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河野 英仁
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中国商標判例紹介:中国における馳名商標の保護

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中国商標判例紹介:中国における馳名商標の保護

~他の事件における馳名商標認定を参酌した事例~

 河野特許事務所 2013年6月27日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

レノボ(北京)有限公司

                           上訴人(一審原告)

v.

中華人民共和国国家工商行政管理総局商標評審委員会

                           被上訴人(一審被告)

 

1.概要

 商標権の権利範囲は指定商品及び指定役務と同一または類似の商品及び役務まで及ぶが、非類似の商品及び役務には原則として権利範囲は及ばず、また第三者の登録をも排除することはできない。ただし、非常に有名な商標である場合、中国では馳名(ちめい)商標として一定の保護を受けることができる。例えば中国商標法第13条第2項は以下のとおり規定している。

 

中国商標法第13条第2項

 同一又は非類似の商品について出願した商標が、中国で登録されている他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳したものであって、かつ公衆を誤認させ、同馳名商標権者の利益に損害を与え得る場合には、その登録とその使用を禁止する。

 

 しかしながら、馳名商標か否かは案件毎に商品及び役務間の関係、誤認の恐れ等が個別具体的に判断され、実務上は中国商標法第13条第2項による保護を受けることは困難なことが多い。

 

 本事件においては、指定商品の販売ルート等が大きく相違することから、評審委員会及び北京市第一中級人民法院は、中国商標法第13条第2項による馳名商標による保護を与えなかった。これに対し、北京市高級人民法院は過去の他の事件における実績を考慮して中国商標法第13条第2項の適用を認めた。

 

 

2.背景

(1)引証商標の内容

 1989年6月28日,レノボ(北京)公司(原告)は商標局に引証商標(参考図1参照)を登録申請した。なお、联想(日本語で「連想」)は原告の中国語会社名である。指定商品は第9類「漢字カード(Chinese character card)、マイクロコンピュータ、コンピュータ周辺機器、FAXカード、電源、プログラミング可能な工業コントローラ」等である。登録番号は520416号であり、存続期間は2020年5月29日までである。

 

 

参考図1 引証商標

 

(2)被異議商標の内容

 汀州醸造工場(訴訟参加人)は、2001年8月31日商標局に、第1988387号“联想及び図”商標(以下、被異議商標、参考図2参照)を登録申請した。指定商品は第32類ノンアルコール果汁飲料、水(飲料)、ミネラルウォーター(飲料)等である。

 

 

参考図2 被異議商標

 

 被異議商標は商標局の審査を経て公告されたため、原告は被異議商標に対し異議申し立てを行った。商標局は、異議理由は成立しないと判断し,被異議商標の登録申請を認める裁定をなした[1]。

 

(3)評審委員会への復審請求

 原告はこれを不服として、商標評審委員会に復審を申請した。復審請求時に原告は以下の証拠を提出した。

1、原告の一連の商標登録証明及び登録公告のコピー;

2、原告自身で作成した企業情況紹介;

3、国内外のリーダー及び社会の著名人が原告の社内を見学、訪問した際の写真コピー;

4、原告が自ら行った統計の歴年の獲得栄誉リスト;

5、原告が自ら行った統計の新創造成果の特許保護及び既に獲得した特許権のリスト;

6、商標局が1999年1月5日なした商標監(1999)35号《“連想”商標を馳名商標と認定することに関する通知》。当該証拠は、審査裁定を経て,原告が登録しかつコンピュータ商品上に使用する“連想”商標が馳名商標であることを示している。;

7、北京市工商行政管理局が2005年3月1日公布した《栄誉証書》。当該証拠は、“マイクロコンピュータ、コンピュータ周辺機器等”の商品上に使用する“連想”商標が2004年度北京市著名商標を獲得した事を示している;

8、原告の商品(例えばデスクトップコンピュータ、ノートPC等)及び原告の法定代表者楊元慶が獲得した栄誉証書のコピー。なお、上述した栄誉証書の公布時期は2004年である。

 

 2010年9月6日,商標評審委員会は被異議商標の顕著な部分は文字部分の“連想”であり,引証商標と音、形、意味上同一であると判断した。しかし、引証商標はコンピュータ商品上で比較的高い知名度を有するが,知名度があるコンピュータ商品と被異議商標の指定商品の水(飲料)等の商品とは機能、用途、原材料、販売ルート等の面で比較的大きな差異があると判断した。また,“連想”は比較的よくある中国語語彙であり,通常の消費者は一般に被異議商標の水(飲料)等の商品が原告によるものである、または、原告と関連性があるとは考えにくいと判断した。

 

 以上のとおり,被異議商標の登録は関連公衆に誤認を起こさせるものではなく,原告の利益を害するものでもないことから,評審委員会は、中国商標法第十三条第二項に規定は適用されないと判断した。商標評審委員会は商標局審査官の判断を支持する裁定をなした[2]。原告は評審委員会の裁定を不服として,北京市第一中级人民法院に訴訟を提起した。

 

(4)中級人民法院での判断

 原告は第1審時に以下の証拠を補充提出した。

1、ニュースメディア報道の部分コピー。なお、その中で公開時期が最も新しいのは2006年3月21日である。

2、原告とコカコーラ(中国)飲料有限公司との業務提携サイン書類2部。なお,サイン時は2005年1月27日と2005年12月27日である。

3、コカコーラ公司が配布した広告宣伝ビデオの写し;

4、“連想”商標を有するその他の製品図、例えば手袋、衣服等;

5、連想公司が国際分類第16類、第30類、第35-40類商品上で登録を得た商標登録証書のコピー;

6、北京市第一中级人民法院(2009)一中知行初字第2506号行政判決書、当該判決書は以下の点を指摘している。“連想”商標が1999年1月5日に商標局により馳名商標と認定された事に鑑み,申請登録日を2001年4月20日とする被異議商標の出願前に,原告が登録した“連想”商標が既に馳名商標を構成している。

7、北京市高级人民法院(2010)高行終字第914号行政判決書。当該判決書は以下の点を指摘している。商標評審委員会は引証商標が被異議商標申請日前に既に馳名商標を構成している。

 

 当事者が中国商標法第十三条第二項の規定をもって自身の権益に対し保護を請求する場合,先登録の中国馳名商標を有するという証拠証明を提供しなければならず,また他人が非類似商品上で申請或いは登録した商標が該馳名商標の複製、模倣或いは翻訳したものであり,かつ、公衆を誤認させ、馳名商標権者の利益を害したことの証拠証明を提供しなければならない。

 

 中級人民法院は、原告は被異議商標申請日の前に,中国大陸境内で関連公衆に広く知られた馳名商標を既に有しているということを最初に証明しなければならないと述べた。被異議商標の申請日は2001年8月31日であり,連想公司は評審での審理中8つの証拠を提出し,証拠6を除き,多くは連想公司自ら自行統計した企業経営状況或いは取得した栄誉等の状況であり,必ずしも関連する証拠とならず,かつ、証拠の日付は共に被異議商標の申請日後であり,引証商標が被異議商標申請日の前に中国大陸地区で知名度があったことを証明するのには足りないと認定した。

 

 また原告が訴訟過程中に補充提出した7つの証拠に関し、証拠6及び証拠7の裁判文書を除き,その他の証拠(証拠1~証拠3)の発生時期は共に被異議商標申請日の後であり、また証拠4及び5は引証商標に対する知名度を証明するものではないと認定した。

 

 中級人民法院は、商標が馳名か否かは,個別具体的案件での認定、需要に基づく認定及び受動認定の原則を順守しなければならないとした上で、その他の事件で引証商標が馳名商標であると認定した事実は,引証商標がかつて国家商標行政管理機関により馳名商標と認定され、かつ、他の事件中の相手方がそれについて異議を有さなかったものであり,本案の具体的情況とは異なると述べた。

 

 以上のとおり、中級人民法院は原告が提供した証拠は、引証商標が被異議商標申請日の前に既に馳名商標となっていたと認定するには足らず,かつ被異議商標と引証商標の指定商品の関連性も比較的低く,被異議商標の登録は社会公衆に対する誤認を起こすものではないと判断し、商標評審委員会がなした判断を支持する判決をなした[3]。

 

 

3.高級人民法院での争点

争点 馳名商標の認定をどのように行うべきか

 中国商標法第13条第2項における保護を受けるためには、原告側が、公衆の誤認及び原告の利益を害していることを立証しなければならず、当該立証のハードルは非常に高い。馳名商標か否かは、個別具体的案件での認定、需要に基づく認定、及び、受動認定の原則を順守しなければならない。本事件では原告の引証商標は既に他の事件において行政及び人民法院から馳名商標の認定を受けており、これらの事実が本事件の馳名商標の認定にどのような影響を与えるのかが問題となった。

 

 

4.高級人民法院の判断

結論:過去の行政及び人民法院による馳名商標の認定を考慮すべきである

 原告は第2審の過程においてさらに以下の証拠を提出した。

1、国家図書館科学技術調査新センターが提供した《中国品質万里行》、《中華商標》、《ブランド》、《中華人民共和国年鑑》等の雑誌。これらの雑誌の発刊日は1996年~2011年12月5日であり、引証商標のブランド価値知名度ランキングが記載されている。

2、北京市第一中級人民法院がなした(2009)一中知行初字第1959号、(2009)一中知行初字第2506号、(2010)一中知行初字第3414号行政判決書及び北京市高級人民法院がなした(2009)高行終字第1472号、(2010)高行終字第914号、(2011)高行終字第613号行政判決書。これらの判決はそれぞれ本案中の引証商標が2000年、2001年に既に馳名商標を構成しており,その中で(2010)高行終字第914号は上述の事実に基づき,第32類ビール商品の第1769142号“連想及び図”商標に登録を認めない旨の判決をなしている。

 

 北京市高級人民法院は、原告が提出した商標局が1999年1月5日になした商標監(1999)35号《‘連想’商標を馳名商標と認定する事に関する通知》等の引証商標の馳名に関する基本証拠に基づき、引証商標が被異議商標申請登録日、すなわち2001年8月31日の前に馳名商標であったと認定すべきと判断した。また、他の関連する判決からも引証商標が2000年、2001年に既に馳名商標となっていることから、原審において、引証商標が被異議商標申請登録の前に既に馳名商標となっていると認定するための証拠証明が不足するという認定は誤りであると判断した。

 

 

5.結論

 北京市高級人民法院は、馳名商標と認定するための証拠が足りず、中国商標法第13条第2項の規定を適用しなかった評審委員会の裁定及び北京市第一中級人民法院の判決を取り消した。

 

 

6.コメント

 本事件は、2012年中国法院知識財産権司法保護10大案件の内の一つである。

 

 馳名商標か否かは、個別具体的案件での認定、需要に基づく認定、及び、受動認定の原則のもと、行政及び人民法院での係争を通じて個別具体的な判断が行われる。本事件のように、使用する商品が相当異なっている場合、誤認が生じる恐れがあることの立証、商標権者側の損害を立証することは非常に困難である。

 

 原告は、90年代末頃から第三者の紛らわしい商標登録を排除する戦略をとっており、数多くの事件にて行政及び人民法院から馳名商標の認定を受けている。本事件ではこのような原告の馳名商標の認定に関する事実が証拠として採用され、原告の立証負担が軽減された。

 

 “連想”商標に関しては、商標局データベース上74件の関連商標が存在するが、内53件は原告の商標である。残りの21件については全て無効か或いは現在評審・訴訟の段階にある。原告の商標管理が如何に徹底しているかが理解できる。

 

以上



[1] 商標局2007年裁定 (2007)商標異字第00591号

[2]評審委員会2010年9月6日裁定 商評字〔2010〕第23302号

[3] 北京市第一中級人民法院判決 北京市第一中级人民法院(2010)一中知行初字第3660号行政判決

 

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