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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第24回 無効宣告請求と行政訴訟
河野特許事務所 2013年6月13日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2013年4月号掲載)
1.概要
第23回に引き続き無効宣告請求手続について説明すると共に、行政訴訟について解説する。
2.無効宣告請求の取り下げ
(1)審査決定前の取り下げ
復審委員会が後述する無効宣告請求審査決定をするまでは、無効宣告請求人は、無効宣告請求を取り下げることができる(実施細則第72条)。無効宣告請求は、特許権侵害訴訟に対する対抗手段として行われる場合が多い。侵害訴訟の過程において当事者間で和解が成立することも多く、無効宣告請求審査決定が下されるまでは、当事者の意思を尊重し、自由な取り下げを認めることとしたものである。この場合、無効宣告に係る審理手続は終了する。
(2)取り下げが認められない場合
無効宣告請求の取り下げを行った場合でも、復審委員会が入手した根拠及び行った審理作業に基づき、特許権の全部無効または一部無効の決定を行うことができると判断した場合は、審理手続は終了しない(実施細則第72条)。すなわち、復審委員会における審理がある程度進み、復審委員会が特許は無効であるとの判断に至った場合は、たとえ取り下げられても、無効の決定を下すこととなる。これは特許権が対世的効力を有することから瑕疵ある権利は、取り下げられたとしても無効とするものである。従って、当事者間の和解により、無効宣告請求を相手方に取り下げてもらう場合には、取り下げ日を取り決め、速やかに取り下げてもらうことが重要である。
3. 無効宣告請求審査決定
口頭審理後、約1~2ヵ月後に無効宣告請求審査決定が下される。無効宣告請求審査決定は以下の3つの類型となる。
特許権の全部無効の宣告
特許権の一部無効の宣告
特許権の有効性の維持
(1)特許権全部無効
無効宣告された場合、特許権は最初から存在しなかったものとみなされる(専利法第47条)。
(2)特許権の一部無効
特許の一部の請求項を対象とした請求人の無効宣告理由が成立しており、その他の請求項を対象とした無効宣告理由が成立しない場合、一部の請求項についてのみ無効の宣告がなされ、その他の請求項は有効性が維持される。例えば、独立請求項1は創造性(専利法第22条第3項)なしと判断されたが、当該請求項1に従属する従属請求項2は創造性ありと判断された場合、請求項1のみが無効となり、請求項2は依然として特許の有効性が維持される。
また複数の外観設計を含む外観設計特許権に対する無効宣告請求において、一の外観設計については無効と判断され、他の外観設計については有効と判断された場合、一の外観設計のみが無効であり、その他の外観設計については依然として有効と判断される。
上述した一部無効とされた請求項及び外観設計については、最初から存在しなかったものとみなされる。
4.決定書の送付
審査決定後、復審委員会は無効宣告請求審査決定を当事者双方に送付する(専利法第46条)。無効宣告請求と並行して民事訴訟が係属しており、審理開始前に事件を処理する人民法院に通知している場合、復審委員会は決定後、当該人民法院に審査決定及び無効宣告審査結審通知書を送付する。無効宣告請求が提出された場合、民事訴訟手続は復審委員会の決定が下されるまで、中止されることが多い。そのため、民事訴訟の審理を再開すべく審査決定等の書類を人民法院へ送付することとしたものである。もちろん有利な結果を得た当事者自ら、人民法院へ審査決定等の書類を証拠として人民法院へ提出しても良い。
5.決定の登記と公告
特許権無効と宣告した決定は、国務院特許行政部門が登録と公告を行う(専利法第46条)。
6.不服申し立て
復審委員会の特許権無効宣告または特許権維持の決定に不服があるときは、通知を受領した日から3ヶ月以内に、人民法院に提訴することができる(専利法第46条第2項)。決定に対する不服申し立ては、北京市第一中級人民法院へ提訴する。また、人民法院は無効宣告請求の相手方当事者に第三者として訴訟に参加することを通知しなければならない。これは、無効宣告請求手続は当事者対立構造を採用するものの、特許行政訴訟は被告を復審委員会とする必要があるため、直接の利害関係のある当事者に第三者として行政訴訟への参加を認めたものである。
7.決定の確定
3ヵ月以内に北京市第一中級人民法院へ提訴しなかった場合、北京市第一中級人民法院での判決が確定した場合、または、さらに上訴し北京市高級人民法院での判決が確定した場合、復審委員会での決定に効力が発生する。これにより最高人民法院が再審する場合を除き、特許が維持され、或いは、特許の全部または一部が最初から存在しなかったものとされる。
8.紛争の蒸し返し禁止
特許権が無効とされた場合は、当該権利は最初から無かったものとされるが、特許権の無効の決定は、特許権が無効とされる前に人民法院が言い渡しかつすでに執行した特許権侵害の判決、調解書、すでに履行または強制執行された特許権侵害紛争の処理決定、ならびにすでに履行された特許実施許諾契約及び特許権譲渡契約に対しては、遡及効力を有しない(専利法第47条第2項)。当事者の負担を軽減し、また訴訟経済の観点から既に執行した後に特許が無効とされても、遡及効力を有さないこととしたものである。従って、侵害者が損害賠償請求に基づき、一旦損害賠償金を支払えば、後に特許権が無効になったとしても特許権者は当該損害賠償金を返還する必要は無い。
ただし、明らかに特許に瑕疵があることを知りながら特許権行使を行った場合等、特許権者の悪意により他人に損失をもたらした場合は、賠償しなければならない(専利法第47条第2項但し書き)。すなわち、特許権侵害の賠償金、特許実施料、特許権譲渡の対価を返還しないことが、明らかに公平の原則に違反するときは、全部又は一部を返還しなければならない(専利法第47条第3項)。
→続きは、月刊ザ・ローヤーズ4月号をご覧ください。
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