中国特許民事訴訟概説(第7回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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村田 英幸
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(弁護士)
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中国特許民事訴訟概説(第7回)

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中国特許民事訴訟概説 ''〜中国で特許は守れるか?〜''(第7回) 
河野特許事務所 2008年9月16日
執筆者:弁理士 河野英仁、中国弁理士 張   嵩


6.特許権の民事的救済措置
 中国における民事的救済措置は日本及び米国とほぼ同様であり,差止請求権の行使及び損害賠償請求権の行使が中心となる。2000 年には,TRIPS 第41 条第1項の規定を受けて,仮処分の申請(以下,保全措置)が中国特許法第61 条に新設され,迅速な救済が必要とされる事件には積極的に利用されている。
 また損害賠償については米国の如く懲罰的というよりも,むしろ日本と同じく補償的意味合いが強い。しかしながら,原告の損害額の立証負担を軽減すべく中国の司法解釈にも,日本国特許法第102 条第1 項乃至第3 項に類似する規定が設けられている(法釈(2001)第21 号第20 条乃至第22 条)。
 以下では,保全措置及び損害賠償の算定について述べる。
(1)保全措置
 中国特許法第61 条第1 項は保全措置に関し以下のとおり規定している。
「特許権者または利害関係人は他人が特許権侵害行為を現に実施しまたは実施しようとしていることを証明する証拠を有し,直ちに制止しなければ合法的権益が回復し難い損害を蒙る場合は,提訴前に関係行為の停止命令と財産保全措置をとるよう人民法院へ申し立てることができる。」
 保全措置は2000 年に導入され,積極的に利用されている。中国特許法第61 条においては,現実の実施及び回復し難い損害の2 要件を要求しているが,司法解釈では,
第1:侵害の蓋然性が高いこと
第2:回復し難い損害
第3:申立人の提供した担保
第4:公共の利益
を総合的に考慮して保全措置を認めるか否かを決定すると規定されている。保全措置は迅速に特許権者を救済するものであるが,その一方で後に特許が無効または非侵害と判断された場合,被申立人が不測の損害を被る場合もある。そのため申立人の担保及び公共の利益等をも考慮することとしているのである。
 最高人民法院は,保全措置を積極的に活用しているが,慎重さを失わずに第1 乃至第4 の要件を判断している。なお,最も重視するのは第1 の要件である。
 2000 年に導入されてから2006 年10 月までの間,258 の特許に関する保全措置の申し立てがなされ,136 の事件において保全措置が認められた。これほど多く保全措置を認めているのは,侵害行為が明らかな事件が数多くあるということ,また悪質な侵害に対しては積極的に保全措置を認め,特許権者を手厚く保護しようとする人民法院の強い意志の表れであろう。
 ただし近年人民法院は中国特許法第61 条第1 項に規定する「合法的権益が回復しがたい損害を蒙る場合」の要件を厳格に解釈する傾向にある。そのため近年では保全措置の申し立て件数は減少傾向にある。
(2)損害賠償額の計算
 知的財産権侵害の事件における被侵害者への救済措置として,「侵害差止め」,「影響の除去」,「謝罪」,「損害賠償」等の手段がある。その中で,損害賠償は最も有効な損失補償手段だと認められる。従って,どのように損害賠償額を正確に計算するかは侵害訴訟における重要な問題となる。以下は中国の知的財産権侵害訴訟においての損害賠償額の計算方法を簡単にまとめる:
第1:権利者の実際の損失に従って賠償をすること;
第2: 侵害者の違法行為による所得に従って賠償をすること;
第3: 当該知的財産権のライセンス費の倍数(1〜3倍)を参照して合理に確定すること(主には特許権と商標専用権の侵害に対する賠償方式);
第4: 法院が侵害行為の情状に応じて五十万元以下(一般的には五千元以上,三十万元以下で決定し,五十万元は上限額として設置されたのである)で賠償額を判決すること。(条文法釈2001 年第21 号第20 条)
 以上の賠償額の他に権利者が侵害を差し止めるために支払った合理の費用,例えば証拠の調査・取得,弁護士費用等も請求することができる。
 また,以上述べた賠償方法は優先順位を有する。方法1 及び2 は第1 の順位に当たり,権利者が自由に選択できるものである。方法1 及び2 に基づいて賠償額を計算し難い場合,方法3 が採用される。これら三つの方法をもってしても賠償額の計算が困難な場合,方法4 が採用される。
 「1 〜 3 倍」及び「五十万元以下」と規定されているが,具体的にどのような値となるかは,裁判官が知的財産権の種類,ライセンス費,侵害行為の性質及び結果に基づいて自由裁量により決定することになる。
 
(第8回に続く)
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