和歌山毒カレー事件、最高裁判決(2) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

閲覧数順 2024年04月18日更新

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和歌山毒カレー事件、最高裁判決(2)

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連載「新・刑事法廷」

死刑か無罪か、究極の判断



第二は、この事件のような無罪か有罪かが争われ、有罪であれば死刑となる可能性が極めて高い事件では、裁判所は死刑か無罪かという究極の判断を迫られるということです。そして、間もなく始まる裁判員裁判では、職業裁判官だけでなく一般市民から選ばれた裁判員も、全く同じ立場でそのような究極の判断を下さなければならないのです。

 日本の刑法学の重鎮である団藤重光氏(東京大学名誉教授)は、かつて最高裁の裁判官を務めていた際、ある死刑事件の上告審を担当し、今回の第3小法廷と同じような立場で上告棄却判決を下したのですが、その時の心境を「一抹の不安が残った」と記しています。団藤教授はそのような体験をふまえて死刑廃止を主張するようになります。

 えん罪が許されないことは言うまでもないことですが、実際には、人間が行う裁判で完全に誤審を無くすことは不可能であることも認めなければなりません。「被告人は無罪の推定を受ける」という刑事司法の大原則は、そのような事態を避けるために人類が生み出した智恵ですが、それにもかかわらず、日本を含む世界各国において今でもえん罪は絶えることがありません。そして、後日にえん罪であることが判っても取り返しがつかないという意味で、死刑は無期懲役以下の刑とは質的な違いがあると言えます。

 前述のように、私は今回の判決が間違っているとか正しいとか判断する材料を持っていません。しかし、万に一つでも間違って無実の人間を死刑にしてしまうことがあってはならないと考えると、今の日本のような死刑制度は考え直す必要があるのではないでしょうか。

改善策としては、死刑の言い渡しには現在のような単純過半数ではなく裁判官・裁判員の全員一致によるとか、少なくとも3分の2(あるいは4分の3)以上の特別多数決を必要とするとか、たとえ被告人が求めなくとも死刑判決に対しては必ず上訴審の判断を仰ぐことを義務づけるとかが考えられます。さらに、ヨーロッパ諸国のように死刑そのものの廃止を真剣に検討することも選択しに入れて良いのではないかと思います。