30年前の殺人事件と除斥期間(1) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

閲覧数順 2024年04月25日更新

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30年前の殺人事件と除斥期間(1)

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連載「新・刑事法廷」

除斥期間



 最高裁判所第3小法廷は4月28日、1978年(昭和53年)に女性教諭(当時29歳)を殺して遺体を自宅床下に埋めて隠し、26年後に自首した犯人の男性(73歳)に対し遺族が損害賠償を請求した民事裁判で、除斥期間の適用を認めなかった二審判決を維持し、犯人の上告を棄却する判決を言い渡しました。

 このような犯罪による被害者やその遺族は、民法709条により、犯人に対し不法行為による損害賠償請求権があります。これは交通事故(自動車運転過失致死傷)の場合と同じです。

 ところで、この不法行為による損害賠償請求権ですが、民法724条は「被害者・・が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と定めています。前半は消滅時効を定めたものですが、後半は除斥期間というものです。

 消滅時効であれば加害者が誰か判らないうちは進行しませんから、たとえ20年経とうと30年経とうと、犯人が判ったら3年以内に損害賠償を請求する訴訟を起こすことが出来ます。しかし除斥期間は、事情のいかんにかかわらず20年経つことで請求権が消滅するという制度だと解釈されているので、この事件のように犯罪そのものが隠されていた場合や、犯罪と被害者は判明していたけれど犯人が誰か不明のまま長期間経過したような場合は、損害賠償請求ができないという結果をもたらします。

 なぜこのような制度があるかについては、学者らによると、証拠の散逸や被害感情の希薄化など様々な理由があげられています。たしかに、余りに遠い昔のことを法廷で蒸し返すのは被告や関係者らにとって迷惑に過ぎるという場合もあるでしょう。
(次回へ続く)