「芸術」と「ビジネス」② - 心・メンタルとダイエット - 専門家プロファイル

舞踊家(クラシックバレエ) 元プロバレリーナ
東京都
クラシックバレエ教師・振付家

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対象:ダイエット

佐久間 健一
佐久間 健一
(ボディメイクトレーナー)

閲覧数順 2024年04月23日更新

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「芸術」と「ビジネス」②

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前回は、私の専門分野であるクラシック・バレエ界、及び現在の日本のバレエ界の現状を通して、

本来は相反する世界である「芸術」と「ビジネス」の狭間で多くのジレンマを抱えざるを得ない、深く悩める芸術家達のシビアな現実をお伝えさせて頂きました。

☆_(_☆_)_☆

 

又「自宅の一室がバレエの衣裳部屋に!? ②」のコラムの中では一つの例として、

ビジネスに重きを置く "ビジネス大国" の日本と、ビジネスと両輪で芸術と文化を大切にする "芸術大国" であるロシアとの芸術に対する理解力の違いを述べさせて頂きました。

 

そして、その「芸術」というものへの深い理解から、ロシアでは「芸術に対する理解 = 人間というものへの洞察力の違いから生まれる文化 = 国が芸術家を守り育てる文化」が育まれているという事にも触れさせて頂きました。

 

 

世の中には「これが100%正しい」というものは無いですので、資本主義であっても社会(共産)主義であっても、どちらにも一長一短は必ずあります。

でも「真の芸術家を育てる」という事に於いては、究極ロシアの様に「国が芸術家を守り援助する」という様なシステムが無い限りは不可能であると私は思います。

(※その理由に付いては「自宅の一室がバレエの衣裳部屋に!? ②」と前回のコラム「『芸術』と『ビジネス』①」をご覧下さいませ)

 

 

日本やアメリカなどのビジネスを最優先する資本主義の国には、「芸術」と「ビジネス」という本来相反すべきものを一緒くたにする事から生まれる弊害が有ります。(※アメリカはその影響から、芸術よりもショー・ビジネスの世界に長けています)

それは、確実に芸術の "質を落とす" という事に繋がるシステムであるという弊害です。

そしてそれは、私達の様に芸術に携わる一介の存在でもあるバレエ教師達にも大きな陰を落とすのです。

 

 

"質" というものに拘らなければ、日本の様なビジネス大国では、バレエは "人に夢を与える" 事を商品にするビジネスの一つとして成功し易いのでありましょう。

でもそれをした時点で、それは純粋な「芸術」から離れて行くのです。

 

 

ですので本物の芸術家の方ほど、そのジレンマに対する葛藤は強くなります。

例えばこれも又一つの例として、私は日本で仕事をするロシア人を始めとする多くの外国人のバレエ・ダンサー達や教師達を見てそう思います。

 

真の芸術家であれば、当然この日本でも「質の良い本格的なバレエ」を伝授したいと思います。

でも賢い彼等は仕事をしながら、今まで私が述べて来た様な弊害を日本のバレエ界の中に観るのです。

 

そしてそのジレンマに葛藤しながらも、シビアに自分が生きて行く為に、自分の芸術であるバレエを「ビジネス化」して行ってしまう。

その取引きを、彼等が「"ビジネス" として美味しい」と感じられる様になった時、或いは生活の為に自分の中に或る種の "諦め" と "妥協" を選択する様になった時には、

 

彼等の芸術性の質は確実に落ちているという事は、決して否めない事実なのです。

 

 

今、これを書いていて、こんな事を思い出しました。

それはこの様な日本の現状を良くご存知ない外国人のダンス教師と、或るバレエスタジオの発表会を一緒に観た時に、彼女が私にこの様な感想を呟いた事です。

 

「ここの生徒達はバレエの基本が分かっていない。足のさばき方が間違っているし、ラインも凄く汚くて生徒達が可哀想。これは生徒を指導する教師の責任だ」

 

その時、私は彼女にこう答えました。

「確かに。だけどね、その様に本格的なバレエ、美しくなる為に真剣な努力を要するものを教えようとすると、日本では生徒が減るのよ」

 

その時に「そんな生徒、信じられない! だって自分がお客様の前で恥をかくのに!? お客様だってそんなものは見たくないよ!」と呆れて驚いていた彼女の顔が、私は今でも忘れられません。(笑)

(※彼女は当時、習い事をする時に多くの日本人が持つ癖 = 依存心の強さから来る「(質は二の次で) 頑張っているから認めて欲しい」という赤ちゃん気質を知らなかった様に思います)

 

 

この捉え方から、彼女の中には "プロフェッショナル" とはどういうものであるかを理解している事が私には窺がえたのですが、

 

この事からも分かる様に、日本の多くのバレエ教室では教師が自分の生活の為に生徒が減る事を怖れて、生徒のご機嫌を損ねない様に気を遣い、生徒が「自分を楽しくする為の自己満足」のビジネスとして舞台に立たせる事になっているという現実が、事実日本のバレエ界には山ほどあるのです。

 

つまりそれは教師が「自分の懐が潤えば、生徒の踊りの質は関係ない」という様な、"質よりも量を重視する" ビジネスに偏重した故の結果が、その通りに生徒の踊りに現れているという事なのですね。

(※或いは教師自身がバレエをキチンと学んでいないかのどちらかです)

 

 

…と以上、色々な現状を述べて参りましたが、

この様に本来「芸術」の果たす役割というものを「ビジネス」にする場合に起きて来る様々な弊害やジレンマというものに、皆様少しはご理解頂けましたでしょうか?

 

ちなみに今回のコラムを読んで下さった方の中には、改めて「芸術とは何か?」との思いを持たれた方も多いのではないかと思います。

 

それを考えた時、以前私はテレビでロシアの国を取材したドキュメンタリー番組の中で、街頭でインタビュアーに質問を受けた一般市民の方が、「私達人間は、芸術が無ければ生きて行く事ができません」と答えていた事が思い出されます。

 

これはどの様な事かと申しますと、

例えば或るイスラム原理主義の国などでは、その厳格な戒律から「女性は目以外の体を黒い服で隠さなければならない」「音楽を聴く事や芸術に親しむ事などは堕落を表すもの」として、生活の中に華やかなもの、美しいものに触れる事を禁止されている国の方達がおりますが、

その様な戒律を厳格に守る国ほど、人の心が殺伐として来る現実というものが実際あります。

 

つまりこれは、「人間が時に苦しく厳しい人生を生き抜いて行く為には、肉体の栄養だけでなく、心にも栄養が必要である」という事を表していると思います。

その心の栄養になるのが「芸術」というものなのです。

 

 

これは良く例えに言われる事ですが…。

例えば私達の生活の中に「黒」や「灰色」という色しか存在しなかったら、人の心にはどの様な影響が出て来るのか?という事をご存知ですか?

もし人間の生活の中に「色」というものが無かったら、確実に私達は心や精神を病むのです。

 

「芸術は心のビタミン」というのは、美輪明宏さんが良く言われている言葉ですね?

どんなに滋養の有るご馳走を食べても、それをエネルギーに変えるビタミンやミネラルというものが無かったら私達の身体は機能しないという事と同じである事を、美輪さんはものの見事に短い言葉で表していらっしゃるのは流石です。

 

私達人間は心を持った生き物ですので、「芸術なんか必要無い」と感じておられる方達も、ご自分の生活の中に芸術というものが有るか無いかにより、その方の精神状態は変わります。

つまり、芸術がどれだけ人の心に大きな影響を及ぼしているのかという事をそういう方達はご存知無いだけで、私達は無意識であっても、知らず知らずに多大な影響を受けているのですね。

この説明で、先にご紹介した「私達は芸術が無ければ生きて行けない」というロシア人女性の言葉をご理解頂けましたでしょうか?

 

 

「芸術」というものはこの様に、実は私達が思っている以上に私達の感性に多大な影響を与えているものなのです。

ロシア人はそれを良く理解しているからこそ、人々の為に奉仕する使命を自覚し、崇高な情熱を持ち続けながら芸術に身を捧げる努力を怠らない人生を選ぶプロフェッショナルな芸術家を、

 "一番神様に近い存在" として尊敬し、そしてそれを喜んで支え守り助けるという様な文化が一般市民の間でも育まれているのです。

 

「芸術家を守る」とは、その様な使命を持った彼等が、生活の為に心を砕く様な事が無い様に「ビジネス」から切り離すという事です。

そうでなければ芸術家が自らの純粋さを保つ = 質を高めて行くという事が難しくなるからです。

 

芸術を愛しそれに携わる人間は、この事をとても深く理解しています。

ですので、社会(共産)主義でしたら "国" がその役目を担う様に、昔からどの国でも(勿論日本の歴史の中にも数多く)王族や貴族、又は実業家などの富豪が彼等のパトロンになるなどは、世の中の芸術家には不可欠な事だったのですね。

 

 

ちなみに私の場合は、その役割りを担ってくれたのが (これは或る意味、この様な現状の日本では一番理想の形なのかもしれませんが) 父でした。

(※ちなみに我が父は、大富豪や貴族ではありません!(笑) )

父が長年に渡り、その役目で私を支えてくれたお陰で、私はバレエ・ダンサーとしても、バレエ教師としても、そして振付家としても、自由に伸び伸びと自分を表現する事ができたのですから、本当に感謝です。

 

 

ですが、芸術家ではない父が理解できなかったものが有りました。

それは、今まで私がお伝えして来た様な「芸術」と相反する「ビジネス」というものの達人に私が成る事が、自分の娘の幸せと思っていたという事でした。

 

 

でもこれは普通の親だったら誰もが思う事であり、父が娘を思う気持ちの現れ=父の愛情であったという事ですから、私は父には感謝しかありません。

 

 

只それとは別に、前回のコラムでお伝えした様に、私はそこには幸せを感じられない根っからの芸術家気質であったが為に生まれる自分の中の長年の葛藤は、それはそれはハンパ無い苦しみでもあったという事実が、自分の中に確実に存在するのです。

人間は「自分の個性に合わない事を、自分で(※父からではない)自分に強制する」ほど不幸せな事はないのだと、その部分に関しては、自分で自分をそう思います。

 

 

けれどスタジオを閉鎖できた今は、全ての悩みから解放されて、もしかしたら私は自分の人生で今一番自分の中に "安らぎ" を感じているのかもしれません。

そう思えるのは、どの様な状況の中でも常に前向きに、未熟ながらも、葛藤しながらも、「その時、その時の自分にできる精一杯の自分のベストを尽くして来た」という事が自分の中に在るからだと思います。

(^^✿

 

単なる「ビジネス」としてしか物事を捉えられない方達には、この私の経験した感覚は理解できないものではないかと思いますが(芸術家の事は、芸術家にしか理解できません故)、

私の中では「"バレエ" というツールを通しての人生の学びは卒業できた = 自分にできる事はやり尽くした」という、とても清々しい気持ちなのであります。

 

 

…と、最後は非常に個人的なお話しを例に挙げさせて頂きましたが…。

皆様には「芸術」と「ビジネス」が本来相反するものだという事を、ご理解頂けましたでしょうか?

(^^✿✿✿

 

 

 

 

  

「ジゼル」Act 2より パ・ド・ドゥ

 

この写真は1999年に、コンクールに出場した時のフォトです♫

数有る自分の舞台写真の中でも、自分に取っては特別なお気に入りの一つになっているゲージュツ的な一枚です♫

 

ちなみに私はモノクロの写真が醸し出す、奥深さを感じさせてくれる雰囲気が昔から好きなのです♫

それはこの世に豊富な色彩が在るからこそ、味わえる感覚なのですね♫

(*^^*)

 

 

 

今回のテーマでのコラムを書き終えて、私が感じる事ですが…。

今回のテーマは、私に取っては今までになく現実的で、とてもヘビーな内容になったと感じております。

 

そしてこれを書きながら、又私には或る事が思い出されました♫

(^^✿

 

それは、お若い時から舞台の裏方として働かれている、今ではかなり年配の大ベテランの照明の方が、毎年或る舞台で私の生徒達が出演する舞台の照明を担当して下さっていた時に、私に率直な感想を次の様に述べて下さった事でした。

 

「長年腐るほど色々な舞台を散々観て来た僕だけど、大園さんの創る舞台は毎回面白くて感動する。そして観る度に生徒達の意識レベルは毎年毎年、常に上がっているのが分かる。

普通は生徒が減って行くお教室というのは、それと比例して舞台の出来や生徒の質が落ちるという共通した現象があるが、大園さんのスタジオはその逆だ。

僕は長年数え切れないバレエ教室の舞台を観て来たが、この様な現象を観たのは大園さんのスタジオの舞台だけだ。とても不思議な現象だ」

 

 

私はこれを伺った時に、「あぁ、やはり心在る方には視えているのだなぁ!」と、とても嬉しく有り難く感じた事を思い出します。

☆_(_☆_)_☆

そしてそれは、いつも自分自身でも自覚して来た事でもありましたし、毎回舞台を観る生徒の親御さん達にも良く言われていた事でもありました。

( ・・) ~ ☆彡

 

私は最後まで、芸術に携わる教師としての使命である「生徒の質を向上させ続ける」という事、そして「下げる事が一度も無かった」という事を全うできたと自負しており、

 

これは自分が長年「芸術」と「ビジネス」の狭間でジレンマに悩み苦しい思いをしながらも、一介の "芸術家" としての自分を貫いた事の証しでもあり、自分自身への誇りでもあります。

( ・・) ~ ☆彡☆彡☆彡

 

だから今、自分の中では悔いの無い "卒業" という感覚に来れているのかも???(笑) 

(*^^*) ~ ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

 

そして、これから更にステップアップした別の新たな学びが、又自分の人生に始まるのだなぁと感じている私なのでした♫

✿_(_✿_)_✿

 

 

 

 

 

 

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長年プリマとして国内外で活躍。現役引退後は後進の指導とバレエ作品の振付けに専念。バレエ衣裳や頭飾りを作り続けて得たセンスを生かし、自由な発想でのオリジナルデザインの洋服や小物等を作る事と読書が趣味。著書に「人生の奥行き」(文芸社) 2003年