中国特許判例紹介(36)(第2回)中国における均等論の解釈~方法の順序を変更した場合に均等が成立するか~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(36)(第2回)中国における均等論の解釈~方法の順序を変更した場合に均等が成立するか~

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中国における均等論の解釈

~方法の順序を変更した場合に均等が成立するか~

中国特許判例紹介(36)(第2回)


2014年9月5日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁

 

浙江楽雪儿家居用品有限公司

                   再審申請人(原審被告)

v.

陳順弟

                           再審被申請人(原審原告)

 

4.最高人民法院の判断

争点1 サンプルを渡して被告の要求に基づき製造させたものであり相応の法律責任を負う

 ステップ5、8及び9で言及された部品の製造ステップが争点となった。ステップ5、8及び9は以下のとおり。

 

 第五ステップ:ポリプロピレン材料を取り出し、ねじ溝栓座(8)の型に流し込み,再びねじ溝栓座(8)をインサートとして金型に入れ込み,その他ポリ塩化ビニル材料を取り出し、ねじ溝栓座(8)の外に二次的に複合層(8′)の型に流し込み;

 第八ステップ:プラスチック材料を取り出し、ねじ溝栓蓋(9)を流し込んで製造し;

 第九ステップ:シリカゲル材料を取り出し、密封スペーサ(10)を流し込んで製造し;

 

 被告は、被疑侵害製品のねじ溝栓座、ねじ溝栓蓋及びスペーサは共に、そのサンプルを、訴外第三者に提供し、加工を委託しており,楽雪儿公司は、外部から購入した部品の加工方法に対し、挙証責任を負う義務はなく,被疑侵害方法は、特許請求項1の第5、8、9ステップを欠くと主張した。

 

 これに対し最高人民法院は、上述の部品は自身で加工したものではないが、これらの部品はそのサンプルを提供した訴外第三者のところで作成されたものであり、これらの部品は訴外第三者が被告の要求に基づき加工製作したものである以上,被告はこれらの部品を生産した法律結果に対し相応の法律責任を負うべきであると判断した。以上の理由により最高人民法院は、被疑侵害方法が第5、8、9ステップを欠くという被告の主張を支持しなかった。

 

争点2:方法の順序を入れ替えた場合に、必ずしも均等侵害が成立するとは限らない

 最初に最高人民法院は、製品の製造方法特許は通常、方法ステップの組合せ及び一定のステップ順序を通じて実現するものであると述べた。そして、方法特許のステップ順序が特許権の保護範囲に対し限定作用をもたらすか否かについては、これらのステップが特定の順序で実施することが必須であるか否か、及び、この種の互換が技術機能または技術効果上の実質的差異をもたらすか否かを検討しなければならないとした。

 

  本事件で問題となったステップの互換は2カ所存在する。

 

(1)第6、7ステップ

 請求項に係る第6、7ステップは以下のとおり。

 

 第六ステップ:複合層を有するねじ溝栓座を袋口内に入れ込み,内層と接触させ,高周波ヒートシール機を採用して熱水袋口部に対し、ねじ溝栓座と複合層とを熱貼り合わせし;

 第七ステップ:熱水袋の袋体に対し、周辺のトリミングを行い;

 

 一方、被疑侵害方法が採用したステップは先に熱水袋体に対し周辺のトリミングを行い、その後、熱水袋口部に対し、ねじ溝栓座と複合層とを熱貼り合わせるものである。すなわち、第6ステップと、第7ステップを入れ替えたものである。

 

 被告は、当該ステップ加工に基づけば、後続ステップ中の被加工製品が占める空間を省略することができ,素早く加工してまた精度を上げるのに有利であり、かつ、製品を直接検査工程に持って行くことができ、技術効果が相違し、均等侵害は成立しないと主張した。

 

 これに対し、最高人民法院は、被疑侵害方法のそれ以前の加工ステップから見れば,第4ステップにおいてすでに高周波熱貼り合わせを行った熱水袋に対し、熱水袋毎に裁断を行っており,その時のトリミングの主な目的は熱水袋を良く見せて完成品に近づけるものであり,その空間を減少させるという作用は非常に限られていると判断した。また、多くの余辺の角の存在は栓座の貼り合わせを阻害するものではなく,栓座貼り合わせに、実質的な影響は発生しない。

 

 最高人民法院は、これら2つのステップの実施は先後順序の唯一の対応性を有するものではなく、先にトリミングするか先に熱貼り合わせをするかは、全体的な技術方案の実現に対して実質的な影響はなく、かつ、これら2つのステップの互は技術機能及び技術効果上、実質的な差異を生じるものではないことから、被疑侵害方法の順序を入れ替えた後のステップと特許請求項1の第6、7ステップは相互に均等であると判断した。

 

(2) 第10、11ステップ

 特許請求項1の第10ステップ及び第11ステップは以下のとおりである。

 

 第十ステップ:密封スペーサ(10)及びねじ溝栓蓋(9)を相互に取り付けた後、ねじ溝栓座(8)中に回し入れ;

 第十一ステップ:空気を満たして圧力試験を行うべく,熱水袋中に圧縮空気を注入し耐圧試験を行い;

 

 一方被告の被疑侵害方法は、先に耐圧試験を行ってから、密閉スペーサ及びねじ溝栓蓋を取り付け、ねじ溝栓座に回し入れるものであり、順序が異なる。

 

 被告は、この種のステップ交換がもたらす効果は,ねじ溝栓座を取り付けた後に、再度これを取り外して空気を満たした計測を行う必要がなく、時間を短縮でき,計測品質を保証することができると主張した。

 

 最高人民法院は、熱水袋に対し空気を満たして圧力試験を行うには,熱水袋の口部を通じて行う必要があると判断した。そして特許請求項1の第10、11ステップの操作に基づけば、圧力試験を行う前に、ねじ溝栓座の中から、ねじ溝栓蓋を取り外さなければならず、被疑侵害方法が採用した先に圧力試験をした後に再度ねじ溝栓蓋を装着するステップと比較すれば、この種の操作ステップは実質上、空気を満たして試験を行う操作段階を増加させ、操作時間の延長及び効率低下を招くと判断した。

 

 最高人民法院は、第10、11ステップの互換後、確かに被告が主張する操作段階の減少、時間の省略、効率の向上という技術的効果が生じていることから、このステップの互換によりもたらされる技術効果上の差異は実質性的なものであり、変更後のステップと、特許請求項1の第10、11ステップは均等の技術特徴を構成しないと判断した。

 

(3)献納原則

 これに対し、原告は、明細書には、ステップ1011の順序は変えることができると記載しており、順序を入れ替えた後の技術方案は、特許権の保護範囲に属するべきであると反論した。

 

具体的には以下の記載があった。

「第十ステップ:密封スペーサ(10)及びねじ溝栓蓋(9)を相互に取り付けた後、ねじ溝栓座(8)中に回し入る。ただし、試圧後に栓蓋を差し込んでも良い。

 

 これに対し、最高人民法院は、献納原則により特許権侵害を主張することはできないと判断した。司法解釈[2009]第21 号第5条は以下のとおり規定している。

 

 第5条 明細書または図面においてのみ表され、請求項に記載されていない技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件においてこれを特許権の技術的範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しない。

 

 最高人民法院は、特許権の保護範囲を正確に確定するには、特許権者の為だけに有効な法律保護を提供する必要性だけではなく、請求項の公示及び限界作用を尊重し、社会公衆の信頼、利益を保護する必要性もあると述べた。そのため献納原則を採用し、特許権者と公衆の利益とのバランスを図っている。

 

 献納原則は、特許明細書中に記載され、請求項中に反映されていない技術方案については,請求項の保護範囲内に含めることができないとするものである。明細書中に開示されているが請求項に記載されていない技術方案について、献納原則を適用しないとすれば、特許権者に対する保護が過分となる一方で、請求項の限界作用を低下させ、特許権保護範囲の確定を過度に柔軟及び不確定な状況に陥らせ、公衆の特許権保護範囲の予測難易度を増加させることとなり、特許公示作用の発揮及び公衆利益の保護に不利となる。

 

 当該司法解釈は2010年1月1日から施行されており、本事件は2010年9月に発生していることから、最高人民法院は献納原則が本事件にも適用されると判断した。当業者が明細書を読むことにより、開示されていることを理解できるが、保護を要求していない技術方案は、特許権者により社会に献納したものと見なされる。

 

 本案の状況はこれに該当するものである。特許明細書には、明確に第1011ステップは変更可能と記載されているものの、この変更後のステップは請求項中には反映されていない。以上の理由により、最高人民法院は、変換後のステップは、特許権の保護範囲に属さないとする被告の主張を支持した。

 

3回に続く



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