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河野 英仁
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米国判例紹介:Bilski最高裁判決(第5回)

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米国特許判例紹介:Bilski最高裁判決(第5回)

      〜ビジネス方法発明の特許性〜 
   河野特許事務所 2010年7月1日 執筆者:弁理士  河野 英仁

                

         Bernard L. Bilski, et al.,

                                 Petitioners,

                v. 

            David J. Kappos,

争点3:出願に係る発明は抽象的なアイデアであり、特許性はない。

 申立人はリスクヘッジの概念、及び、エネルギー市場への当該概念の適用について権利化を求めている。最高裁は、何ら基準を示すことなく、以下に述べる過去の3つの判例に基づき申立人の出願に係る発明は抽象的なアイデアにすぎず、特許法第101条に規定する「方法」に該当しないと判示した。

 

(1)Benson事件*23

 Benson事件において、最高裁は、2進化10進数(BCD)形式にあるデータを、純粋なバイナリ形式へ変換するアルゴリズムに関する特許出願が、米国特許法第101条に規定する「方法」であるかどうかを検討した。

 

 最高裁は最初に、「抽象的なアイデアにおける法則は、基本的な真理であり、発端であり、真意であり、これらは特許されるべきではない」と述べた。これらは、何人にも使用させる必要があるものであり、独占権を付与すべきではないからである。当該アルゴリズムについて権利を付与すれば、完全に数学的公式についての権利を先取り(pre-empt)させることとなる。

 

 以上の理由により、出願に係る発明は単なる抽象的アイデアであり、米国特許法第101条に規定する「方法」でないと判断した。

 

(2)Flook事件*24

 Flook事件において、最高裁は、Benson事件よりもさらに一歩進んで分析を行った。出願人は、石油化学製品及び精油産業において、触媒変換プロセスの間、状態を監視する方法について特許化を試みた。

 

 Flook事件における発明の唯一の革新(innovation)は、数学的アルゴリズムにある。ただし、出願人は、数学的アルゴリズムを石油化学製品及び製油産業への適用に限定している点で、Benson事件におけるアルゴリズムそのものとは相違する。すなわち、第3者は当該数学的アルゴリズムを他の分野において使用することができるのである。

 

 しかしながら最高裁は、出願に係る発明は、数式を特定の分野に応用したものであるが、実質的に数学的アルゴリズムを先取りするものであり、特許出願全体として何ら特許性ある発明を含んでいないことから、米国特許法第101条に規定する「方法」に該当しないと判示した。このように、数学的アルゴリズムの使用を、ある特定の分野への使用に限定したとしても、迂回して特許化することはできないと判示した。

 

(3)Diehr事件*25

 Diehr事件はBenson事件及びFlook事件にさらなる制限を加えたものである。Diehr事件におけるクレームには、硬化合成ゴム製品を製造するための方法が記載されていた。この方法は、コンピュータにより、硬化の際の温度を取得し、硬化が完了する際の時間を算出するために、数学的アルゴリズム(Arrhenius方程式)を使用するものである。

 

 Diehr事件においては、抽象的なアイデア、自然法則、または数学的方式は特許されないが、「自然法則または数学的方式の公知の構造またはプロセスに対する適用は、特許の保護を受けるに値する」と判示された。Diehr事件において、発明者は数学的アルゴリズムにそのものに特許を求めているのではなく、逆に、数学的アルゴリズムを用いて、合成ゴムを硬化するプロセスに保護を求めている。以上の理由により、最高裁は出願に係る発明は、米国特許法第101条に規定する「方法」に該当すると判示した。

 

(4)本事件への適用

 最高裁は、これら3つの判例に照らし、申立人に係る発明は米国特許法第101条に規定する「方法」に該当しないと判断した。

 

 申立人のクレーム1及び4は、ヘッジングの基本的コンセプト、または、リスクに対する保護を記載している。ヘッジングは、経済社会システムにおいて古くから普及している基本的な経済プラクティスであり、経済学の入門授業においてさえ解説されている事項である。

 

 クレーム1に記載したヘッジングの概念は、Benson事件及びFlook事件におけるアルゴリズムと同じく、特許されない抽象的なアイデアである。最高裁は、Flook事件は特定分野への限定を行っているが、申立人の発明はさらにそれ以下の根本的なヘッジングの抽象的アイデアを権利化しようとしている。

 

 最高裁は、申立人に当該リスクヘッジングに係る特許を認めれば、当該分野におけるこのアプローチの使用を先取りさせることとなり、ひいては抽象的アイデアの独占を認めることとなると判示した。

 

 最高裁は以上の3つの判例に照らし、申立人の出願に係る発明は単なる抽象的なアイデアであり、米国特許法第101条に規定する「方法」に該当しないと判断した。

 

 最高裁は過去に形成された機械・変換テストは、有効なツールの一つとして認めた。しかしながら、米国特許法第101条において定義された法文を逸脱し、また、Benson事件、Flook事件及びDiehr事件における判示事項を超えて、特許性ある法上の「方法」発明を判断する上での新たな基準を確立することを拒絶した。 

(第6回に続く)  

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