中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第1回)

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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第1回)

河野特許事務所 2011年12月5日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2011年9月号掲載)

 

1.はじめに

 中国高速鉄道は、日本、フランス、ドイツ等が長年蓄積してきた高速鉄道技術を導入し、これをベースに開発されたことは周知の事実である。それが最近になって中国高速鉄道は中国独自の技術により完成したものである、中国高速鉄道は他国を凌駕し世界一であると強弁し始めた。また、米国GEと組み米国高速鉄道市場への参入、米国での特許権利化活動を活発化し始めた。中国に技術提供を行った日本企業としては心中穏やかではないであろう。

 

 中国における模造品が余りに有名であることから、中国高速鉄道に限らず、我々はとかく色眼鏡で中国製品・中国企業を見ることが多い。しかしながら、偽物キャラクターが闊歩する遊園地と同じ次元で中国高速鉄道を見てはならない。

 

 確かに2011年7月23日の衝突事故により安全性に問題があることが明らかとなったが、今や運営距離は世界一、最高速度も世界一となったことは事実なのである。冷静に中国企業が行ってきた開発過程、技術分野、特許戦略を分析する必要がある。何ら新たな技術を開発することなく最高時速487.3kmは達成できない。また中国企業も各国の特許制度について研究を進めており既に新規性のなくなった技術について米国で特許出願するとは考えられず、各国から導入した技術をベースに改良発明、周辺特許の取得を米国で行おうとしていることは明らかである。

 

 本稿では、中国高速鉄道の開発背景・過程、中国高速鉄道開発に携わった中国企業、中国企業の主要技術、近年の中国企業の特許戦略を既に公開された技術に基づき分析し、なぜ中国が自国製・世界一と繰り返し主張するのかその背景を探る。

 

2.時速487.3kmを達成するまでの過程

(1)中国高速鉄道開発における3つのステップ

 世界最速を達成するまでに、中国高速鉄道は以下の3つのステップを経た。

(i)第1ステップ

 高速鉄道の運営開始時は日本、フランス及びドイツの技術を導入し、これら導入した技術に基づき技術開発が行われた。基本となる統括制御技術プラットホームシステムを採用し、時速200km~250kmを達成するに至った。この統括制御とは、新幹線ベースの車両であり、各車両が動力を持ち、一人の運転士が制御するものである。

 2005年から第6次鉄道高速化計画が起案され、2007年には成都-広州間で時速250kmでの運営が開始された。この際、中国企業は統括制御に関する9つの技術を掌握したとのことである。

(ii)第2ステップ

 第1ステップで導入した統括制御をベースに、中国企業はさらに開発を進めた。主な技術分野は車輪/レール動力学、気動力学制御、車体構造、ボギー車、牽引システム、制動システム、環境制御、システム集成等である。高速化の上では、このような技術分野において様々な課題があり、技術開発によりこれらの壁を乗り越える必要があった。

 この第2ステップに当たる2008年の北京オリンピックに合わせ中国企業は北京-天津間を結ぶ京津都市間鉄道にCRH2-300を導入し最高時速350kmの運営を開始した。これを契機に、運営は北京・天津間のみならず、2009年12月には、湖北省武漢市―広東省広州市を結ぶ武広旅客専用線にCRH2型車両が投入された。さらに、2010年河南省鄭州市-陝西省西安市間の鄭西旅客専用線にもCRH2型車両が投入され最高時速350kmでの営業運転が開始された。この第2のステップでは制限速度を高めるために必須の技術開発が行われた。

(iii)第3ステップ

 さらなる高速化のため、中国は多くの科学研究試験及び試験走行を行い遂に最高時速380kmの新世代高速列車の開発に成功した。流線型の車両先頭部を採用し、気密強度・気密性、振動モデル、ボギー車、減振・静音、牽引システム、パンタグラフの受流、制動システム、旅客インターフェース、インテリジェンス化等、10を越える重要な新技術を開発した。この新世代高速列車はCRH380型と称され、上海市-北京市間の1318kmを結ぶ京滬(けいこ)高速鉄道に採用されている。なお安全面、エネルギー効率及び運賃面を考慮して時速300kmにて運営されている。

(iv)次のステップへ

 中国高速鉄道の開発は現在も進行中であり、2011年1月には遂に新世代高速列車CRH380BLが時速487.3kmを記録し、世界最高速度記録を塗り替えた。7月に起きた衝突事故の影響もあり、現在は最高速度へのこだわりはなくなり、むしろ安全性、信頼性、エネルギー効率、経済性を重視する方向に転換している。

 

(2)開発過程における諸問題

 必要は発明の母といわれるように、高速化を実現する上での様々な課題、中国特有の地質・気候上の問題をクリアすべく幅広い技術分野において新たな技術開発が行われた。一般に時速を30-50km毎上昇させるためには、新たな技術プラットホームを制定し、高速列車システム動力学における車輪/レールの関係、パンタグラフ設計等を全て見直し、新設計する必要がある。

 また最高時速350kmを実現するためには安全性、信頼性及び安定性の問題を解消する必要がある。このような速度ではブレーキ性能を格段に高める必要がある。またトンネルに入る際、及び、列車同士がすれ違う際(相対速度は時速700kmである)の受流問題も解消する必要がある。このように中国は他国で未だ実現していない速度領域下での走行・運営を行うべく着実に技術開発を行い、様々な特有の問題を解消しているのが事実である。

 

(第2回へ続く)

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