米国特許判例:審判請求時における従属クレームに対する議論(4) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:特許・商標・著作権

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

米国特許判例:審判請求時における従属クレームに対する議論(4)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 特許・商標・著作権
  3. 特許・商標・著作権全般

米国特許判例紹介:審判請求時における従属クレームに対する議論(第4回)

~形式的な議論では独立クレームと生死を共にする~

              In re Lovin, et al.

河野特許事務所 2011年11月11日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

1998年第2回改正規則1.192(c)(7)[1]は以下のとおり。

審判請求人が争い、かつ、2以上のクレームに係るグループを適用する各拒絶理由に関し、グループに係るクレームが一緒に主張しなければ共に拒絶されることにはならないという陳述を含んでおり、かつ、本規則のパラグラフ(c)(8)における議論において、審判請求人がなぜグループに係るクレームがそれぞれ特許性を有すると信じるのかを説明しない限り、審判部は、グループから一のクレームを選択し、かつ、その選択されたクレームだけに基づき拒絶理由に関する審決を下すものとする。

単にクレームがカバーすることだけの相違の指摘は、なぜクレームがそれぞれ特許性を有するかに関する議論とはいえない。

 

 第3回にあたる現行規則は、2004年に公布され、1998年第2回規則で追加された

「単なる指摘“merely pointing out”」

の文言が維持されている。Beaver事件では、第1回目の規則、すなわち「単なる指摘」が要件として課されていなかったため、Beaver事件は本事件に対する拘束力を有さないのである。

 

 出願人は規則41.37(c)(1)(vii)で要求されているとおり、審判請求書において各クレームに小見出しを付し、各クレームについて議論を行っていた。しかしながら、当該議論は、クレームが言及していることを単に指摘しているだけであり、また引用文献に対応するステップの組み合わせが存在しないということを主張しているだけである。

 

 以上のことからCAFCは実質的な議論がないとして、出願人が従属クレームの特許性に関する議論を放棄したと結論づけた。

 

 

5.結論

 CAFCは、規則41.37(c)(1)(vii)に基づき、出願人が従属クレームに対する議論を放棄したと判断した審判部の判断を維持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 規則41.37(c)(1)(vii)及び本判決によれば、審判請求書における従属クレームの議論に関し、単に従属クレームの構成要件を記載するだけ、或いは、当該構成要件が先行技術に開示されていないと主張するだけでは、議論を放棄したものと見なされ、審判部で十分な審理が行われないこととなる。

 

 近年では審判請求人によるこのような形式的な議論が散見されており、審判部から以下の通知[2]がなされている。

 

審判請求人は時々、従属クレームに関する別々の小見出しを含める。しかし、単に、

「先行技術は従属クレームに記載された構成要件xを開示していないので、拒絶理由は撤回されるべきである」

との議論だけでは、審判部は従属クレームに対する議論として取り扱わない

 実質的な議論とするためには、

 なぜ、先行技術が構成要件xを開示していないか、

 なぜ当該先行技術が構成要件xを開示しているとの審査官の認定が誤りであるか、

 を議論する必要がある。

 

 従属クレームに対する議論を行った場合、禁反言の法理により、技術的範囲が限定解釈される可能性が高くなるため、不用意な議論は禁物であるが、落としどころとなる従属クレームについては審判請求書において十分な議論が必要となる。技術分野によっては従属クレームについても積極的に議論を行う傾向がある[3]。

 

 なお、規則41.37(c)(1)(vii)により、一の小見出し内に複数のクレームをまとめて議論した場合(例えばクレーム1-3)、審判官が選択したクレーム(クレーム1)以外のクレーム(クレーム2-3)についての議論が放棄されてしまう点にも注意すべきである。

 

判決 2011年7月22日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。

www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/10-1499.pdf


 


[1] 37 C.F.R. § 1.192(c)(7) (1998) :

For each ground of rejection which appellant con-tests and which applies to a group of two or more claims, the Board shall select a single claim from the group and shall decide the appeal as to the ground of rejection on the basis of that claim alone unless a statement is included that the claims of the group do not stand or fall together and, in the argument under paragraph (c)(8) of this section, appellant explains why the claims of the group are believed to be separately patentable. Merely pointing out differences in what the claims cover is not an argument as to why the claims are separately patentable.

[2] Fleming, Michael et al., Effective Appellate Advocacy in Ex Parte Appeals Before the Board of Patent Appeals and Interferences 4–5 (Apr. 2010)

[3] この点、吉田哲「米国知財実務マネージメント、従属クレーム活用に関する日本企業の意識調査結果、及び、対策」 知財ぷりずむ (2009.12) Vol.8 No. 87 pages 13-25に詳しくレポートされている。

ソフトウェア特許に関するご相談は河野特許事務所まで

 

このコラムに類似したコラム