中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第2回)

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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第2回)

河野特許事務所 2011年12月7日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2011年9月号掲載)

 

(3)中国領土面積、地質の問題

 2010年末現在中国高速鉄道の路線総延長は8358kmであり、最高時速250kmでの運営距離は5149kmである。この路線距離は世界一であり、世界の高速鉄道網の3分の1に相当する。中国は、さらに新型高速鉄道の開発を進め、2012年までに1万3千kmまで路線を伸ばす予定である。中国は領土面積が広大であり、地質及び気候条件も複雑かつ多様である。軟土、湿気が多く窪みの多い黄土、カルスト地質(石灰岩地域が雨水・地下水などにより溶解・浸食されて生じた特殊な地質)、凍土等、必ずしも高速鉄道建設に適さない地質がある。これら地質上の問題を解消すべく、様々な技術が投入された。時には高圧かつ水が多く危険性の高いカルスト地においてトンネルを掘ってまで路線が延長された。

 その他、大規模な吊り橋、鉄トラスアーチ橋、コンクリート製連続桁橋等、新型構造の特殊橋梁が建設された。また、数多くの高速鉄道用の駅が新設されたが、新駅にはコージェネレーションシステム、熱ポンプ、太陽光発電、氷蓄冷等、最先端の環境保護技術が大量に投入された。このように、路線を中国全土に拡大する際に中国企業は様々なノウハウを蓄積したものと思われる。

 

(4)研究開発体制

 中国高速鉄道の開発は国家プロジェクトであり、数多くの国家機関、企業、大学の技術者が参加した。11の科学研究院、51の国家レベル実験・工程研究センター、25の大学、その他多数の企業が参加した。なお、開発に参加した民営中国企業については後述する。200名以上の国家研究員、500人以上の教授、63名の中国科学院・中国工程院会員を含め、総勢1万人以上の技術者がプロジェクトに参加した。

 このように、中国高速鉄道の開発過程においては、様々な分野において技術的課題が存在し、産官民挙げた長年にわたる研究開発により、一つ一つ問題点を解消して世界一の高速化を果たし、中国全土に世界一の路線を拡大したのである。このような開発過程を理解すれば一概にパクリ・盗作といえないことは明らかであろう。

 続いて、中国企業の特許戦略及び具体的な技術内容について分析する。

 

3.中国企業及び中国政府機関の出願動向

(1)技術分野別の参入企業

 高速鉄道関連技術は様々な分野にわたるが、中国南車グループ、中国北車グループ、北京全路通信信号研究設計有限公司、及び、中国鉄道科学研究院等が特に特許権利化に注力している。2003年頃から発明特許出願[1]の申請を開始し、出願件数を増加させている。

 様々な企業が参入しているが、技術分野別に参入企業を図示すれば参考図1に示すとおりである。

 

 参考図1 技術分野別参入企業

 

 電気系統は中国中鉄の一部門である中鉄電気化局が保守設計を行っている。通信系統については鉄道信号の技術分野における大手である中国通信信号集団公司が保守設計を行っている。総合監視制御は世紀瑞爾社によるCTCS(Chinese Train Control System中国列車運行制御システム)及びCTC(Centralized traffic control中央交通制御)が用いられている。車両システムは和利時、車体の製造は南車四方が行っている、南車四方は、中国南車グループの中核企業であり、現在のところ、中国鉄道部が確定している重点6企業の内の一つである。線路建設は中国中鉄の下部組織である中鉄一局及び中鉄四局であり、信号の監視制御は鉄道部が指定した輝煌科技である。

 

(2)中国南車グループ

 中国南車グループの中核をなす中国南車株式有限公司は従業員8万人、16の子会社を持つ大型企業である。中国南車の主要業務は高速鉄道車両、統括制御、地下鉄車両の研究開発、製造、販売、メンテナンス等である。

 中国南車グループは2003年頃から特許出願数を増加させている。参考図2は中国南車グループの出願件数である。2003年頃は数件しかなかった発明特許出願は今や年間200件を越えるまでに至っている。上述した2006年以降の新型高速鉄道の開発に併せて着実に権利化を進めていることが伺える。当然パリ条約またはPCT(国際特許条約)を利用して次のマーケットである米国にも出願しているものと思われる。

 

参考図2 中国南車グループの出願件数



[1] 中国で特許といえば、発明特許、実用新型特許(日本の実用新案)及び外観設計特許(日本の意匠)の3種をいう(専利法第2条第1項)。

 

(第3回へ続く)

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