退職慰労金の定款の定めがなく株主総会決議がない場合の救済2 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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閲覧数順 2016年12月03日更新

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退職慰労金の定款の定めがなく株主総会決議がない場合の救済2

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イ 損害賠償責任の追及

 次に,退職金付与の合意をした代表取締役および会社,さらには退任取締役に関

する議題を株主総会に付議しない取締役に対して損害賠償責任を追及する法律構成

があります。

(ア)退職金付与の合意をした代表取締役および会社に対して

退職金付与の合意がなされたとしても,退任取締役は,会社に対して抽象的な退職慰労金請求権を取得するにすぎませんから,退職金支払約束をした代表取締役に対して,退職金相当額につき,損害賠償請求することは認められないでしょう。

また,会社法361条が退職金支給に関する具体的決定権限を株主総会に付与して

いることからして,たとえ任用契約において退職金付与の合意がなされたとして

も任用契約を会社のために締結する代表取締役にその具体的決定権限はなく,会

社を拘束するものではないと考えられます。したがって,具体的請求権が発生し

ていない段階で,会社に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできないと考えられます。

この点,退職金付与の合意をした代表取締役は,退任取締役との間で株主総会で

決議を成立させる旨の一種の議決権拘束契約を締結したとみて,その義務を懈怠した場合には損害賠償責任を負うと解すべきであるとする有力な見解があります(江頭憲治郎『株式会社法第3版』430頁)。この法律構成は退職慰労金を支給しないことの責任を問うものではなく,代表取締役自ら退職金に関する議案を提出し,その議案に賛成すると同時に他の取締役・株主に対しその議案に賛成するように説得する義務を懈怠したことの責任を問う法律構成です。もっとも,当該義務違反と退任取締役が主張するであろう退職慰労金相当額の損害との間の相当因果関係の立証が困難であることが予想されます。合意をした退職金の額が内規や慣行に沿うものであって,しかも退職金付与の合意をした代表取締役が支配株主であり,株主総会で決議が成立する可能性が高いといえることが要件となるのではないかと考えられます。

 また,この一種の議決権拘束契約を会社に及ぼすことも考えられますが,前述し

た通り,会社法361条が退職金支給に関する具体的決定権限を株主総会に付与して

いることからして,当該契約が会社を拘束することはないものと考えられます。

(イ)退任取締役に関する議題を株主総会に付議しない取締役に対して

株主総会を招集するか否か,いかなる議題を付議するのかについては原則として

取締役会(取締役会非設置会社では取締役)の裁量に委ねられています(会社法298条4項,296条3項)。

しかし,会社と退任取締役との間で退職金付与の合意がなされた場合には,退任取締役は株主総会決議によって認められた限度で具体化する抽象的な退職慰労金請求権を取得しますから,会社の取締役は株主総会に退職慰労金を付議することを取締役会で決定し,株主総会の判断を経る義務が生じると考えられます。

そこで,取締役会が合理的期間を徒過しても正当な理由なく,退職慰労金に関する議題を株主総会に付議しない場合には,取締役の善管注意義務または忠実義務違反を理由に,会社法429条1項に基づき損害賠償請求をすることが考えられます。どの程度の期間が合理的なものかは,会社の内規や慣行に照らして判断することになるといえますが,一般的には,定時株主総会終結時に任期満了退任する取締役に対する退職慰労金支給決議は当該定時株主総会で,事業年度の途中で辞任や死亡により退任した取締役に対する退職慰労金支給決議は,その退任後最初に行われる定時株主総会で行われることが多いと思われます。

 この法律構成の場合も,退職慰労金相当額を損害として請求するためには,取締役の義務違反と損害との間に相当因果関係が認められなければなりませんから,仮に損害賠償責任が認められる場合でも,退職金相当額ではなく,株主総会に付議する義務の違反についての損害賠償として,その損害は慰謝料や弁護士費用に限られることが考えられます。退職慰労金相当額を損害として請求するためには,取締役会が付議していたら,退任取締役が主張する退職慰労金相当額が支給されたであろうことを立証する必要があります。既に株主総会で別の金額が決議されたのであれば,退職金相当額の損害賠償責任は否定されることになります(大阪高判平成16・2・12金判1190号38頁)。

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