情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ(第1回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ(第1回)

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情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ

~代表者の開示義務違反により権利行使不能とされた案件~ (第1回)

Avid Identification Systems, Inc.,
Plaintiff Appellant,
v.
The Crystal Import Corp.,
et al., Defendants.

河野特許事務所 2010年7月25日 執筆者:弁理士  河野 英仁

1.概要
 米国特許出願手続においては米国特許商標庁(以下、PTOという)に対する誠実義務が求められており、発明者等が特許性に影響を与える先行技術を知っている場合は、これを隠すことなく、PTOに提示しなければならない(規則1.56)。

 そしてこの誠実義務に違反した場合、特許権の権利行使が不可能となる*1。先行技術の提出義務は、発明者及び代理人に課せられる他、特許出願及び審査に実質的に関与した(substantively involved)者にも課せられる。

 この「実質的に関与」について、具体的にどのような場合に関与に該当し、誠実義務が課せられるのか法律上、判例上明らかにされていなかった。本事件では、発明者でない代表者が出願前に特許関連製品を見本市にてデモし、この事実をPTOに開示していなかった。訴訟では、当該行為を行った代表者が「実質的に関与」した者か否かが問題となった。

 CAFCは、代表者としての位置づけ、発明者の雇用状況等の証拠に鑑み、代表者を「実質的に関与」した者と推定し、特許権行使不能と判断した地裁の判決を維持した。


2.背景
(1)特許の内容
 Avid(以下、原告という)は動物に埋め込む生体適合性高周波識別チップを設計・販売する小企業であり、「マルチモード暗号化チップ及び読み取りシステム」と称するU.S. Patent No. 5,235,326(以下、326特許という)を所有している。

 原告の創設者兼代表者であるStoddard博士(以下、代表者という)は、自身のペットが行方不明となった際、返還を求めるべく動物シェルター(保護施設)を訪問した。その際、数多くの行方不明となったペットが収容されているのを知った。これら多くのペットは帰るすべが無い。

 そこで代表者は、行方不明のペットを特定することが可能なより良いシステムを開発する決心をなした。何人かが彼のミッションに参加した。会社設立当初、原告は非暗号化チップをサプライヤーから購入し、このチップに商標を付し、販売していた。代表者は自社技術の搭載を希望していたため、このビジネスを1985年頃終了させた。

 特に代表者は非暗号化と暗号化との双方を選択して利用することが可能なチップ及び読み取り機の開発を希望していた。この技術を実現すべく、Polish博士,Malm博士及びBeigei氏を採用した。1990年3人の技術者は暗号化が可能な生体埋め込み型チップ及び読み取り機を開発し、当該暗号化技術に加え、従来の非暗号化技術も併せて利用することが可能な製品を開発した。参考図1は生体埋め込み型チップの断面を示す断面図である。

参考図1 生体埋め込み型チップの断面を示す断面図


 タグ200内にはコンデンサ基板220、コイル210及び暗号化処理を含む各種処理を実行する集積回路280が設けられる。断面視楕円形のカプセル290内に、不活性液体295を注入し、上述したコンデンサ基板220、コイル210及び集積回路280を封入する。


                                  (第2回へ続く)

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