中国特許判例紹介:中国における現有技術の抗弁(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:特許・商標・著作権

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

中国特許判例紹介:中国における現有技術の抗弁(第1回)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 特許・商標・著作権
  3. 特許・商標・著作権全般

中国特許判例紹介:中国における現有技術の抗弁(第1回)

~現有技術抗弁と特許請求の範囲との関係~

河野特許事務所 2013年8月20日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

            塩城沢田機械有限公司

                   再審請求人(一審原告、二審上訴人)

                    v.

           塩城市格瑞特機械有限公司

                             再審被請求人(一審被告、二審被上訴人)

 

1.概要

 中国における特許権侵害訴訟においては人民法院において特許無効の抗弁を行うことができない。特許無効を主張する場合には、知識産権局特許復審委員会に別途無効宣告請求を行う必要がある(専利法第45条)。このように無効の抗弁を行うことはできないが、訴訟中に現有技術(自由技術)の抗弁を行うことができる。現有技術の抗弁については専利法第62条に規定されている。

 

第62条

 特許権侵害紛争において、侵害被疑者が、その実施した技術又は外観設計が現有技術又は現有設計であることを証明できる場合、特許権侵害に該当しない。

 

 すなわちイ号製品が現有技術[1]である場合に、権利侵害を認めるのは酷であることから、特許権侵害は成立しないとする趣旨である。

 

 本事件ではイ号製品は請求項に係る発明と同一であり技術的範囲に属するものの、イ号製品と現有技術とは機構が一部相違していた。このような場合に現有技術の抗弁が成立するか否かが争点となった。

 

 最高人民法院は現有技術の抗弁は現有技術とイ号製品とを対比すべきものであるが、その際には特許請求項の関連する部分を参酌して判断すべきと判示し、最終的に被告の現有技術の抗弁を認めた[2]。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 塩城沢田機械有限公司(原告)は液圧ロッカーアーム裁断機直連式液圧制御装置と称する実用新型特許権を所有している。特許番号は第200420109343.3号(以下343特許という)である。

 

 請求項1の内争点となったのは以下の構成要件である。なお符合は筆者において付した。参考図1は343特許の代表図である。

「電磁バルブ5の出口は、直接ロッドを有するピストン9の外端に対し相連接しており,電磁バルブ5はオイルポンプ1との間を、四角状フランジ2を通じて連接管4に連接されており,四角状フランジ2の側面には、リリーフバルブ3が接続されている」

参考図1 343特許の代表図

(2)訴訟の経緯

 原告は、塩城市格瑞特機械有限公司(被告)が販売する製品(以下、イ号製品という)が原告の343特許を侵害するとして、江蘇省中級人民法院に提訴した。被告は訴外第三者が、343特許の出願前に、既にイ号製品と実質的に同一のF45裁断機を販売していたことから、現有技術の抗弁を行った。

 なお、被告は同時に無効宣告請求を復審委員会に請求したが証拠不十分のため特許は有効と判断された。

 

 

3.最高人民法院での争点

争点:現有技術抗弁の判断はどのように行うべきか

 参考図2はF45裁断機、イ号製品及び特許発明の特徴を示す説明図である。請求項1に係る発明は特殊構造の電磁バルブを採用することにより、電磁バルブとロッドを有するピストンとを直接連接する点を特徴としている。すなわち、特許技術で使用している電磁バルブは特殊な電磁バルブであり,電磁バルブの内部構造及び出口に対し改良を加えており、連接管を設けることなく電磁バルブの出口とロッドを有するピストンとの外端を直接連接することができる。

 

 イ号製品も同様の電磁バルブの構成を採用し、電磁バルブとロッドを有するピストンとを直接連接している。このように、特許発明とイ号製品とは完全に同一であり、請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。

 

 一方、F45裁断機(以下、現有技術という)は特許発明及びイ号製品とは異なる構造を有する電磁バルブを採用している。現有技術の電磁バルブは依然として連接管を用いてピストンとの連接を行っている。このように現有技術とイ号製品とは電磁バルブの構造が相違する。

 

 このような場合に、現有技術の抗弁が成立するか否かが争点となった。

参考図2 F45裁断機、イ号製品及び特許発明の特徴を示す説明図

 

 


[1] 「現有技術」については専利法第22条第5項に「本法にいう現有技術とは、出願日前に国内外で公衆に知られている技術をいう。」と定義されている。すなわち、公知公用、刊行物公知に係る技術をいう。

[2] 最高人民法院2012年7月11日判決 (2012)民申字第18号

 

(第2回へ続く)

                  

 |  コラム一覧 | 

このコラムに類似したコラム

北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第1回) 河野 英仁 - 弁理士(2013/12/17 14:00)

早わかり中国特許:第43回 特許の権利範囲解釈 河野 英仁 - 弁理士(2014/12/09 11:00)

早わかり中国特許:第42回 特許の権利範囲解釈 河野 英仁 - 弁理士(2014/11/07 11:00)

早わかり中国特許:第41回 特許権評価報告制度 河野 英仁 - 弁理士(2014/10/14 11:00)