- 高橋 滋樹
- 高橋矯正歯科医院 副院長
- 神奈川県
- 歯科医師
対象:矯正・審美歯科
先日、ある本を読んでいて「絶対的なものづくり」と「相対的なものづくり」という表現がでてきました。
同じような製品で日本製のものと海外製のものを比べて、日本製のものは使用者や購買層の意見をよく聞いてつくったいわば「相対的なものつくり」による製品で、海外製のものは作り手側が絶対にこれで正しいという強い意思を持って作った 「絶対的なものづくり」による製品であるというのです。
ここでの「相対的」という言葉の使い方が正しいかどうかは少し疑問はあるのですが、非常に良い視点だなと思いました。
使用者や購買層の意見や希望をよく聞いて作った製品というのは非常に良いことであるようにも思いますが、それだけでは良い製品ができないということです。もしかするとそのように希望する人が多いわけですから、良く売れる商品にはなるのかもしれません。しかし良く売れる商品=良い製品とは限らないわけです。例えばこれがサービス業であるならば、お客さんの希望に極力沿うようにする(ただし、他のお客さんの迷惑にならないようになる範囲で)というのは大切です。しかし、そのバランスを失ってはいけません。
教育の現場での報道で耳にする「モンスターペアレンツ」の問題。学芸会をやってみんなの希望通り配役をしたら桃太郎が10人になってしまった。親(もしかすると子供も)は満足かもしれませんが、重要な教育の一機会を失い大きな勘違いをこどもに植え付けてしまう可能性があります。教育の現場が市場主義を持ち込まれたことで崩壊しているのです。
歯科の業界でも顧客満足度という言葉が普通に使われるようになって久しいです。しかし、やはりそのまま考えてはいけないと思うのです。患者さんには治療を受けた結果により本当の満足を得てもらうという姿勢を我々は忘れてはなりません。患者さんの希望をただただそのまま受け入れることが我々歯科医療業界の目指す顧客満足ではないはずですし、患者さんも実はそんなことは求めていないわけです。歯科医療行為という製品の絶対的な価値を貶めてはいけない。そのために大切なのはやはり充分な説明です。これについては過去のコラムでも触れてきている点です。そう簡単に患者さんは歯科医療の現況を理解はできないのです。説明が充分でないためにトラブルが起きたり、また説明を充分にする時間がとれないために患者さんの要望通りの治療になりそこにプロの視点が入り込まず、トータルとして良い治療結果とならないことがあります。
そしてもうひとつ大切なのは、歯科医師側がその治療に自信と確信をもっているかということです。
歯科医師が自信を持って患者に自分の治療を勧めているのかどうか。
医療はサービスかどうかという議論もあるのかもしれません。しかし、患者さんにとって快適なものだけを提供するのが医療ではないと思います。患者さんも正しい医療を受けるためには、希望を言いっぱなし、歯科医師の提案を受け入れっぱなしではいけないのです。
先日、診断を行った矯正の患者さん。もともとすでに抜いている歯が多かったため無駄にする歯を少なくしたく考え、上顎の歯を抜いて下顎に移植するいわゆる自家移植を併用した治療プランを考えました。移植をやっていただく先生に紹介状を書き、患者さんもお話を聞いてきて再度来院されました。結果は移植はやらないことになりました。移植の成功率の問題や治療手順などを考慮し、患者さんが移植でない方法のほうが良いと決断したのです。患者さん自身は、非常にご自分の状況についても理解深く最終的には良い決断ができたと思います。できれば今回のこの患者さんのように当院の患者さんには100%納得した治療計画を立案させていただきたいと思っています。そのためには、矯正医としての引き出しは多く持っているにこしたことはありませんし、さらにより専門性の高い技術と知識をもった先生との連携をより密にしていければと思います。
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