中国外観設計特許の類否判断 (第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国外観設計特許の類否判断 (第3回)

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中国特許判例紹介:中国外観設計特許の類否判断 (第3回)

~類否の判断主体~

河野特許事務所 2012年2月29日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                              本田技研工業株式会社

                           無効宣告被請求人、一審原告、二審上訴人、再審請求人

                                          v.

                           知識産権局専利復審委員会

                                    一審被告、二審被上訴人、再審被請求人

 

4.北京市高級人民法院の判断

類否は、SUVの一般消者に対する視覚效果への影響を考慮すべきである

 外観設計が専利法第23条の規定に合致するか否かについて判断する場合、係争外観設計に係る物品の一般消費者の知識レベル及び認知力を基に評価される。これは異なる種別の物品は、異なった消費者群を持つからである。最高人民法院は、特定タイプの外観設計に係る物品の一般消費者は、次に掲げる特徴を備えなければならないと判示した。

 

(1)係争外観設計の出願日以前の同種または類似物品の外観設計またはその常用設計手法について、常識程度の認識を持っている。

 例えば自動車の場合、一般消費者は市販されている自動車、及び、メディア上で頻繁に見られる自動車広告上の情報等について、ある程度の認識を持っているものでなければならない。なお、常用設計手法とは、設計の転用、つなぎ合わせ、置換え等である。

 

(2)外観設計に係る物品同士の形状、図案及び色彩の相違点について、ある程度の識別力を備えているが、物品の形状、図案及び色彩の軽微な変化まで注意が行き届かない。

 

 審查指南[1]によれば,一般消費者の特徴は,同種または類似物品の外観設計または常用設計手法について、常識程度の認識を持っており,外観設計に係る物品同士の形状、図案及び色彩の相違点について、ある程度の識別力を備えているが、物品の形状、図案及び色彩の軽微な変化まで注意が行き届かないことと規定している。

 ここで所謂“常識程度の認識”とは,関連製品のデザイン状况に精通している一方で、デザインする能力を有さないが、基礎的、簡単な認識には限定されないことをいう。

 所謂“全体”とは,製品の可視部分の全部のデザイン特徴を含み,その中の特定部分をいうものではない。

 所謂“総合”とは,製品デザインの全体的視覚効果に対し影響を与える全ての要素の総合をいう。

 

 本案において,係争対象の自動車の外観設計の“全体”は,自動車の基本的な外形輪郭及び各部分の相互比例関係を含み,さらに自動車の前面、側面、後面等をも含み,全体的観察を行わなければならない。その上で最高人民法院は、総合判断を行う場合,係争タイプ(SUV)の特徴に基づき,諸々の部分を、自動車デザイン全体の視覚效果への影響に対して、比較判断しなければならないと判示した。

 

 最高人民法院は、本案係争対象となっているSUVに関していえば,SUVの外形輪郭は全て比較的似ており、一般消費者に対する視覚效果への影響は比較的限られていると判断した。反対に、自動車の前面、側面、後面等の部位のデザイン特徴の変化は,SUVタイプの一般消者の注意をより多く引き起こす可能性があると述べた。

 

 そして、最高人民法院は特定タイプの自動車(SUV)の一般消費者がより注意を引く部分について以下のとおり相違点を分析した。

 

 523特許が示す外観設計は、引例が示す外観設計と比較すれば,ヘッドライト、フォグランプ、フロントバンパー、グリル、サイドウィンドー、バックライト、テールバンパー、ルーフ輪郭等、装飾性に関し比較的強い相違点が存在する。

 

 特に,523特許の自動車ヘッドライトは近似三角形の不規則四辺形デザインを採用しており,歯保護用逆U字形のフロントバンパーと中間横向きの細長グリルとを組み合わせており;

自動車の側面側後部ウインドウは不規則の四辺形デザインを採用し,かつ後部ウィンドウガラスとバックライトとの間は窓枠により分離されており,ボディ上部と下部との組み合わせは非常に平滑であり;

自動車後面はバックライトを、ルーフ附近から始まり一直線にテールバンパーまで延びて反り返る“上が狭く下が広い”の柱形ライトデザインを採用して、歯保護用U形テールバンパーを組み合わせており,共に比較的突出しており、人目を引き,比較的強い視覚衝撃力を有する。

 

 明らかに,これらの相違点は本案訴訟の対象となっているタイプ(SUV)の自動車の一般消費者からすれば一目で分かるものであり,523特許に示す自動車デザインと引例に示す自動車デザインの全体的視覚效果と区別するのに十分であるといえる。以上の理由により最高人民法院は、523特許と引例との上述した相違点は全体視覚效果に対し顕著な影響を有することから、両者は類似しないと結論づけた。

 

 また、復審委員会、北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の判断について、最高人民法院は以下のとおり誤りを指摘した。特許復審委員会の決定及び原一、二審判決はともに、2つの外観設計間の差異を認定したが、当該差異は“極めて細かい差異”にすぎないという理由をもって,当該差異部分のデザイン特徴を自動車デザインの“全体”から排除しており,実質上2つの外観設計の全体外形輪郭に対してのみ重点を置いて比較を行った。その上、自動車の全体外形輪郭を本訴訟のタイプの自動車ではない一般消の視覚に対し、受ける影響を最も顕著なものと認定したと、最高人民法院は誤りがあることを指摘した。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、復審委員会の決定、北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の判決を取り消す判決[2]をなした。

 

 

6.コメント

 外観設計の類否について最高人民法院が示した重要な判決である。実務上自社が過去に出願した意匠登録出願が引例とされ、類似するから無効と主張される場合が多い。消費者にとって評価の高い商品であればあるほど、マイナーチェンジを繰り返し、デザインをより洗練されたものに進化させていくであろう。

 

 本事件はこのようなデザインの進化を適切に保護すべく、一般消費者の範囲を特定の分野に限定し、限定された一般消費者の視覚に与える影響に基づき類否を判断している。中国では外観設計特許は、先行外観設計との類否を判断することなく無審査で登録[3]されるため、類否に関する議論が十分に行われていない。本最高人民法院の判決は、今後の外観設計の類否判断に極めて大きな影響を与えることになるであろう。

 

 なお、北京市高級人民法院において外観設計特許権が無効と判断された後、石家庄市中級人民法院での非侵害確認訴訟が再開された。双輪公司は523特許が無効であり、また対応する日本意匠登録出願も拒絶され登録されていないにもかかわらず、度重なる警告、巨額の損害賠償要求(1億元、約12億円)を受け、損害を被ったとして逆に損害賠償請求の主張を追加した。石家庄市中級人民法院は、悪意ある権利行使により、双輪公司が製品の設計変更、製品販売の遅延等を余儀なくされたことから、損害賠償金として2579万元(約3億円)の支払いを原告に命ずる判決をなした[4]。

 

 原告はこれを不服として河北省高級人民法院へ上訴した。今回、最高人民法院が523特許は有効であるとの判断をなしたことから、石家庄市中級人民法院がなした判決は、河北省高級人民法院により取り消され、事件は再び、石家庄市中級人民法院で審理されることとなる。

 

判決 2010年11月26日

以上

 

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[1] 審査指南第4部分第5章4.

[2] 最高人民法院2010年判決 (2010)行提字第3号

[3] 専利法第40条

 実用新型及び外観設計の特許出願が初歩的審査を経て拒絶理由を発見しなかった場合は、国務院特許行政部門は実用新型特許権又は外観設計特許権を付与する決定をし、特許証書を発行し、同時に登録と公告を行う。実用新型特許権及び外観設計特許権は公告の日より効力を生じる。

[4] 石家庄市中級人民法院2009年7月判決 (2003)石民五初字第00131号

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