中国商標判例紹介:中国における商標の識別性判断(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:特許・商標・著作権

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

中国商標判例紹介:中国における商標の識別性判断(第1回)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 特許・商標・著作権
  3. 特許・商標・著作権全般

中国商標判例紹介:中国における商標の識別性判断

~使用による識別力の立証~

河野特許事務所 2013年8月30日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

ベストバイサービス公司

                           再審請求人(一審原告、二審上訴人)

v.

中華人民共和国国家工商行政管理総局商標評審委員会

                           再審被請求人(一審被告、二審被上訴人)

 

 

 

1.概要

 識別力の低い標章は、商標の本質的機能である出所標示機能を果たすことができないことから、中国商標法第11条第1項の規定により登録を受けることができない。

 

 中国商標法第11条第1項

以下に掲げる標章は、商標として登録することができない。

(一)その商品に単に一般的に用いられる名称、図形、記号

(二)単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直

接表示したにすぎないもの

(三)顕著な特徴に欠けるもの

 

 ただし、使用により顕著な識別力が生じた場合、例外として商標登録を受けることができる(中国商標法第11条第2項)。

 

 中国商標法第11条第2項

 前項に掲げる標章が、使用により顕著な特徴を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。

 

 良いネーミングでありながら、識別力が無いとして拒絶されるケースは実務上多い。このような商標こそ使用による識別力を立証し、権利化を図ることが望まれる。

 

 使用に伴う識別力の立証には、数多くの証拠を提出することが必要となる。本事件では本来的に識別力の低い商標について、第1審の途中で商標の使用に関する証拠が大量に提出された。中級人民法院及び高級人民法院は評審委員会で取り上げなかったこれらの証拠を採用せず、識別力が無いとして拒絶を維持する判決をなした[1]。逆に最高裁はこれらの証拠を採用し、識別力を有するとして、評審委員会、中級人民法院及び高級人民法院の判決を取り消した[2]。

 

 

2.背景

(1)出願商標の内容

  2004年2月12日ベストバイ公司(以下、原告)は商標局へ第35類BEST BUYと称する商標登録出願を行った。出願番号は第3909917号である。出願商標は「BEST」及び「BUY」の文字、さらに、枠図形が描かれその中に上述した2つの単語が上下2列に配列されており、四角枠図形の背景色は黄色である(参考図1参照)。

 

参考図1 出願商標

 

(2)商標局及び評審委員会での判断

 2006年2月28日、商標局は、出願商標は指定役務において、直接サービスの品質及び特徴を表示するものにすぎないとして、出願を拒絶した。原告は、これを不服として2006年3月17日、評審委員会に復審を申請した。

 

 原告は、出願商標は意匠、文字構成及び含意等の各方面において共に比較的強い独創性を有し、商標登録の顕著性要件を具備していると主張した。また出願商標は長期の継続使用により既に、登録のための顕著性を獲得していると主張した。

 

 同年6月16日、原告は、顕著性を立証すべく、米国サンフランシスコ及びカリフォルニアにおける店舗の状況、及び、その他の国家にて商標登録されていることを示す証拠、ホームページ上で出願商標を用いて宣伝していることを示す証拠等を提出した。

 

 しかしながら、評審委員会は、2008年5月28日原告の主張を認めず拒絶を維持する決定をなした[3]。当該決定では出願商標中「BEST」の含意は「最高の、最も優秀な、最も有利」であり、「BUY」の含意は「買う、売買、取引等」である。「BEST BUY」は、「最も良い取引または最も良い売買」と翻訳することができ、指定役務においては、直接的にサービスの品質及び特徴を表示するに過ぎず、かつ、商標として有すべき顕著特徴を欠くというものである。評審委員会は商標法第11条第1項(二)、(三)及び、第28条[4]の規定に基づき、出願商標を拒絶した。原告はこれを不服として北京市第一中級人民法院に上訴した。

 

(3)中級人民法院及び高級人民法院の判断

 原告は、中級人民法院に、中国大陸で出願商標を使用して実際に商業活動に従事していることを示す雑誌報道等の75の証拠を提出した。北京市第一中級人民法院は、これらの証拠は共に、訴訟中に新たに提出された新証拠であり、かつ、新証拠を提出するための正当な理由が存在しないため、採用しなかった。結局、中級人民法院及び高級人民法院ともに、出願商標は識別力が無いとして評審委員会の決定を維持する判決をなした。原告はこれを不服として最高人民法院に再審請求を行った。

 

 

3.最高人民法院での争点

争点 一審過程で提出した証拠に基づき、出願商標が顕著な識別力を有すると言えるか

 原告は、一審過程において評審委員会の審理時には提出していなかった様々な商標の使用に関する証拠を提出した。識別力の立証には証拠が決め手となる。このような証拠を提出して後の行政訴訟で識別力の有無を争うことができるか、また出願商標が識別力を有するか否かが争点となった。



[1] 北京市第一中級人民法院2010年1月6日判決 (2009)一中行初字第388号

 北京市高級人民法院2010年11月23日判決 (2011)高行終字第861号

[2] 最高人民法院2011年10月28日判決 (2011)行提字第9号 

 

[3] [2008]第05222号決定

[4]中国商標法第28条 登録出願にかかる商標が、この法律の関係規定を満たさない、又は他人の同一の商品又は類似の商品について既に登録され又は初歩審定を受けた商標と同一又は類似するときは、商標局は出願を拒絶し公告しない。

 

(第2回へ続く)

 

中国特許に関するご相談は河野特許事務所まで

 

 

 

このコラムに類似したコラム