中国民事訴訟法改正のポイント (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国民事訴訟法改正のポイント (第1回)

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中国民事訴訟法改正のポイント (第1回)

河野特許事務所 2013年4月2日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

1.概要

 中華人民共和国民事訴訟法(以下、中国民事訴訟法)は、2012年8月31日第11期全国人民代表大会第28回会議にて改正案が可決され、201311日より施行された。

 日本企業が知的財産権訴訟に関与する場合、中国民事訴訟法に則って各種手続を進めていく必要がある。改正点は多岐にわたるが、以下では知的財産権訴訟に直接関係する点について解説を行う。

 

2.管轄異議の申し立て

 訴訟を提起された場合、答弁書提出期間内であれば管轄異議の申し立てを行うことができる。管轄異議の申し立てがあった場合、人民法院は異議が成立するか否かの判断を行う。人民法院は、異議が成立する場合には管轄権を有する人民法院に事件を移送する旨を裁定し、異議が成立しない場合には却下する旨を裁定する。

 

 法改正により、当事者が管轄異議を提出せず、かつ、応訴答弁した場合には、管轄が誤っていようとも訴状を受理した人民法院が管轄権を有すると規定された。従って、管轄が誤っていても被告にとって有利といえる地域の人民法院であれば、当該人民法院において応訴することもできる。

 

 ただし級別管轄に違反する場合は、この限りではない。例えば、特許権侵害事件の第一審案件は原則として、中級人民法院が管轄する(司法解釈[2001]第21号第2条)。これに反し、高級人民法院に訴訟を提起した場合、中級人民法院に移送されることとなる。また、専属管轄規定に反する場合も、応訴することはできず、移送される。

 

改正前

改正後

第38条(管轄権に関する異議申し立て)

人民法院が事件を受理した後に、当事者が、管轄権について異議を有する場合には、答弁書を提出する期間内に異議を提出しなければならない。人民法院は、当事者が提出した異議について、審査しなければならない。異議が成立する場合には管轄権を有する人民法院に事件を移送する旨を裁定し、異議が成立しない場合には却下する旨を裁定する。

第127条(管轄権に関する異議申し立て)

人民法院が事件を受理した後に、当事者が、管轄権について異議を有する場合には、答弁書を提出する期間内に異議を提出しなければならない。人民法院は、当事者が提出した異議について、審査しなければならない。異議が成立する場合には管轄権を有する人民法院に事件を移送する旨を裁定し、異議が成立しない場合には却下する旨を裁定する。当事者が管轄異議を提出しておらず、かつ、応訴答弁した場合、訴えを受理した人民法院が管轄権を有するものとみなす。ただし、級別管轄に違反する場合及び専属管轄規定に違反する場合はこの限りではない。

 

3.証拠

 人民法院に提出できる証拠として電子データが追加された(中国民事訴訟法第63条(5))。また条文上鑑定結果が鑑定意見と改められた。証拠としての鑑定については後述する。

 

 また証人が地域的な理由により出廷証言できない場合、従来の書面に加えて、TV会議システム等を通じて証言できるようになった(中国民事訴訟法第73条)。なお、証人に証言させるために要した交通費、宿泊費等は、敗訴者負担となることが明記された(中国民事訴訟法第74条)

 

改正前

改正後

第63 条(証拠の種類)

証拠には、次の各号に掲げるものが含まれる。

⑴ 書証

⑵ 物証

⑶ 視聴覚資料

⑷ 証人の証言

⑸ 当事者の陳述

⑹ 鑑定結果

⑺ 検証記録

以上の証拠は、証拠調べを経て真実であることを確かめたものに限り、事実認定の根拠とすることができる。

63条(証拠の種類)

証拠には以下が含まれる。

(1)当事者の陳述

(2)書証

(3)物証

(4)視聴覚資料

(5)電子データ

(6)証人の証言

(7)鑑定意見

(8)検証記録

証拠は、証拠調べを経て真実であることを確かめたものに限り、事実認定の根拠とすることができる。

 

第65条(新設 証拠提出期限)

 当事者は自身が提出した主張に対しては、適時に証拠を提供しなければならない。人民法院は当事者の主張及び案件の審理状況に基づき、当事者が提供すべき証拠及びその期限を確定する。当事者は該期限内に証拠を提供することが確かに困難である場合、人民法院に期間延長を申請でき、人民法院は当事者の申請に基づき適宜延長する。

当事者が証拠提供期限を徒過した場合,人民法院はその理由を説明するよう命じなければならない。;説明を拒絶或いは理由が成立しない場合,人民法院は事情に応じて、該証拠を受け入れないか、或いは、証拠を受け入れるが訓戒、罰金を課す事ができる。

 

第66条(新設 証拠の受領)

 人民法院は当事者が提出した証拠材料について,受取書を発行し,証拠名称、ページ数、部数、原本或いはコピー及び受取時間を明記し、かつ取り扱い人員によるサインまたは捺印をしなければならない。

第70 条(証人の証言)

事件の状況を知る単位及び個人は、いずれも出廷して証言する義務を有する。関係単位の責任者は、証人が証言することを支持しなければならない。証人が明らかに困難な理由があり、出廷することができない場合には、人民法院の許可を得て、書面による証言を提出することができる。

意思を正確に表明することができない者は、証言をすることができない。

第72 条(証人の証言)

事件の状況を知る単位及び個人は、いずれも出廷して証言する義務を有する。関係単位の責任者は、証人が証言することを支持しなければならない。意思を正確に表明することができない者は、証言をすることができない。

 

第73条(新設 出廷できない場合の証言)

 人民法院の法に基づく通知を経て、証人は出廷して証言しなければならない。

以下の場合には、人民法院の許可を経て、書面による証言、視聴伝送技術或いは視聴覚資料等の方式を通じて証言することができる。

(一)健康の理由により出廷できない場合;

(二)遠路により,交通が不便で出廷できない場合;

(三)自然災害等の不可抗力により出廷できない場合;

(四)その他正当な理由があり出廷できない場合。

 

第74条(証人の費用)

 証人が出廷して証言義務を履行することにより支出した交通、宿泊、食事等の必要費用及び仕事遅延による損失は,敗訴側当事者の負担とする。当事者は証人証言を申請する場合,該当事者が先に立て替える;当事者が申請しない場合,人民法院は証人に証言するよう通知した場合,人民法院が先に立て替える。

 

(第2回へ続く)

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