早わかり中国特許:第22回 公衆意見制度と無効宣告請求 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第22回 公衆意見制度と無効宣告請求 (第1回)

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早わかり中国特許

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第22回 公衆意見制度と無効宣告請求 (第1回)

河野特許事務所 2013年5月7日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2013年2月号掲載)

 

 第22回 公衆意見制度と無効宣告請求

 

1.概要

 中国競合他社が中国に発明特許出願を行い、これを権利化した場合、特許権侵害の問題が発生することとなる。このような事態を未然に防止するための方法として公衆意見制度(日本の情報提供制度に相当)が存在する。

 また中国では人民法院における審理において特許無効の抗弁を主張することができないため、特許の有効性を争うには、復審委員会に特許無効宣告を行うほか無い。

 本稿では競合他社発明特許出願に対する公衆意見、並びに、発明特許及び実用新型特許に対する無効宣告請求について解説する。

 

 

2.公衆意見制度

(1)概要

 公衆意見制度とは、発明特許出願が公開された後に、特許性に影響のある情報を第三者が知識産権局に提供する制度をいう(実施細則第48条)。

 

(2)主体的要件

 何人も請求することができる(実施細則第48条)。競合他社に提出者の情報を知らせたくないため、実務上は提出者名を記入せずに公衆意見を提出することが多い。

 

(3)情報提供の対象

 発明特許出願が対象となる。実用新型特許出願及び外観設計特許出願は無審査であるため対象とならない。

 

(4)時期的要件

 出願公開後から特許付与通知発行までの期間に限られる(審査指南第2部第8章4.9)。特許付与通知を発行した後は、審査官は提供された資料を審査する義務がなくなるため、公開後はできるだけ早期に提出すべきである。

 

(5)提出理由

 出願が専利法の規定に合致しないものであればいかなる理由であっても良い。従って、新規性及び創造性だけではなく、サポート要件違反等の記載要件違反をもその理由とすることができる。

 

(6)提出書類

 特に決まりはない。新規性及び創造性に影響のあると考える公知文献を提出するだけであっても良い。ただし、より実効力あるものとするためには、提出する公知文献と共に、新規性及び創造性が欠如する理由を明確に記載した書面を提出することが好ましい。

 

 具体的には、請求項の構成要件と、公知文献の関連箇所とを対比するクレームチャートを作成し、なぜ創造性を欠くのか理由を明記する。提出する文献が中国語以外の場合は、全文または該当箇所について中国語訳を提出する。

 

(7)提出後の手続

 実体審査請求がなされた特許出願について、公衆意見が提出されている場合、審査官は公衆意見を参考としつつ審査を行う。ただし、審査官は、公衆意見をどのように利用したかを提出者に報告する義務はない。

 

3.無効宣告請求制度

(1)概要

 無効宣告請求制度とは、特許公告後に復審委員会に対し特許の無効宣告を求める請求をいう(専利法第46条)。

 

(2)主体的要件

 何人も請求することができる(専利法第45条)。従って、企業名を出すことなく第三者である個人名でも請求することができる。

 

(3)無効理由

 法定の無効理由に限定される(実施細則第65条)。なお、中国商標法のような除斥期間は存在しない。

 具体的な無効理由は以下のとおりである。

専利法

第2条:保護適格性違反

第5条:公序良俗違反

第9条:ダブルパテント

第20条第1項:秘密保持審査違反

第22条:発明特許及び実用新型特許の新規性、創造性及び実用性

第23条:外観設計の新規性及び非創作容易性

第25条:非特許事由

第26条第3項、第4項:発明特許及び実用新型特許の記載要件違反

第27条第2 項:外観設計特許の記載要件違反

第33条:新規事項追加

 

実施細則

第20条第2項:必要的技術特徴に係る記載要件違反

第43条第1項:分割出願時における新規事項追加

 

(4)無効理由とできない場合

 上述したとおり、無効理由は限定列挙されたものに限られ、単一性違反(専利法第31条)、及び、審査官の指摘した事項以外の補正(実施細則第51条第3項)は、形式的な違反にすぎず無効理由とすることはできない。

 

(5)一事不再理の原則

 無効宣告請求における審理においては一事不再理の原則が適用される(審査指南第4部分第3章2.1)。すなわち、既に請求した無効宣告案件と同一の理由及び証拠により、無効宣告請求を行ったとしても、当該請求は受理されない。

 

(6)無効宣告請求の対象

 登録された発明特許、実用新型特許及び外観設計特許が対象となる。なお、特許権存続期間満了後も請求することができる。

 

(7)無効宣告請求書の記載

(i)無効宣告請求書においては、無効宣告請求の範囲を明確にしなければならない。明確でない場合、復審委員会から請求人に補正命令がなされる。所定期間内に補正がなされない場合、無効宣告請求は提出していないものと見なされる。

 

(ii)無効宣告の理由は、専利法実施細則65条2項で規定された理由に限定し、かつ専利法及び実施細則における関連条、項、号を以って独立している理由として提出しなければならない。

 

(iii)専利法第23条第2項を理由とする無効宣告請求の場合、すなわち、外観設計特許権が付与された外観設計が、出願日前に他者が取得した適法な権利と衝突していることを理由に無効宣告請求を行う場合、権利の衝突を証明する証拠を提出しなければならない。

 

(iv)請求人は、無効宣告の理由を具体的に説明しなければならない。証拠を提出している場合には、提出したすべての証拠について具体的に説明しなければならない。技術方案を比較する必要のある発明特許または実用新案特許について、係争特許及び引例文献にある関連技術方案を具体的に記載し、比較分析を行わなければならない。

 

 比較する必要のある外観設計特許については、係争特許及び引例文献にある関連図面または写真によって示された物品の外観設計を具体的に描写して、比較分析を行わなければならない。

 

 例えば、請求人が専利法22条3項(創造性)における無効宣告の理由について、複数の引例文献を提出している場合には、無効宣告の請求対象特許と最も隣接している引例文献、そして単独比較または組合せによる比較のいずれかの比較方式を明記し、係争専利と引例文献にある技術方案を具体的に記載し、比較分析を行わなければならない。

 

 組合せによる比較であって、2つ以上の組合せ方がある場合には、具体的な組合せ方式を明記しなければならない。異なる独立請求項については、最も隣接している引例文献を個々に明記してもよい。

 

(8)無効宣告請求手続概要

 参考図1は無効宣告請求手続の概要を示すフローチャートである。

 

 

 

 

参考図1 無効宣告請求手続の概要を示すフローチャート

 

(9)形式審査

(i)形式審査により、専利法、実施細則及び審査指南の関連規定に合致せず、補正を行う必要がある場合、復審委員会は補正通知書を発行し、請求人に通知書を受け取った日から15日以内に補正するよう要求する。

 

(ii)補正によっても不備が解消しない場合、復審委員会は無効宣告請求を提出されていないものとみなす通知書を発行し、請求人に通知する。

 

(iii)形式審査により、専利法、実施細則及び審査指南の関連規定に合致していると判断された場合、復審委員会は請求人及び特許権者に無効宣告請求受理通知書を発行する。また、復審委員会は、無効宣告請求書及び関連書類の副本を特許権者に転送し、当該通知書を受け取った日から1ヶ月以内に回答するよう、特許権者に要求する。

 

(iv)すでに他の無効宣告請求がなされており、一時的に審査することができない場合、復審委員会は、請求人及び特許権者にその旨を通知する。他の無効宣告請求についての審査決定が確定した場合、復審委員会は審査を再開する。

 

(v)無効宣告請求が復審委員会に請求される一方で、同時に対応する特許についての特許訴訟が人民法院に係属している場合がある。復審委員会は人民法院、地方の知的財産権管轄部門、或いは当事者からの請求に応じて、当該侵害事件を取り扱う人民法院または地方の知的財産権管轄部門に、無効宣告請求案件審査状態通知書を発行することができる。

 

(10)無効宣告理由の追加

(i)無効宣告請求人は、無効宣告請求の提出日から1ヵ月以内に無効宣告請求の理由を新たに追加することができる。特許権者から訴訟を提起された場合、対抗手段として無効宣告請求を行う場合がある。十分な先行技術調査を行った上で、請求書提出日から1月以内に新たな理由を補充すればよい。

 

(ii)無効宣告請求の提出日から1ヵ月経過した場合、原則として無効宣告の理由を追加することはできない。ただし、以下の場合は例外的に、追加が認められる。

(a)特許権者が併合形式により補正した請求項について、復審委員会が指定した期限までに無効宣告理由を追加し、かつ当該期限までに、追加した無効宣告理由について具体的に説明した場合。併合形式により請求項の補正がなされた場合、創造性についての新たな議論が必要となるからである。

(b)提出した証拠に対し、明らかに対応していない無効宣告理由を変更する場合。例えば、創造性欠如を主張すべく先行技術文献を証拠として提出しているが、誤って記載要件違反を無効宣告理由とした場合である。この場合、明らかに証拠と無効宣告理由とが対応していないため、創造性欠如を理由とする無効宣告理由に変更することが可能である。

 

(第2回へ続く)

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