第8 物的担保の相続 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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第8 物的担保の相続

1 総論 

 代表者が個人保証の代わりに、あるいは、個人保証とともに、自身の個人資産を担保提供している場合があります。特に銀行取引においては、第三者が担保を提供する場合には、同時に連帯保証を求められることが多いようです。この場合、会社の債務につき連帯保証をした代表者が事業承継によって代表者の地位を退いたとしても、個人資産が担保に入っている状態のままです。

そこで、連帯保証と同じく、債権者である銀行に対して、担保提供を解除してくれるようお願いする必要があります。もっとも、銀行は代わりに、新代表者の個人資産を担保提供するよう求めてくるでしょう。

そこで、旧代表者は従前の担保を後継者のために継続して担保に供するか、または、旧代表者の担保提供を解除してもらう代わりに、新代表者の個人資産等に担保を設定することによって対処することになります。

2 物的担保と連帯保証

(1)遺産共有

 会社の債務につき連帯保証をし、かつ個人資産を担保に供している旧代表者が遺言をせずに死亡してしまった場合、担保に供されていた不動産は、相続人の共有状態となります(民法898条)。

(2)委託を受けた連帯保証の場合

旧代表者が委託を受けた連帯保証人であった場合、相続人から会社に対して、連帯保証人としての立場での事前求償権の行使(民法460条)が行われる可能性があります。

(3)物上保証の場合

物上保証人としての立場から主たる債務者(事業承継では会社)に対して事前求償権を行使されることはありません(最判平成2・12・18民集44巻9号1686頁)。なぜなら、抵当権については、民法372条の規定によって民法351条の規定が準用されるので、物上保証人が債務を弁済または抵当権の実行により債務が消滅した場合には、物上保証人は債務者に対して求償権を取得し、その求償の範囲については保証債務に関する規定が準用されることになりますが、同規定が債務者に対してあらかじめ求償権を行使することを許容する根拠となるものではなく、他にこれを許容する根拠となる規定もないからです(前掲最判平成2・12・18民集44巻9号1686頁)。

【連帯保証と物上保証の比較】

委託を受けた連帯保証の場合

委託を受けない連帯保証の場合

物上保証の場合

事前求償権

あり(民460条)

なし

なし

事後求償権

あり(民459条)

あり(民462条)

あり(民351条)

根抵当権の消滅請求

不可(民398条の22第3項)

不可(民398条の22第3項)

極度額に相当する金銭の払渡しまたは供託をする場合は可(民398条の22第1項)

3 根抵当権
 根抵当権が設定された場合、目的不動産について競売・担保不動産収益執行等の執行手続が開始されたとき(民法398条の20第1~3号または債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき(民法398条の20第4号)には元本が確定します。
債務者が個人事業主であれば、相続の開始後6カ月以内に、債務負担の合意について登記をしなければ、相続開始時に元本は確定します(民法398条の8)。
元本確定後、被担保債権額が極度額を超えるときは、物上保証人は、その極度額に相当するまたはの払渡しまたは供託によりその根抵当権の消滅請求をすることが認められていますが(民法398条22第1項)、連帯保証の併用の場合にはこれが認められなくなっています(民法398条22第3項)。
【根抵当権の元本確定事由】
元本確定事由 要件
確定期日の到来(民法398条の6) 約定または変更の日から5年以内
根抵当権者からの確定請求(民法398条の19第2項) 確定期日の定めがない場合にいつでも
根抵当権設定者からの確定請求(民法398条の19第1項) 確定期日の定めがない場合で設定3年後
目的不動産について競売・担保不動産収益執行等の執行手続が開始されたとき(民法398条の20第1~3号)


債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき(民法398条の20第4号)


債務者の相続(民法398条の8) 相続の開始後6カ月以内に、債務負担の合意について登記をしない場合
債務者の合併(民法398条の9) 根抵当権設定者(債務者と同一である場合を除く。)が合併のあったことを知った日から2週間以内および合併の日から1か月以内に元本の確定請求を行った場合




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