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村田 英幸
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Blog201402、消費者法

割賦販売法に関する最高裁判例
特定商取引法の条文、
特定商取引法のクーリング・オフ、
特定継続的役務提供取引に関する、中途解約の場合の清算
中途解約精算金請求事件(NOVA事件)(最高裁判所第3小法廷判決平成19年4月3日)

商品先物取引法
最高裁決定平成4年2月18日、詐欺・商品取引所法違反被告事件

今月は、特定商取引法の条文を読みました。
特定商取引法は、主に、業者の説明義務、書面交付義務、購入者等のクーリング・オフ、損害賠償額の制限、業者に対する行政の監督などを定めている。
特定商取引とは、以下の取引をいう。
訪問販売、
通信販売
電話勧誘販売に係る取引、
連鎖販売取引、
特定継続的役務提供に係る取引、
業務提供誘引販売取引
訪問購入に係る取引

特定商取引に関する法律
(昭和五十一年六月四日法律第五十七号)
最終改正:平成二四年八月二二日法律第五九号

 第一章 総則(第一条)
 第二章 訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売
  第一節 定義(第二条)
  第二節 訪問販売(第三条―第十条)
  第三節 通信販売(第十一条―第十五条の二)
  第四節 電話勧誘販売(第十六条―第二十五条)
  第五節 雑則(第二十六条―第三十二条の二)
 第三章 連鎖販売取引(第三十三条―第四十条の三)
 第四章 特定継続的役務提供(第四十一条―第五十条)
 第五章 業務提供誘引販売取引(第五十一条―第五十八条の三)
 第五章の二 訪問購入(第五十八条の四―第五十八条の十七)
 第五章の三 差止請求権(第五十八条の十八―第五十八条の二十五)
 第六章 雑則(第五十九条―第六十九条)
 第七章 罰則(第七十条―第七十六条)

   第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。



特定商取引法のクーリング・オフ

特定商取引とは、以下の取引をいう。
訪問販売、
通信販売
電話勧誘販売に係る取引、
連鎖販売取引、
特定継続的役務提供に係る取引、
業務提供誘引販売取引
訪問購入に係る取引


訪問販売
事業所以外の場所で契約した場合 法定書面を受領した日から8日 9条
過量売買による解除 9条の2
損害賠償額の制限 10条

通信販売
申込みの撤回等 15条の2 法定書面を受領した日から8日

電話勧誘販売
申込みの撤回等 24条 法定書面を受領した日から8日
損害賠償額の制限 25条

連鎖販売取引
クーリング・オフ 40条 法定書面受領日から20日
誤認等による解除 40条の2
損害賠償額の制限 40条の2第3項

特定継続的役務提供
クーリング・オフ 48条 法定書面受領日から20日
中途解約権 49条
損害賠償額の制限 49条

業務提供誘引販売取引
クーリング・オフ 58条 法定書面受領日から20日
損害賠償額の制限 58条の3



特定継続的役務提供取引に関する、中途解約の場合の清算
「特定継続的役務提供」とは、エステティック、語学教室、家庭教師、塾・予備校、パソコン教室、結婚紹介のみが対象である。
特定継続的役務 特定継続的役務提供の期間 契約の解除によって通常生ずる損害の額 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
一 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと。 一月 二万円又は当該特定継続的役務提供契約に係る特定継続的役務の対価の総額から提供された特定継続的役務の対価に相当する額を控除した額(以下この表において「契約残額」という。)の百分の十に相当する額のいずれか低い額 二万円
二 語学の教授(学校教育法第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校若しくは同法第百三十四条第一項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験に備えるため又は同法第一条に規定する学校(大学を除く。)における教育の補習のための学力の教授に該当するものを除く。) 二月 五万円又は契約残額の百分の二十に相当する額のいずれか低い額 一万五千円
三 学校教育法第一条に規定する学校(幼稚園及び小学校を除く。)、同法第百二十四条に規定する専修学校若しくは同法第百三十四条第一項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験(四の項において「入学試験」という。)に備えるため又は学校教育(同法第一条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)における教育をいう。同項において同じ。)の補習のための学力の教授(同項に規定する場所以外の場所において提供されるものに限る。) 二月 五万円又は当該特定継続的役務提供契約における一月分の役務の対価に相当する額のいずれか低い額 二万円
四 入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学校教育法第一条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)の児童、生徒又は学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る。) 二月 二万円又は当該特定継続的役務提供契約における一月分の役務の対価に相当する額のいずれか低い額 一万一千円
五 電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授 二月 五万円又は契約残額の百分の二十に相当する額のいずれか低い額 一万五千円
六 結婚を希望する者への異性の紹介 二月 二万円又は契約残額の百分の二十に相当する額のいずれか低い額 三万円


業務提供誘引販売取引
訪問購入に係る取引
クーリング・オフ 58条の14 法定書面受領日から8日
損害賠償額の制限 58条の16

特定商取引に関する与信について、申込みの撤回等は、割賦販売法35条の3の10、35条の3の11


他の法律でクーリング・オフの規定があるもの
イ 金融商品取引法 第二条第九項 に規定する金融商品取引業者が行う同条第八項 に規定する商品の販売又は役務の提供、同条第十二項 に規定する金融商品仲介業者が行う同条第十一項 に規定する役務の提供、同項 に規定する登録金融機関が行う同法第三十三条の五第一項第三号 に規定する商品の販売又は役務の提供、同法第七十九条の十 に規定する認定投資者保護団体が行う同法第七十九条の七第一項 に規定する役務の提供及び同法第二条第三十項 に規定する証券金融会社が行う同法第百五十六条の二十四第一項 又は第百五十六条の二十七第一項 に規定する役務の提供
ロ 宅地建物取引業法第二条第三号 に規定する宅地建物取引業者(信託会社又は金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第一条第一項 の認可を受けた金融機関であって、宅地建物取引業法第二条第二号 に規定する宅地建物取引業を営むものを含む。)が行う宅地建物取引業法第二条第二号 に規定する商品の販売又は役務の提供
ハ 旅行業法 第六条の四第一項 に規定する旅行業者及び同条第三項 に規定する旅行業者代理業者が行う同法第二条第三項 に規定する役務の提供


中途解約精算金請求事件(NOVA事件)
最高裁判所第3小法廷判決平成19年4月3日・民事判例集61巻3号967頁

【判決要旨】 外国語会話教室の受講契約の解除に伴う受講料の清算について定める約定が,特定商取引に関する法律49条2項1号に定める額を超える額の金銭の支払を求めるものとして無効であるとされた事例

【参照条文】 特定商取引に関する法律41条1項、49条1項2項、民法420条

 1 本件は,Yの経営する外国語会話教室に通っていたXが,受講契約を中途解約したことに伴い,前払受講料の清算を求める事案である。本件の事実関係等の概要は,以下のとおりである。
(1)Yが経営する外国語会話教室において授業を受けるためには,Yの料金規定(以下「本件料金規定」という。)に従ってあらかじめポイントを購入し,そのポイントを登録して受講契約を締結しなければならず,その上で,受講者は,登録したポイントを使用して1ポイントにつき1回の授業を受けることができる。ポイントの購入代金が,いわゆる受講料に当たるが,本件料金規定は,購入,登録する一定のポイント数に応じてポイント単価を定めており,その単価に登録ポイント数を乗じた額に消費税相当額を合算して,受講料が決められることになっていた(以下,受講契約を締結する際の受講料算定の基礎となるポイント単価を「契約時単価」という)。なお,本件料金規定では,登録するポイント数が多ければ多いほど,ポイント単価が安くなるといういわゆる数量割引制度が採用されていた。
 また,Yにおいては,受講契約を中途解約した場合の前払受講料の清算について,前払額から,中途解約するまでに使用したポイントの対価額等を控除した残額を返還するものとされ,その使用済みポイントの対価額の算定方法について,本件料金規定に定める各登録ポイント数のうち使用したポイント数以下でそれに最も近い登録ポイント数に対応するポイント単価を,使用したポイント数に乗じた額と消費税相当額を合算した額とすること,ただし,その算定額が,使用したポイント数を超え,それに最も近い登録ポイント数の受講料の額を超える場合には,その受講料の額とすることが定められていた(以下,この使用済みポイントの対価額の算定方法に関する定めを「本件清算規定」という。)。本件清算規定によると,解約に伴う清算時の使用済みポイントの単価は,常に契約時単価よりも高額となる。Xが登録したポイント数は,600ポイントで,本件料金規定によるポイント単価は1200円であったが,386ポイントを使用した時点で解約されており,本件清算規定によると,ただし書の適用により,400ポイントの受講料額である65万1000円が使用済みポイントの対価額となる。
(2)ところで,Xの締結していた受講契約は,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)41条1項1号にいう特定継続的役務提供契約に該当するものであった。特定商取引法は,49条1項において,特定継続的役務提供契約につき,役務受領者による中途解約の自由を認めるとともに,同条2項1号において,その中途解約に際し,役務提供事業者は,役務受領者に対して,損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときでも,同号イに定める提供された役務の対価に相当する額(以下「提供済役務対価相当額」という。)と同号ロに定める解約によって通常生ずる損害の額として政令で定める額を合算した額に,法定利率による遅延損害金の額を加算した金額(以下「法定限度額」という。)を超える額の金銭の支払を請求することができない旨を定めている。Xは,本件清算規定は,法49条2項1号の定めに違反し無効であり,本件の使用済みポイントの対価額は,契約時単価である1200円を用いて計算すベきであると主張し,他方,Yは,本件清算規定の適用を主張して争った。
 2 原審は,役務提供事業者が,役務受領者による中途解約に伴い,受領金の額から提供済役務対価相当額を控除した残額を返還する場合において,受領金の授受に際して役務の対価に単価が定められていたときは,役務提供事業者は,原則として,その単価によって提供済役務対価相当額を算定すべきであり,合理的な理由なくこれと異なる単価を用いることは,法49条2項の趣旨に反し許されず,本件清算規定が,契約時単価と異なる単価によって使用済みポイントの対価額を算定すべきものとしていることに合理的な理由はないから無効であるとして,Xの請求を認容すべきものとした。なお,1審も同様の判断を示している。
 3 本判決は,まず,特定商取引法49条1項及び同条2項1号の趣旨について,特定継続的役務提供契約の性質,すなわち,契約期間が長期にわたることが少なくない上,契約に基づいて提供される役務の内容が客観的明確性を有するものではなく,役務の受領による効果も確実とはいえないことなどにかんがみ,役務受領者が不測の不利益を被ることがないように,役務受領者は,自由に契約を解約することができることとし,この自由な解約権の行使を保障するために,中途解約の際,役務提供事業者は役務受領者に対し法定限度額しか請求できないことにしたものと解されるとした。その上で,本件料金規定において,登録ポイント数に応じて,一つのポイント単価が定められており,受講者が提供を受ける各個別役務の対価額は,契約時単価をもって一律に定められていることからすると,使用済ポイントの対価額も,契約時単価によって算定されると解するのが自然というべきであり,他方,本件清算規定に従って算定される使用済ポイントの対価額は,契約時単価によって算定されるものよりも常に高額となり,このように解約があった場合にのみ適用される高額の対価額を定める本件清算規定は,実質的には,損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するもので,上記各規定の趣旨に反して受講者による自由な解約権の行使を制約するものであるから,本件清算規定は,特定商取引法49条2項1号に定める法定限度額を超える額の金銭の支払を求めるものとして無効であり,本件の使用済ポイントの対価額は,契約時単価によって算定するのが相当であるとして,原審の結論を是認し,本件上告を棄却すべき旨判示した。
 4 本件で問題となった特定商取引法49条は,訪問販売等に関する法律(同法の名称は,平成12年法律第120号による改正で,現在の「特定商取引に関する法律」と改められた。)が,平成11年法律第34号により改正された際に新たに設けられたものであり,これは,語学教室やエステティックサロンなど,一定の契約類型において,消費者からの中途解約があった場合に,役務提供事業者から解約権の行使を否定されたり,多額の違約金の支払が求められるなどして,トラブルが多発したことを受け,中途解約権を保障する趣旨から設けられたものである。本判決も指摘するとおり,語学教室などで提供される継続的役務は,公共交通機関等で提供される継続的役務とは異なる性質(契約期間が長期にわたることが少なくない上,役務の内容が客観的明確性を有するものではなく,役務の受領による効果も確実とはいえないこと)を有することに着目して,特に設けられたものである。その立法過程においては,本件清算規定のような定めが,特定商取引法49条2項1号に違反するか否かは,明示的に議論はされていないようであるが,同号イにいう提供済役務対価相当額について,特約をもって自由に定めることができるとすると,その対価額の中に違約金的要素を含めることが可能となり,中途解約に際し役務提供事業者が請求できる金銭について法定限度額を定めた法の趣旨を没却することにもなりかねない。
 学説上,本件の争点について,従来特段の議論があったわけではないが,消費者法の立法や運用に関与する実務家によって書かれた法の解説書では,本件清算規定のような規定の効力を否定する見解が採られている(齋藤雅弘ほか『特定商取引法ハンドブック〔第3版〕』395頁〔齋藤雅弘〕,圓山茂夫『詳解・特定商取引法の理論と実務』483頁)。
後記の下級審判決の判例評釈では,本件清算規定を違法無効とする判決の立場について,これを支持するもの(山本豊・判タ1204号31頁,本田純一・判評565号17頁)と無効説を否定するもの(鎌田薫・NBL831号12頁)に分かれる(その他,本件の問題へのアプローチの仕方について論点整理を行うものとして,潮見佳男・ジュリ1302号88頁がある。)。
他方,裁判例は,同種事案について,本件の1,2審判決を含め,7件の下級審判決が出ているが(その中で,公刊物に掲載されたものは,東京地判平17.2.16判タ1191号333頁〔本件の1審判決〕,東京高判平17.7.20判タ1199号281頁〔本件の2審判決〕,京都地判平18.1.30Lexis判例速報9号76頁),いずれも本件清算規定を無効とする判断を示している。本件清算規定が,使用済みポイントの対価額について契約時単価を用いて計算される場合よりも高額となるような規定の仕方をしているのは,逸失利益を確保したり,中途解約による損害,不利益を填補するためであるか,解約権の行使自体を困難とするためとしか考えられず,実質的にも,本件清算規定は,損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能し,特定商取引法49条2項1号が定める法定限度額を超える額の金銭の支払を求めるものと評価することができ,無効と解される。本判決も,同様の観点から,本件清算規定を無効としたものと考えられる。
 なお,原判決は,契約時単価と異なる単価を用いることについて,合理的理由の有無を問題としているが,合理的理由の有無によって区別する理論的根拠は必ずしも明らかではない。前記のような観点からは,合理的理由の有無いかんにかかわらず,本件清算規定は無効になるものと考えられ,本判決が,原審の判断について,結論において是認することができると判示したのも,そのような考慮からであると思われる。また,本件料金規定や本件清算規定のように,前払いを伴う数量割引制度をとる一方,解約時の清算金について,契約締結時点で適用された数量割引の利益を得られない形で算定する例は,公共交通機関の定期券など,継続的役務の提供を伴う契約類型において広く見られるが,本判決は,あくまで法の適用のある特定継続的役務提供契約について判断したものであり,その射程が同契約以外の契約類型にも直ちに及ぶものではないと考えられる。
 5 特定商取引法49条が設けられた後も,現在まで,語学学校・エステティック等の特定継続的役務提供契約における中途解約をめぐる紛争は後を絶たないようである。本判決はマスコミでも取り上げられ,社会的にも耳目を集めた事案であり,また,特定商取引法49条の適用が問題となる事案について最高裁判所が初の判断を示したものであって,実務上参考になる。
 6 なお、当該会社Yは、その後、法的倒産し、英会話教室の事業譲渡がされた。


最高裁決定平成4年2月18日、詐欺・商品取引所法違反被告事件
刑集46巻2号1頁、 判例タイムズ781号117頁

【判示事項】 商品先物取引に関して、いわゆる客殺し商法により顧客から委託証拠金名義で現金等の交付を受けた行為について詐欺罪の成立が認められた事例

【判決要旨】 商品先物取引に関して、いわゆる「客殺し商法」により顧客にことさら損失等を与えるとともに、いわゆる「向かい玉」を建てることにより顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる意図であるのに、顧客の利益のために受託業務を行うものであるかのように装って、取引の委託方を勧誘し、その旨信用した顧客から委託証拠金名義で現金等の交付を受けた行為(判文参照)は、詐欺罪(刑法246条1項)を構成する。

 一 本件は、先物取引に関して詐欺罪の成否が問題になった事案である。
先物取引に関しては、昭和30年代後半から40年代半ばにかけて国内の公設市場を舞台とする不正事犯が多発した後、乱立した私設市場における詐欺事犯が急増した。
そして、更に、海外先物取引をめぐる不正事犯が登場し、今後もなお増加する可能性があるとされているが(中村明「海外先物取引をめぐる不正事犯」金法1275号41頁)、本件は昭和45年から47年にかけての時期において、商品取引員(顧客からの商品取引所における売買注文を執行するための受託業務を行う者)として営業していた同和商品株式会社の社員らが顧客を勧誘し、総額5000万円に上る委託証拠金の交付を受けた行為に関連して、その幹部、管理職、外務員ら合計11名が詐欺により起訴された事案である(その他、同和商品に対する商品取引所法違反等も併せて起訴された。)。
 本件の最大の争点は、同和商品において、種々の方法(いわゆる「客殺し商法」や「向かい玉」)を用いて、客の取引に損失等を与えると同時にその損失に見合う利益を会社に帰属させる意図の下に、顧客の利益のために受託業務が行われるものと信用した顧客から委託手数料の交付を受ける行為が、詐欺罪の騙取に当たるといえるかどうかにあった。
 第1審判決は、被告人側の主張を容れて、「同和商品が種々の客殺し商法をとることを営業方針としていたとする点については、本件記録上これを認めるに至らない」として、委託証拠金は確実に返還する旨の具体的欺罔文言とともに勧誘が行われた4件のみについて詐欺罪の成立を認めた。
これに対して検察官が控訴し、控訴審判決は、検察官の主張を全面的に採用して、右の争点に関する原判断を破棄した。
これに対して被告人らから上告がされたが、本決定は、原判決の認定した事実関係を摘示した上で、それらの事実に照らせば、委託証拠金名義で現金等の交付を受けた被告人らの本件行為は、詐欺罪を構成する旨の職権判断を示して、上告を棄却した。
 二 商品取引員の外務員が先物取引を受託するに際して、
(1)取引の投機性に関して積極的な欺罔をした場合(例えば、損をしても委託証拠金だけは返還される旨の虚偽事実の告知)や、
(2)いわゆる「呑み行為」(商品市場における取引を実行しないこと)の意思であった場合に、委託証拠金の交付によって1項詐欺罪が成立することについては、おそらく異論がないと思われるが、本件では、すべての勧誘に当たって(1)のような形での欺罔があったとは認められず(したがって、顧客において商品取引の投機性は一応認識していたと考えられ)、しかも、同和商品側において市場における取引を行う意思もあったと解される点に特色がある。
本決定は、右のような場合であっても、委託証拠金の騙取に当たるとすべき事情が本件では肯定できるとしたものである。
 本件のような類型について詐欺罪を肯定することには、従来次のような問題点が示されていた。
第1に、法律的側面からの議論として、欺罔行為の中心は違法な行為をする目的を顧客に告げなかった不真正不作為にあると理解する見解がある(神山敏雄「先物取引をめぐる刑事責任」判例タイムズ701号131頁〔『経済犯罪の研究』第1巻104頁〕)。
この点に関して本決定の判文をみると、顧客に損失等を与え、その損失に見合う利益を同和商品に帰属させる意図を有するのに、同和商品が顧客の利益のために受託業務を行う商品取引員であるかのように装って、委託方を勧誘した点に欺罔性を認めており、作為であって、不作為による欺罔の事案とは理解していないと思われる。
 第2に、「基本的には、相場の動きによって顧客に確実に損害を与えることは不可能であるとの考え方によるべきである」として、業者が客殺しの手口を用いて損失を被らせようとする意図を秘して顧客に委託証拠金等の名目で金員等を交付させる行為自体について詐欺罪の成立を認めることは困難と解される」とする見解がある(郷原信郎「証券取引、商品取引と詐欺罪」『刑事実務大系8財産的刑法犯』407頁)。
右の見解の主張するところには明確でない点もあるように思われるが、本件のような類型において、詐欺罪の犯意の認定が重要なポイントとなることは否定できない。
すなわち、前述したとおり、本件は、被告人らにおいて商品取引所における顧客の取引を仲介する意思は認められる事案であったから、このような場合には、商取引上許される勧誘、受託の結果として客が損失を被ったのにすぎない事案(これは詐欺にはならない)と明確に区別されなければならず、そのためには、主観的要件の認定に当たって、営業の実態等をも踏まえた検討が必要となると思われる。
その意味からすると、本決定において、同和商品の営業に関する具体的事情として、(1)顧客の委託を受けて行う先物取引に関して、顧客にことさら損害等を与えるための各種の方策(いわゆる「客殺し商法」)を採ることと、(2)顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる手段として、会社自身が顧客の取引に対当する売買(いわゆる「向かい玉」)をすることを営業方針にしていたことが挙げられている点が注目されるのであって、本決定は、右(1)、(2)の方策が採用されていたことが、被告人らの犯意を認定するための重要な客観的事情を構成することを明らかにしているといえよう。
ただし、「客殺し商法」といっても、その定義が示されたわけではなく、原判決の用語法が便宜的に踏襲されたのにすぎないことは明らかであって、本決定はあくまでも事例判例と理解するのが相当であろう。
 三 本件と同様に、商品先物市場を舞台にしていわゆる「客殺し商法」及び「向かい玉」の営業方針の下に顧客を勧誘し委託証拠金の交付を受けたことが詐欺罪に当たるかが争われた事例としては、「マルキ商事」事件があるが(前記神山論文参照)、右事件は、最高裁における職権判断を経ることなく有罪が確定したため、本決定は、この種事犯における最初の最高裁判例として、実務上重要な意義を有すると思われる。
 先物取引全般については、判例タイムズ701号「特集・先物取引法の展開と課題」と題して、各種の論文や文献紹介等を掲載しているので、参照されたい。
J&R59号95頁にも文献等の一覧がある。
先物取引と詐欺罪の関係を論じた最近の論稿としては、片岡聡「商品取引の勧誘と犯罪」捜査研究456号10頁、長井圓『消費者取引と刑事規制』8頁等がある。