中国特許判例紹介(33)中国における均等論の解釈(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
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対象:特許・商標・著作権

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中国特許判例紹介(33)中国における均等論の解釈(第1回)

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中国における均等論の解釈

~日本企業が均等論を主張され敗訴した事例~

中国特許判例紹介(33)(第1回)

2014年5月6日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

裴永植

                   原告

v.

ソニー(中国)有限公司

                           被告

 

1.概要

 中国では均等論による特許権侵害を認める事例が非常に多く十分注意する必要がある。均等については、司法解釈[2001]第21号第17条第2項に以下のとおり規定されている。

 

 均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に同一の手段により、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。

 

 また、司法解釈[2009]第21 号第7条は以下のとおり規定している。

 

第7条 人民法院は、権利侵害と訴えられた技術方案が特許権の技術的範囲に属するか否かを判断する際、権利者が主張する請求項に記載されている全ての技術的特徴を審査しなければならない。

 権利侵害と訴えられた技術方案が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいる場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属すると認定しなければならない。権利侵害と訴えられた技術方案の技術的特徴が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と比較して、請求項に記載されている一以上の技術的特徴を欠いている場合、または一以上の技術的特徴が同一でも均等でもない場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属しないと認定しなければならない。

 

 すなわち、中国では手段、機能、及び効果が実質的に同一であり、かつ、容易に連想することができるものであれば、均等と認定される。本事件では、ヘッドホンにおける電池収容箇所が左右相違するだけであったため、北京市第二中級人民法院は均等論上の侵害を認める判決をなした[1]

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 裴永植(原告)は、「MP-3プレーヤ」と称する発明特許権を所有している。特許番号はZL00104597.0(以下、597特許という)である。原告は2000年1月18日に韓国に第1国出願を行い、2000年3月31日中国国家知識産権局に、発明特許出願を申請した。原告はその他、米国等にも特許出願を行っている。知識産権局は2005年2月23日特許を付与した。

 

 597特許の請求項1,2及び6は以下のとおりである。なお、符合は筆者において付した。

1.一MP-3プレーヤにおいて:

        スピーカが内部に取り付けられ、かつ、使用者の耳に取り付けられる第一スピーカ部分50と、

        該第一スピーカ部分50内に設けられ、かつ、MP-3ファイルの音声を再生する電子部品である電子装置部分と;

        スピーカが内部に取り付けられ、かつ、使用者の耳に取り付けられる第二スピーカ部分60と、

        第一スピーカ50部分及び第二スピーカ部分60を連接し、使用者の頭部にのせられる装着装置500と

 を備えるMP-3プレーヤ。

 

2.第一スピーカ部分50は、

 電池収容部分130を有する第一ケース100と,

 第一ケース100の一面上に連結され、かつ、内部に電子装置部分を有する第二ケース300と,

 第二ケース300の一面上に連結され、かつ、内部にスピーカ120を有する第三ケース400と

 を備える請求項1に記載のMP-3プレーヤ。

 

6.前記第2ケース300は、さらに取り付け槽320を備え、

 スイッチ240は該取り付け槽320内に設けられ外側に露出している

 ことを特徴とする請求項2に記載のMP-3プレーヤ。

 

 

 

 明細書実施例及び図3~6aの記載によれば、第一スピーカ部分50は、第一ケース100及び当該第一ケース100に連結される第二ケース300を有する。第一ケース100は、電池収容部分130を形成し、電池140を電源として用い、電池収容部分130は、蓋150により開閉できる。

 

(2)訴訟の経緯

 原告はソニー(中国)有限公司(被告)がマレーシアで製造し、中国に輸入しているMP3プレーヤ(型番NWZ-W252/BM、以下イ号製品)を、2010年8月11日北京王府京のsony style店舗にて、599元(約9,600円)で公証購入した。

 

 原告は2010年10月20日被告が販売するイ号製品が597特許を侵害するとして、北京市第二中級人民法院に提訴した。

 

 被告は対抗手段として復審委員会に無効宣告請求を行った。2011年11月30日復審委員会は第17613号無効宣告請求審査決定をなし、請求項1,2,7-9は無効、請求項3-6,10は特許有効との判断をなした。被告はこれを不服として北京市第一中級人民法院に上訴したが、同法院はこれを維持する判決をなした。

 

 

3.中級人民法院での争点

争点:電池収納部分に関し均等侵害が成立するか否か

 争点となったのは以下の請求項2の構成要件E及びFである。

 

構成要件E:第一スピーカ部分50に設けられ、電池収容部分130を有する第一ケース100と,

構成要件F:第一スピーカ部分50に設けられ、第一ケース100の一面上に連結され、かつ、内部に電子装置部分を有する第二ケース300と,

 

 これに対し、イ号製品の特徴は以下のとおりである。

リチウム電池及び電池収容部分は、第二スピーカ部分に設けられている。

電池収納部分130を有する第一ケースが、第二スピーカ部分にある。

 

  すなわち、電池収容部分130は特許請求項では第一スピーカ部分50に設けられ、と記載していることから、電池収容部分を第二スピーカ部分に設けているイ号製品は、文言上明らかに技術的範囲に属さない。この電池収容部分130の位置を第一スピーカ部分50から、第二スピーカ部分60へと置き換えることが均等といえるか否かが争点となった。

 



[1] 北京市第二中級人民法院 2013年6月21日判決 (2013)二中民初字第04028号

 

 

(第2回へ続く)



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