Blog201402、割賦販売法 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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Blog201402、割賦販売法


割賦販売法に関する最高裁判例


最高裁 昭和49年7月18日 第三者異議事件
民集28巻5号743頁、判例タイムズ312号207頁

【判示事項】 動産の割賦払約款付売買契約において代金完済に至るまで所有権を留保した売主又は右売主から目的物を買い受けた者と第三者異議の訴え

【判決要旨】 代金完済に至るまで目的物の所有権を売主に留保し買主に対する所有権の移転は代金完済を停止条件とする旨の合意がされている動産の割賦払約款付売買契約において、代金完済に至るまでの間に買主の債権者が目的物に対し強制執行したときは、売主又は売主から目的物を買い受けた第三者は、目的物の所有権を主張し、第三者異議の訴えによって、右執行を排除することができる。

【参照条文】 民法555条 、旧民事訴訟法549条1項

 割賦販売契約においては、売主は、代金債権の支払を確保し、あるいは買主の代金不払その他の事由によって契約が解除されたときの損害金を担保するために代金完済に至るまで目的物の所有権を留保し、その間使用貸借により買主に目的物の使用を許すことが一般に行われる(なお割賦販売法の指定商品については、同法7条により売主に所有権が留保されたものと推定されている。)。
所有権留保の法律的性質については、それが停止条件付所有権留保であり、代金の完済によって条件が成就し、目的物の所有権が買主に移転するのであって、それまでは、所有権は売主に帰属し、買主は目的物の利用権と条件成就によって所有権を取得しうる期待権とを有するにすぎないと説明されてきた。
このような伝統的な理解(所有権的構成)からは、目的物が買主の占有下にあっても買主の債権者はこれに対して強制執行をすることができないのは当然であって、売主は契約の解除を要することなく、右執行に対し、所有権を主張して第三者異議の訴えによりその排除を求めることができる。
これに対し、担保的構成説、すなわち、所有権留保が売主の代金債権担保のためのものであることを直視し、売主が留保した権利を担保目的の範囲に限定しようとする説がある。すなわち、譲渡担保の場合と同じく、当事者の用いている法形式を離れ、残存代金を被担保債権とする担保権としての留保所有権が売主に残っており、所有権よりこの部分を差し引いた物権的地位が買主に帰属するとみるのであって、換言すれば、いったん所有権は買主に移転し、買主が再び売主のために譲渡担保権を設定したと同じ法律関係があるとするのである(幾代通「割賦販売」『契約法大系II』294頁、高木多喜男『新版担保物権法』612頁以下)。この立場からは、売主は第三者異議の訴えにより執行の全面的排除を求めることはできないとされる。
また、売買契約の解除は担保権実行の手段にすぎないとされ、解除の効果の発生により売主は担保の実行として買主に目的物の引渡を請求することができるが、清算するまでは(その時期をいつとみるかは問題である。)完全な所有権を取得することができないとされるのであるから、解除をすれば第三者異議の訴えにより強制執行の排除を求めることができるとはいえない。
なお、買主の債権者による差押が解除に先立ってされた場合についても、売主が解除をし、また清算をして第三者異議の訴えを提起することができるかは問題である。
 本件の原告(被上告人)は、売主から解除後に目的物の処分を受けた者からさらに譲渡を受けた者である。
売主が解除後に目的物を第三者に処分した場合には、これを清算のための処分とみて、第三者は完全な所有権を取得し、あとは対抗要件たる引渡の有無によって差押との優劣を決すべきものと解する余地がある。
売主が差押のされる前に解除をしたときは、目的物を処分して担保権の実行をする権利を有するとしてよいであろうから、第三者の善意・悪意を問う必要はあるまい。
したがって、担保権的構成をとる説に立っても、上告を棄却することが可能であったと思われる。
しかしながら、本判決は、その説示するところから明らかなように、所有権留保についての伝統的な見解に立脚して、被上告人の第三者異議を認容すべきとした。


最高裁判決昭和51年11月4日 請求異議事件
民集30巻10号915頁

【判示事項】 割賦販売法2条のローン提携販売において買主の債権を売主が代位弁済して取得した求償債権について同法6条が類推適用される場合

【判決要旨】 割賦販売法2条のローン提携販売において、買主が代金支払のための売主の保証のもとに金融機関から割賦払の約で借り受けた金員を代位弁済した売主に対する求償債務の支払を遅滞し、売主が留保所有権を行使して商品を取り戻した場合において、買主が右求償債務を一時に支払うべきときは、右求償債務に対する遅延損害金について同法6条が類推適用される。

【参照条文】 割賦販売法2条、割賦販売法6条、割賦販売法29条の4

 割賦販売法6条は、遅延損害金の利率を年6%に制限している。
 本件の事案は、要するに、XがY(自動車販売会社)から買い受けた自動車代金を銀行から借り受け、割賦払していたが、その支払を遅滞し、これを保証人として代位弁済したYがXに対し取得した求償債権につき、XY間で更に割賦払の約がされたが、Xはこれも履行しなかったので、Yが右求償債権担保のための留保所有権を行使して自動車を取り戻し、求償債権残額につきXに一時に支払いを求めた、というのである。
Yが一時に支払いを求めた求償金残額につき、割賦販売法6条の類推適用があるかどうかが争われ、原判決は消極に解したのであるが、本判決はこれを積極に解し、留保所有権行使時以降右求償金残額に付される遅延損害金の利率につき特約があっても、右規定にしたがい割賦販売法の法定利率6%に制限されるとしたのである。
 割賦販売法2条2項のローン提携販売において、商品の買主が銀行に対し負担する割賦払いによる借受金債務は、実質的に、通常の割賦販売契約における販売代金の賦払金債務と異ならず、かつ、ローン提携販売において、買主が銀行に対する借受金の支払を遅滞し、本件のように売主に対し負担した一時に支払うべき求償債務は、結局のところ、通常の割賦販売契約において、買主の賦払金債務の履行遅滞により販売契約が解除され、買主が売主に対し一時的に支払うべき義務を負った販売代金残額債務と同じであるとみられる点が、本判決の判断の根拠となっている。
 ただ、昭和47年の割賦販売法改正によりローン提携販売を規制の対象に取り込みながら、割賦販売法29条の4が割賦販売法6条をことさら準用していない点からみると、立法者の意思としては、本件のような問題に6条を類推することは予定していなかったようである。取引実務上も、類推はないものと考えていたのではないかと思われる。
 これに対し、学説には、6条の類推適用を主張していた(竹内『石井追悼論文集』299頁、来栖『契約法』194頁、原田『新割賦販売法の実務』72頁など)。
 本件は、事案がやや特殊なので、その事案にあらわれた場合限りの判断を示すにとどめているが、基本的には右学説にしたがったものといえる。
 その後、割賦販売法の改正により、本判決と同様に改正された。


最高裁昭和52年7月12日 損害金請求事件
最高裁判所裁判集民事121号91頁、 金融法務事情841号36頁

【判示事項】 新規自動車の売主は登録による自動車の減価相当額の損害を割賦販売法6条により請求できるか

【判決要旨】 自動車の割賦販売契約が自動車登録後ではあるが、引渡前に買主の割賦代金支払い義務の不履行により解除されたときは、同法6条1号の規定を類推適用すべきではなく、同条3号の規定を適用すべきであり、登録による自動車の減価相当額の損害は、同号所定の「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」にはあたらない。

【参照条文】 割賦販売法6条、民法420条

 X社は、Yに新規自動車を売り渡す契約をして登録手続を済ませたが、買主のYが割賦代金の支払を怠ったので、まだ自動車を引き渡す以前に売買契約を解除し、あらかじめなされていた約定に基づき、登録により自動車の市場価値が低落したために売主が被った損害額を含めて、損害賠償の請求をした。そして、右の損害は売主の義務の履行に伴い当然生ずる通常の損害であり、売主が買主の犠牲において収得する過当な利益ではないから、割賦販売法6条3号にいう「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」の拡張解釈または同条1号の類推解釈により買主に請求できると主張した。
 本判決は、X社の請求をしりぞけた原審の判断を正当とする。
 本件自動車の売買には割賦販売法が適用されるが、同法には消費者保護のために多くの規定を設けているが、買主の契約違反による賠償額の予定ないし違約金に関する規定もその一つである。すなわち、割賦販売法6条は、賠償額の予定ないし違約金を制限し、売主は買主に対して、(1)商品が返還された場合には、通常の使用料の額、ただし、割賦販売価格相当額から返還時の価額を控除した額が通常の使用料の額を超えるときはその額、(2)商品が返還されない場合には、割賦販売価格相当額、(3)商品が買主に引き渡される前に解除した場合には、契約の締結および履行のために通常要する費用の額のそれぞれに、法定利率による遅延損害金を加算した額を超える金額の支払を請求できないと定める。
 本件は、前記(3)によって損害賠償の請求をすべき場合に該当するが、福岡地裁昭和44年10月2日判決判例時報601号86頁は、同様の事案につき、「同条の趣旨は本件の新規自動車売買の如く、登録または届出が売主の義務の履行の不可欠の一部であり、かつ、これが履行された後買主の義務不履行による契約解除の結果、現実に売主において右履行に伴い通常生ずべき価格低落による減価額相当の損害を被っている様な場合にまで、その賠償請求の権利を売主から奪う趣旨とは解し難く」と判示しており、X社は、これを引用して、登録減価を負担するのは当然であると強く主張した。
これに対して、原審は、割賦販売法6条を、一般消費者保護のため民法の一般原則の適用を排斥し、もっぱら同条の規定によらしむべく、各号所定の金額を超える部分についての請求を無効とする趣旨のものと解するが、学説も同旨の見解をとるものがある(打田=稲村『割賦販売法』104頁)。


最高裁 昭和57年10月19日 リース料請求事件
金融法務事情1011号46頁

【判示事項】 ファイナンス・リース契約が公序良俗に違反せず、割賦販売法の脱法行為ではないと認められた事例

【判決要旨】 原審認定の事実関係のもとにおいては、本件のリース契約が公序良俗に違反しまたは割賦販売法による規制を免脱しようとする脱法行為として無効であるとは認められない。

【参照条文】 民法90条、割賦販売法6条

 本件は、リース会社が利用者の債務不履行を理由として、ファイナンス・リース契約を解除してリース物件を期間満了前に引き揚げて、未払リース料金の支払を求めた事件である。原審判決に対して、当事者双方から上告し、リース会社の上告に対するものが前掲の最高裁昭和55年(オ)第1061号事件の判決であり、利用者の上告に対するものが本判決である。
 上告人の利用者は、上告理由として次の三点をあげる。
 (1) 原審は、本件リース契約を有効と認めるが、ユーザーは、リース物件の所有権を永久に取得せず、リース会社はリース物件の修繕補正の義務を負わず、リース会社に不当な利得を保留される余地を残し、ユーザーに解除権を認めないことによって、過重な負担を負わせる可能性を残している。よって、リース契約の成否については、慎重な法的規制を行ない、ユーザーに苛酷な立場を強制しないような法解釈を行なう必要がある。
 (2) 仮に、本契約が成立したとしても、リース会社の利益は暴利行為ともいえるものであるから、本契約は、公序良俗違反として無効である。
 (3) 本契約は、割賦販売法六条の規制を免脱する脱法行為である。
 原審は、ユーザーの公序良俗違反の主張を、リース取引の実体を正解しないものとして斥けているが、本判決も、原審が認定した事実関係のもとにおいては、公序良俗違反等の事実は認められないとして、上告を棄却した。
 契約の一部には問題となる点があるとしても、本件のようなファイナンス・リース契約を、全部無効と解する者はおそらくいないであろう。


最高裁平成2年2月20日 立替金請求事件
最高裁判所裁判集民事159号151頁、判例タイムズ731号91頁

【判示事項】 割賦販売法30条の4第1項の新設前の個品割賦購入あっせんにおける売買契約上の抗弁とあっせん業者に対する対抗の可否

【判決要旨】 割賦販売法30条の4第1項の新設前の個品割賦購入あっせんにおいて、購入者とあっせん業者の加盟店である販売業者との売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合であっても、購入者とあっせん業者間の立替払契約においてかかる場合には購入者が右業者の履行請求を拒みうる旨の特別の合意があるとき又はあっせん業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど右不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、購入者は、右合意解除をもってあっせん業者の履行請求を拒むことはできない。

【参照条文】 民法1条2項、民法650条1項、割賦販売法2条3項、割賦販売法30条の4

 一、本件は、昭和59年の割賦販売法の一部改正が施行(昭和59年12月1日)される前の個品割賦購入あっせんにおいて、売買契約上の抗弁のあっせん業者に対する対抗が争われた事案である。
 個品割賦購入あっせんは、昭和59年の改正によって割賦販売法の規制対象に取り込まれたが、カードのような証票等を利用することなく、商品を購入する都度契約を取り交わして信用供与の妥当性が判断される取引である。
購入者があっせん業者(信販会社)の加盟店である販売業者から商品を購入する際に、あっせん業者が購入者との契約及び販売業者との加盟店契約に従い販売業者に対して代金相当額を一括立替払し、購入者があっせん業者に立替金及び手数料の分割払を約する類型(ショッピングローン)が典型的なものである。
別個の契約関係である購入者・あっせん業者間の立替払契約と購入者・販売業者間の売買契約を前提とするから、商品の引渡がなかったり、引き渡された商品に瑕疵がある場合には、購入者とすれば、法形式的には、販売業者に対する抗弁をもってあっせん業者に対する支払義務を争うことになる。
約款の多くは、購入者は商品の瑕疵故障については一切販売業者との間で処理することとし、購入者はこれを理由にあっせん業者に対する支払を拒まない旨のいわゆる抗弁切断条項が規定されていた。
しかし、他方において、契約の成立過程は販売業者を窓口として一本化され、あっせん業者と販売業者とは加盟店契約により緊密な資金供給関係ないし提携関係に立ち、あっせん業者は販売業者の信用度や営業状況等を把握し得る立場にあり、販売業者の倒産等による危険を購入者に負担させるのは衡平を欠くなど、実質的、経済的な観点からする購入者保護の要請があり、当事者の合理的な契約意思の解釈問題もある。
そこで、売買契約上の抗弁の対抗を認める見解が提唱され、抗弁切断条項の効力が争われ、購入者とあっせん業者との与信契約の法的性質論(代位弁済論、消費貸借説、準委任説、債権譲渡説、契約上の地位引受説等)とも関連して、多様な論議が展開された(特集・金融法務事情1041号、島田・判例タイムズ513号69頁、福永=千葉・判例タイムズ522号21頁のほか、最高裁事務総局編『消費者信用関係事件に関する執務資料(その2)』255頁に掲載の文献)。
こうした中で、両方の契約を法形式上は別個のものとしてとらえつつも、一定の索連関係を認める方向が有力となり、昭和55年の標準約款の改定によって、商品の瑕疵又は引渡の遅延が購入目的を達成することができない程度に重大であり、購入者がその状況を説明した書面をあっせん業者に提出し、右状況が客観的に見て相当な場合には、購入者は瑕疵故障等を理由にあっせん業者に対する支払を拒むことができる旨の限定的な接続規定が設けられ(中島・NBL214号20頁、片岡=平野・NBL278号6頁)、次いで、昭和59年に割賦販売法の一部改正により、一定の要件の下に購入者があっせん業者に対し売買契約上の事由をもって割賦金の支払を拒絶できる旨の抗弁権の接続規定(30条の4)が新設されるに至った。
 二、本件の事実関係は、判文に要約されているが、昭和57年8月の締結に係る個品割賦購入あっせんであるから、改正後の30条の4第1項の規定の適用はない(改正法附則6項)。
Y1があっせん業者Xの加盟店たる販売業者Aから呉服一式を購入し、その代金をXがAに一括立替払した後、XがY1及びその連帯保証人Y2に対し、立替金及び取扱手数料の残額の支払を求め、YらはAとの売買契約の合意解約を主張して支払義務を争った。
原審は、右合意解除がAの商品引渡債務の不履行を原因としてされたと認定したが、代金債務は遡及的に消滅しており、AがXの加盟店として契約の締結の衝に当たり、合意解除の当時も加盟店であって、Y1との間で右合意解除に伴う諸問題を責任をもって処理する旨約していたから、Xの本件履行請求は信義則に反し許されないとして、Xの請求を棄却した。
Xからの上告に対し、本判決は、論旨を容れ、判示のとおり原判決を破棄差戻した。
なお、本件は、割賦販売法30条の4第1項新設前の改定標準約款による契約であるが、右約款に基づく具体的な主張・立証はされていない。
 割賦販売法改正前の事案における裁判例は分かれていた。
 抗弁権の接続を肯定する裁判例としては、
・両契約の密接不可分性、信義則、当事者の合理的契約意思などを根拠とするもの、
・商品引渡に対するあっせん業者の保証を根拠とするもの、
・あっせん業者の履行請求権の発生を商品引渡の条件になっていることを根拠とするもの、
。」販売業者の黙示的代理権を根拠とするもの、
などがある。
本件の原判決は、最初の類型の系譜上にある。
 これに対し、抗弁権の切断をいう裁判例としては、
・両契約の法的別個性を根拠とするもの、
・法的別個論を前提にした上で抗弁の接続を認めるべき一定の場合を留保するもの、
などがあるが、未公刊の裁判例には、このように抗弁権の接続を否定し、抗弁権接続特約を有効とするものが多いといわれていた(島田・前掲74頁)。
 三、ところで、割賦販売法の新設規定が創設的規定であるか否かについては、従前の理論状況を反映して見解の対立がある。
抗弁権の接続をいう論者は、本来購入者に帰属する権利を確認した規定であるとする説もある(確認的規定説。千葉『民商創刊50周年記念論集II』305頁)。
しかし、一般には、消費者保護という社会的要請から、債権関係を相対的に定める私法上の原則の特則として新設されたものであると解されており(創設的規定説。田中・金融法務事情1083号20頁、佐藤=小池・判例タイムズ549号13頁、清水『現代契約法大系4』277頁、今村ほか編『注解経済法〔下巻〕』1033頁〔高瀬〕)、本判決も、この趣旨を明言する。
本件では、売買契約の合意解除が認定されているが、これがあっせん業者に対する抗弁事由たりうるかという論点がある。
購入者が作出した一方的事由に基づくものは信義に反するとして、割賦販売法30条の4にいう抗弁事由に当たらないと解されている (最高裁事務総局編『信販関係事件に関する執務資料』74頁、昭59・11・26付通産省産業政策局長通達5(1)イ、通産省産業政策局編『最新割賦販売法の解説』193頁)。
購入者と販売業者との間の売買契約の合意解除は、本来、あっせん業者による立替払の実行後に生じた事由であり、あっせん業者にとっては通常は不測の行為に属するため、原則として抗弁事由たりえないが、例外的に、法定解除の要件が存在し販売業者もこれを認めて購入者との間で合意解除をしたような場合には、購入者が作出した一方的事由に基づくものとはいえず、抗弁事由に該当すると解するのが一般的である(田中・前掲21頁、最高裁事務総局編・前掲(その2)104頁))。
 四、以上のとおり、本判決は、かねてより争いのあった抗弁の対抗の問題について、最高裁として初めての明示的な判断を示したものである。
新設規定の下においても、非指定商品や役務取引等については、従来の解釈に委ねられており(佐藤=小池・前掲12頁、竹内編著『改正割賦販売法』158頁〔濱崎発言〕、今村ほか編・前掲1028頁)、本判決の判示するところが参考になる。


最高裁判決平成13年11月22日 求償金請求事件
最高裁判所裁判集民事203号541頁、金融・商事判例1130号6頁

【判示事項】 いわゆる預託金会員制ゴルフクラブに入会するために支払うべき預託金についてされたクレジット契約においてゴルフ場の開場遅延が同契約に規定する分割払金の支払拒絶の事由に該当しないとされた事例

【判決要旨】 預託全会員制ゴルフクラブに入会するために支払うべき預託金について申込者とクレジット会社との間で締結されたクレジット契約につき、申込者が未開場のゴルフクラブであることを認識した上で、ゴルフクラブに入会することを企図して、同契約を締結したなど判示の事実関係の下においては、ゴルフ場の開場遅延は、同契約に規定する「その他商品の販売について、販売会社に生じている事由があること」に該当しない。

【参照条文】 民法91条、 民法第3編第2章契約

1 本件は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員権を取得するためゴルフクラブ経営会社に支払うべき預託金等について、ゴルフ会員権クレジット契約に基づいて保証債務を履行したクレジット会社が、その取得者に対して、約定の分割金の支払いを請求した事案であり、ゴルフ場の開場遅延が本件クレジット契約に規定する支払停止事由に該当するかどうかが争われた事案である。
2 事実関係は次のとおりである。
 (1) ゴルフ場経営会社Aは、預託金会員制ゴルフクラブである本件ゴルフクラブを運営することを計画し、平成元年11月ころから会員の募集を始め、平成2年3月6日に起工式を行い建設に着手した。Aが会員募集に際して作成したパンフレットには、本件ゴルフ場の完成予定は平成4年度である旨の記載があった。
 (2) Yは、Aから本件ゴルフクラブに正会員として入会して会員権を取得するに当たり、平成元年12月、信販会社であるXとの間でゴルフ会員権クレジット契約を締結した。本件クレジット契約の契約書は、Xが作成した定型のゴルフ会員権クレジット契約書であり、裏面には「購入者は、下記の事由が存するときは、その事由が解消されるまでの間、当該事由の存する商品について、支払を停止することができるものとします。(1)商品の引渡しがなされないこと、(2)商品に破損、汚損、故障その他の瑕疵があること、(3)その他商品の販売について、販売会社に生じている事由があること」との契約条項が記載されている。
(3) Xは、平成元年12月、本件クレジット契約に基づき、Yの保証人としてAに対し、預託金等のうちから1300万円を代位弁済し、YとAの間で、遅くとも平成2年3月ころまでに、本件ゴルフクラブへの入会契約が成立した。
(4) 平成6年12月にはAに対して会社更生手続開始決定がされるに至った。本件ゴルフ場の建設工事は、平成4年3月の荒造成段階で中止されており、控訴審口頭弁論終結時においても工事は再開しておらず、完成のめども立っていない。
 Xは、Yが平成4年9月以降の分割払金を支払わず期限の利益を喪失したとして、未払分割払金および約定遅延損害金の支払いを求めた。これに対し、Yは、本件ゴルフクラブのゴルフ場の未開場が、本件クレジット契約に定められた支払拒絶事由に当たるなどと主張した。
3 第1審は、Yの主張を斥け、Xの請求を全部認容したが、控訴審(判時1640号127頁)は、本件ゴルフクラブのゴルフ場の未開場は、「商品の販売について、販売会社に対して生じた事由があること」に該当すると解するのが相当であるとして、Xの請求を全部棄却した。逆転敗訴したXから上告。
 本判決の法廷意見は、本件の事実関係の下における本件クレジット契約の解釈として、「その他商品の販売について、販売会社に生じている事由があること」と規定された支払拒絶の事由は、仮にゴルフ場経営会社が申込者に預託金等の支払いを請求してきたとすれば、当該ゴルフ場経営会社に対し預託金等の支払いを拒むことができる事由に限定されるのであって、申込者が当該ゴルフ場経営会社に預託金等を支払って入会した後に当該ゴルフ場経営会社に生じた債務不履行は支払拒絶の事由とならないと解すべきであり、Yは、未開場のゴルフ場であることを認識した上で、本件ゴルフクラブに入会することを企図して、本件クレジット契約を締結し、本件ゴルフ会員権を取得したものであって、本件ゴルフ場が未開場であることは、YがAに対して預託金等の支払いを拒むことができる事情とはいえないと判示し、Xの本訴請求を棄却した控訴審の判断には、契約の解釈適用の誤りがあるとして、控訴審判決を破棄して、Yの控訴を棄却する旨の自判をした。
4 本件の法律関係は、割賦販売法2条3項で定義されている割賦購入あっせんに類似するが、本件クレジット契約が締結された当時、ゴルフ会員権は同法の適用を受ける指定商品ではなく、抗弁の接続を認めた法割賦販売30条の4の適用の余地はない。
 最高裁判決平成2年2月20日・裁判集民事159号151頁は、「割賦購入あっせんは、法的には、別個の契約関係である購入者・あっせん業者間の立替払契約と購入者・販売業者間の売買契約を前提とするものであるから、両契約が経済的、実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても、購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはでき」ず、割賦販売法30条の4第1項の規定が適用されない以上、(1)「購入者とあっせん業者との間の立替払契約において、購入者が業者の履行請求を拒み得る旨の特別の合意があるとき」、または(2)「あっせん業者において販売業者の不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるとき」でない限り、購入者が売買契約上生じている事情をもってあっせん業者の履行請求を拒むことはできない」と判示しており、この判例の考え方は、本件にも該当すると考えられる。本判決は、前記平成2年判例を前提として、同判例の示した(1)の「特別の合意」といえる本件クレジット契約の契約書に記載された支払拒絶条項の解釈を判示したものである。なお、本件において、前記(2)のような「特段の事情」はなんら認められない。。
5 Xと顧客との間で本件と同様の紛争が多数提起され(裁判例の紹介については、山本豊「預託金会員制ゴルフクラブにおける会員権ローンと未開場の抗弁(上)(下)」銀法21・568号16頁、569号41頁に詳しい)、多数の下級審裁判例が存するが、本件の控訴審のように本件ゴルフクラブのゴルフ場の未開場が「商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること」に該当すると判断し、顧客の支払拒絶を認めたものは少数にとどまり、多くの下級審裁判例(東京高判平成10・11・19金融・商事判例1664号28頁、東京高判平成11・6・1金融・商事判例1070号3頁、東京高判平成12.2.28判時1716号68頁など)は、理論構成には異なるところがあるものの、結論としては、顧客の支払拒絶を認めていない。
本件クレジット契約の契約書に記載された支払拒絶条項の文言は、昭和59年11月26日付け通商産業省産業政策局消費経済課長通達「昭和59年改正割賦販売法に基づく標準約款及びモデル書面について」に添付された「個品割賦購入あっせん標準約款」11条(1)と同様である。この標準約款は、当時の割賦販売法が商品の売買契約のみを対象としていたことを前提として作られたものであり、本件で用いられた契約書は、顧客がゴルフ会員権販売会社から市場に流通しているゴルフ会員権を購入する場合に用いられることが予定されていたようであるが、Xがこの契約書を顧客がゴルフ場経営会社との間で預託金会員制ゴルフクラブへの入会契約に用いたという点が本件の特殊性であり、このような契約条項が本来予定した契約類型と現実に適用された契約類型が異なったことが、本件クレジット契約の支払拒絶条項に種々の解釈を生じさせた原因であるように考えられる。
 前述のように、本判決は、契約書の文言や本件クレジット契約の締結された当時の法規制の状況等といった本件の事実関係の下において、当事者の合理的意思を追究することで本件クレジット契約の支払拒絶条項の解釈を示したものであり、決して、割賦販売法30条の4第1項の解釈を判示したものでないことには注意を要する。
6 平成5年5月に施行された「ゴルフ場等の会員契約の適正化に関する法律」によりゴルフ場未開場時における入会契約の締結が原則として禁止されており、今後、本判決と同種の紛争が生じる可能性は少ない。本判決は本件クレジット契約の支払拒絶事由の解釈を示した事例判断にすぎず、その射程も狭いものであるが、下級審裁判例において結論や理論構成の分かれていた点について最高裁として初の判断を示したものとして意義を有し、実務の参考になると思われる。
なお、本判決後に言い渡された東京地判平成15・1・27金融・商事判例1164号6頁は、顧客が信販会社からの借入金により未開場の預託金会員制ゴルフクラブのゴルフ会員権を購入したが、ゴルフ場の開場が不可能となったためゴルフクラブ入会契約を解除し得る状況にあり、信販会社において、ゴルフ場の開場ができず、入会契約が債務不履行に至ることを予見し、または予見し得べきであったにもかかわらず、顧客との間で消費貸借契約を締結したと認められるという事実関係の下で、顧客がゴルフクラブに対して主張できる解除の抗弁の効果を、信販会社に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事由がある旨判示して、顧客の信販会社に対する借入金残金の支払義務を否定した。この裁判例は、顧客と信販会社の関係が消費貸借である事案において、本判決が前提としている割賦購入あっせんについての前記平成2年判例が示した「あっせん業者において販売業者の不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるとき」には抗弁接続を認める法理を当てはめたものと理解できる。


最高裁平成23年10月25日 債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
民集65巻7号3114頁、判例タイムズ1360号88頁

【判示事項】 個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となるか

【判決要旨】 個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容および程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無および程度等に照らし、販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ、売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はない。

【参照条文】 民法1条2項、民法90条
       割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)2条3項
       割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)30条の4
       割賦販売法2条4項
       割賦販売法35条の3の19

 1 本件は,信販会社Yの加盟店Aとの間で,Aの女性販売員による思わせぶりな言動を交えた勧誘に応じて,指輪等の宝飾品をその本来の価値を大きく上回る代金額で購入する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,Yとの間で,その購入代金に係る立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結したXが,Yから事業譲渡を受けたZ(個品割賦購入あっせん事業の譲渡に伴い,本件立替払契約に係る一切の債権債務がZに承継されたことについては,当事者間に争いがない。)に対し,①Ⅰ)本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから,これと一体の関係にある本件立替払契約も無効である,Ⅱ)退去妨害による困惑又は不実告知による誤認の下に本件立替払契約の申込みをしたから,消費者契約法の規定(5条1項が準用する4条1項,3項2号)によりその意思表示を取り消したと主張して,不当利得に基づき,既払割賦金の返還を求めるとともに,②Yが加盟店の行為につき調査する義務を怠ったために,Aの行為による被害が発生したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,他方,Zが,Xに対し,本件立替払契約に基づく未払割賦金の支払を求める事案である(当初は,XがYを被告として訴訟を提起し,①,②の請求のほか,未払割賦金債務の不存在確認請求もしていたが,第1審において,Zが被告の債権債務を承継したとして承継参加の申出をするとともに,Zの側からもXに対する未払割賦金請求をし,Xは債務不存在確認請求を取り下げ,YはXの同意を得て訴訟から脱退した。)。
 2 第1審は,Xの主張を全て排斥して,既払割賦金返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し,Yの未払割賦金請求を認容したのに対し,原審は,①本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)30条の4第1項により,Xは未払割賦金の支払を拒むことができるとして,ZのXに対する未払割賦金請求を棄却し,②本件売買契約が無効であることにより本件立替払契約も目的を失って失効するとして,XのZに対する既払割賦金返還請求を認容し,③加盟店調査義務違反による不法行為の成立は否定して,既払割賦金を超える額(弁護士費用)の損害賠償請求は棄却したところ,Zのみが上告受理申立てをした。
 Zの論旨は,専らXのZに対する既払割賦金返還請求を認容した原審の判断の不当をいうものである。ZのXに対する未払割賦金請求を棄却した部分については理由書に記載がないため,この部分に関する上告は却下された。
 3 本件のように,信販会社と販売店との間で加盟店契約,販売店と購入者との間で売買契約,購入者と信販会社との間で立替払契約をそれぞれ締結して,購入者が販売店から商品を購入する際に,信販会社が販売店に対し商品代金相当額の一括立替払をし,購入者が信販会社に対し立替金に手数料を加えた額の分割払をする仕組みの取引(割賦販売法2条3項2号)は,「割賦購入あっせん」の一種であり,「個品割賦購入あっせん」と通称されている。
 割賦販売法30条の4第1項は,購入者が信販会社(割賦購入あっせん業者)から未払割賦金の支払の請求を受けたときは,販売店(割賦購入あっせん関係販売業者)に対する抗弁事由をもって対抗することができる旨規定しているが,この規定に基づき未払割賦金の支払を拒絶することができる場合に,さらに進んで,購入者の側から信販会社に対し,既払割賦金の返還を請求することができるかについては,明文の規定はない。
 割賦販売法30条の4第1項の規定の趣旨については,この規定が昭和59年の改正により新設されるまでの議論を反映して,これを確認的規定と解する説と,創設的規定であると解する説の対立があったが,最高裁判決平成2年2月20日・裁判集民159号151頁,判タ731号91頁は,同項の適用がない昭和59年改正前の個品割賦購入あっせんについて,販売店の債務不履行を原因として売買契約が合意解除された場合に,購入者がそのことを理由として信販会社からの未払割賦金の請求を拒むことができるかが争われた事案において,割賦販売法30条の4第1項の規定は,購入者保護の観点から抗弁の対抗を新たに認めた創設的規定であるとした上,昭和59年改正前においては,購入者は,売買契約の不履行の結果を信販会社に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約の合意解除をもって信販会社の未払割賦金請求を拒むことはできないとの判断を示している。
 購入者から信販会社に対する既払割賦金返還請求の可否については,これまで当審の判例はなかったが,下級審の裁判例は,既払割賦金返還請求を否定するものが一般的であり,これを肯定したものは,原審のほかには,ほぼ皆無の状況にあった。
これに対し,学説上は,消費者保護の観点から,何らかの形で既払割賦金の返還請求をも肯定しようとする見解が有力に主張されており,とりわけ,近時は,複数の契約が密接に関連する場合に1つの契約の無効が他の契約に伝播してその無効を生ずる場合があるという議論(いわゆる複合契約論)の中で,この問題が取り上げられることが多くなったが,無効の伝播が生ずる要件やその理論的根拠につき,一定の見解が確立しているとはいえない状況にあった。
 このような中で,原審が,本件売買契約が無効であることにより本件立替払契約も目的を失って失効するとして,XのZに対する既払割賦金返還請求を認容したことは,これまでに例のない判断として注目を浴びたが,原審が,YはAの社会的相当性を逸脱した販売行為を知り又は容易に知り得ながら漫然と与信を行っていたとはいえないと判示して不法行為責任を否定する一方で,売買契約と立替払契約の本来的な一体性を強調して売買契約の無効が立替払契約の無効をもたらすとの結論を導いていることについては,その方向性に賛同する立場の論者からも,理由付けが十分でないとの指摘がされていた(尾島茂樹・判評614号7頁等)。
 4 第三小法廷は,平成2年判決を引用した上,個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売店との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,①販売店と信販会社との関係,②販売店の立替払契約締結手続ヘの関与の内容及び程度,③販売店の公序良俗に反する行為についての信販会社の認識の有無及び程度等に照らし,販売店による公序良俗に反する行為の結果を信販会社に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である立替払契約が無効となる余地はないと判示した上,本件については,①AはYとの間に加盟店の一つであるという以上の密接な関係はないこと,②Yは,本件立替払契約の締結手続を全てA任せにはせず,Xの意思確認を自ら行っていること,③Yは,本件立替払契約の締結前にAの販売行為につき他の購入者から苦情の申出を受けたり公的機関から問題とされたことがなかったことなどに照らし,上記特段の事情があるということはできず,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより本件立替払契約が無効になると解すべきではないと判示し,消費者契約法の規定による取消し及び不法行為の主張についても理由がないと判断して,Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 これまでの議論の状況を踏まえると,本判決が本件の事実関係の下で購入者の信販会社に対する既払割賦金返還請求を棄却すべきものとしたこと自体には,特に目新しいところはないが,本判決が,信義則を根拠として,個品割賦購入あっせんにつき,売買契約が公序良俗に反し無効である場合にこれと一体的に立替払契約についてもその効力を否定すべき場合があり得るとの解釈を示すとともに,そのような場合に該当するか否かの判断に当たり考慮すべき事情を例示していることは,注目に値する。平成2年判決は,信義則に照らし実体法上の請求権の行使が許されない場合があり得ることを判示したものであるのに対し,本判決は,信義則を根拠として法律行為の効力の否定という実体法上の効果が導かれる場合があり得ることを判示したものであることからすると,本判決の意義は,平成2年判決が示した法理を単に踏襲するにとどまるものではないであろう。
 なお,平成20年の割賦販売法改正(平成21年12月1日施行)により,個品割賦購入あっせん(新法2条4項の個別信用購入あっせん)について,一定の要件の下に,購入者が信販会社に対し既払割賦金の返還を求めることができることが明文で規定されたが(新法35条の3の13第4項等),この改正により立法的解決が図られた範囲は限定的である。
または,現在進行中の民法債権法改正の検討作業においては,「複数の法律行為の無効」等の論点に関する議論の中で,割賦購入あっせんにおける売買契約の無効が立替払契約の無効をもたらすかという問題についても適用場面の一つとなり得ることを念頭に置いて議論が進められている模様である。
 5 本件は,結論としては購入者の信販会社に対する既払割賦金返還請求が否定された事案であり,具体的にどのような場合にこれが認められるかについては,今後の事例の集積をまつ必要があるが,本判決は,理論的にも,実務的にも,重要な意義を有する。