備費用
主幹事証券会社、監査法人等に対する費用
(2)公開申請費用
証券取引所に対する上場審査料・手数料、申請書類作成に伴う費用、会社案内、PRビデオ作成等
(3)公募増資費用
引受手数料(スプレッド方式以外の場合)、新株発行登録免許税、払込事務取扱手数料、有価証券届出書・目論見書等作成費用、法定公告費等
5 公開後の経常費用
(1)証券取引所(日本証券業協会)の年賦課金
上場後は、毎年、年賦課金(登録管理料)を証券取引所に支払うことになります。
(2)(財)日本証券保管振替機構への賦課金
(3)監査法人への監査報酬
(4)有価証券報告書、株主総会招集通知作成等の作成費用
(5)株式事務代行手数料
(6)決算公告費
(7)IR対策費用
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