中国特許判例紹介(29) 中国における禁反言の適用 (第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(29) 中国における禁反言の適用 (第3回)

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中国特許判例紹介(29)(第3回)

中国における禁反言の適用

~請求項を削除した場合の均等論と禁反言の適用~

 

2013年10月22日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

4.最高人民法院の判断

争点:禁反言の適用に際しては放棄した範囲を詳細に分析しなければならない

 最高人民法院は最初に,禁反言法理の根底にあるものについて言及した。誠実信用原則は民法の基本原則の一つであり、禁反言は、民事主体に承諾を忠実に守ることを要求するものであり、善意の第三者の合理的信頼または正当な期待を害してはならない。

 

 特許実務において特許出願人は往々にして請求項または明細書の減縮を通じて、早期権利化を試みるが、侵害訴訟または均等侵害を通じて既に放棄した技術方案を再び特許権の保護範囲に含めようと試みる。特許権保護範囲の安定性を確保し,社会公衆の信頼と利益を保護すべく,特許制度は禁反言の法理を通じて、特許権者に上述した“一挙両得”の情形が発生するのを防止している。

 

 従って、特許権者は特許取得過程または無効宣告の過程において,請求項、明細書の補正または意見陳述を通じて放棄した技術方案について,権利者は特許権侵害紛争案件においてこれを特許の特許権保護範囲に含めた場合,人民法院はこれを支持しないこととしている。

 

 最高人民法院は次に,放棄の認定標準について分析した。特許権の保護範囲は請求項に含まれる技術特徴により限定されるものであり,特許権の保護範囲の変化は,請求項中の技術特徴の変化を体現するものである。審査過程または無効宣告過程において,特許権者は自発的にまたは審查官の要求に応じて,請求項により確定される保護範囲に対し技術特徴を追加することで限定することができ,また、意見陳述を通じて請求項に対し減縮性の解釈を行うことができる。

 

 禁反言の法理は、特許権の保護範囲を減縮する補正または陳述において放棄された技術方案に対し適用される。当該放棄に関し,通常は特許権者が補正または意見陳述を通じて行った自己放棄である。しかしながら,特許復審委員会が独立請求項を無効と認定し、その従属請求項の基礎上において特許権有効と判断し,かつ特許権者が未だ上述の自己放棄を行っていない場合は、禁反言の法理中の“放棄”を構成するか否かを判断するにあたり,特許権者が自己放棄の状態であるか十分注意すべきであり,厳格に放棄の認定条件を把握すべきである。

 

 従属請求項中の外的附加の技特徴がいまだ独立請求項で概括されていない場合,当該外的附加の技術特徴は最初に参照されていないことから,当該外的附加技特徴以外の技方案を既に全て放棄したと推定する事はできない

 

 本案において被告は,請求項1-2は無効とされており,請求項3はそれに対しさらに一歩限定したものであり,請求項1-2と請求項3との間の“領地”は既に放棄されたと主張した。当該主張に対し最高人民法院は同意しなかった。

 

 請求項3中の“銀膜”は請求項1-2で必ずしも言及されておらず,かつ,原告は審査過程及び無効宣告過程において請求項及び明細書について補正しておらず,意見陳述書においても以外のその他の導電材料を導電線の方案として放棄していない。以上のことから、最高人民法院は、請求項1-2が無効とされたことから直ちに請求項3の外的附加の技術特徴“銀膜”について、均等論が適用できないとした上海市高級人民法院の判断は誤りであると認定した。

 

 

5.結論

 最高人民法院は禁反言により均等論上の侵害が成立しないとした上海市高級人民法院の判決を取り消し、均等論による侵害を認め、差し止め及び20万元(約320万円)の損害賠償を命じた。

 

 

6.コメント

 実用新型特許は無審査で登録されるため、一般的には禁反言の問題が生じにくい。禁反言の問題が、生じるとすれば本事件のように無効宣告請求を受けて、特許権者が、請求項を削除した場合である。

 

 本事件では従属元の請求項で言及していない技術特徴については、削除補正によっては当該技術特徴について放棄したとは言えないことから、禁反言は成立せず、依然として均等論の主張は可能と判断された。逆に、従属元に導電部材と広く記載されており、補正により導電部材を銀膜とする請求項への削除補正を行った場合、明らかに銀膜以外の材料については放棄したということになる。削除補正の場合、どの範囲を放棄したかを詳細に検討する必要があると言えよう。

 

 

以上


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