米国特許判例紹介:均等論と禁反言の法理(第1回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:均等論と禁反言の法理(第1回)

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米国特許判例紹介:均等論と禁反言の法理(第1回) 
〜従属クレームを独立クレームに書き換えた際の均等論の適用〜

   Honeywell International Inc., et al.
      Plaintiffs- Appellants,
          v.
   Hamilton Sundstrand Corp.,
      Defendant-Appellee.

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年7月1日


1.概要
 第1回控訴審においては、審査の過程において従属請求項を独立請求項に書き換えただけで、禁反言が推定されると判示された。

 禁反言が推定された場合、原則として均等論は主張できない。しかしながら、Festo最高裁判決においては、権利者が、以下の3つの反駁要件のいずれかを立証することで、禁反言の推定を反駁でき、柔軟に均等論を主張することができると判示された。特許性に関する補正が行われた場合に均等論の主張を一切認めないコンプリートバー(complete bar)から、柔軟な均等論の主張を認めるフレキシブルバー(flexible bar)へと均等のルールが大きく変更された。

反駁第1要件
均等物が補正時に予測不可能であること
反駁第2要件
減縮補正の根本的理由が、均等物に対してほとんど関係がないこと
反駁第3要件
均等物を記載できなかった合理的理由があること

 差し戻し審において原告は第1要件及び第2要件に基づく反駁を試みたが、いずれも認められなかった。第2回控訴審においてもCAFCは地裁の判断を支持し、禁反言の推定を覆すことはできないと判示した。

2.背景
 Honeywell(以下、原告)はU.S. Patent No. 4,380,893(以下、893特許)及びNo. 4,428,194(194特許)を所有している。これらの特許は、飛行機の補助パワーユニット内の気流のサージ(急上昇)を制御するための技術に関する。図1は補助パワーユニット10の構成図である。この補助パワーユニット10は内部に圧縮器18,20,22を備える。圧縮器18,20,22はエンジンを始動、または、飛行中において機器14を制御すべく圧縮空気を供給する。


図1 補助パワーユニットの構成図

 空気流量が低下した場合、飛行中における気流のサージにより補助パワーユニット10が破壊される虞がある。原告はサージ問題を解決するために最低流量となる設定点を変更できるようにした。具体的には補助パワーユニット10の外気44の取り込み口にすだれに似た入口案内翼(IGV: Inlet Guide Vanes)46を設け、この翼の開閉量(位置)を制御し、設定点を変更する。

 出願時の独立クレームは構成要件にIGVを含んでおらず、当該独立クレームに従属する従属クレームの構成要件にIGVが含まれていた。審査官は、独立クレームは先行技術からみて自明であるが、従属クレームを独立クレーム形式に書き換えれば、特許を付与すると通知した。原告はこの通知に従い、従属クレームを独立クレーム形式へ書き換え893特許(装置特許)及び194特許(方法特許)を成立させた。
追加した構成要件は以下のとおりである(893特許のクレーム8)。
(a)調整可能なIGVを有する圧縮器;
(f)予め定められたリセットスケジュールに従って、前記IGVの位置機能として前記設定点を変更すべく前記比較手段へリセット信号を送信する手段;

 原告は1997年5月17日被告に対して侵害訴訟を提起した。原告は文言上の侵害とはならないが、被告のAPS3200が、893特許のクレーム8及び19、並びに、194特許のクレーム4を均等論上侵害していると主張した。被告のAPS3200は、補助パワーユニット内が高流量か低流量かを検出するためにIGVの開閉位置機能を利用しており、これが均等といえるか否かが問題となった。


図2 補正の経過と被告製品

 図2は補正の経過と被告製品との関係を示す説明図である。被告は、「IGVに関し均等か否かが問題となっているが、原告は審査の段階でIGVに関し補正を行っており、禁反言が推定され、IGVに関する均等論の主張は一切認められない」と反論した。

 第1回控訴審においては、原告は審査段階においてIGVを含む従属クレームを独立クレーム形式へ書き換えたことから、禁反言が推定されると判示された。

 原告は差し戻し審において、被告の均等物は補正時に予測不可能であったこと(反駁第1要件)、及び、補正を行った理由は均等物とはほとんど関係がないこと(反駁第2要件)の主張を試みた。地裁は原告の反駁を認めず、均等論の主張を否定した。原告はこれを不服として控訴した。 (第2回に続く)
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