中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第2回)

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中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第2回)

~不純物または補助物質が含まれている場合の権利範囲解釈~

河野特許事務所 2013年7月23日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

泰盛製薬有限公司、特利爾分公司

                          再審請求人(一審被告、二審上訴人)

v.

胡小泉

                           再審被請求人(一審原告、二審被上訴人)

 

3.最高人民法院での争点

争点:閉鎖式請求項の権利範囲解釈はどのように行うべきか

 特許請求の範囲において「由・・組成」とする閉鎖式請求項を用いた場合、請求項に記載した組成物だけを含み他は完全に排除されるのか、不純物は権利範囲に含まれるのか、また本事件で問題となった補助物質は権利範囲に含まれるのかが争点となった。

 

 

4.最高人民法院の判断

争点:イ号製品の補助物質は不純物ではなく、技術的範囲に属さない。

 最高人民法院は、以下のとおり、最初に閉鎖式請求項の権利範囲解釈について分析を行い、次いでイ号製品が請求項2の技術的範囲に属するか否かの判断を行った。

 

(1) 閉鎖式請求項の技術的範囲をどのように確定するか

 閉鎖式請求項に関し、専利法及び専利法実施細則には明確な規定が存在しないが、国家知識産権局が制定した部門規章である《審査指南》に詳細が記載されている[1]。

 

 請求項の形式は以下のように分類される。

 

(i)開放式請求項

 開放式とは、請求項で示していない成分を、組成物から排除しないことをいう。

 例えば、「含有」、「含める」、「含まれる」等である。

 中国語の場合「含有」、「包括」、「包含」となる。

 

 これらはいずれも、当該組成物には、その含有量に占める割合が高くても、請求項に示されていない何らかの成分を含めてよいことを示唆している。

 

(ii)閉鎖式請求項

 閉鎖式とは、組成物には示された成分だけを含有し、その他の要素は全て排除することをいう。

 例えば、「…からなる」、「構成は…である」、「残量は…である」等である。

 中国語では「由……组成」、「组成为」、「余量为」となる。

 

 これらのいずれも、保護を要求する組成物が示された成分からなるものであって、他の成分を含めないことを指すが、通常の含有量程度の不純物を有してもよい

 

(iii)半開放式請求項

 半開放式請求項は開放式と閉鎖式請求項との間の記載方式であり、「基本的に」、「主に」等の文言を付加する。

 例えば、「基本的に含む」、「本質として含む」、「主に…からなる」、「主な構成は…である」、「基本的に…からなる」、「基本的な構成は…である」等である。

 中国語では、「基本含有」、「本質上含有」、「主要由…… 组成」、「主要组成为」、「基本上由……组成」、「基本组成为」 等となる。

 

 半開放式請求項は、閉鎖式請求項にて特定していない成分について開放させ、当該成分はどのような割合でもよいが、当該成分が請求項にて特定した成分の基本特性及び新たな特性に対し、実質上影響を与えない成分であることが必要とされる。

 

 また審査指南第2部分第2章3.3には以下のとおり規定されている。

 

 通常、開放式請求項は「含める」、「含まれる」、「主に…からなる」という表現で記載する。当該請求項では関わっていない構造の組成部分または方法ステップを含むことができると解釈される。閉鎖式請求項は「…からなる」という表現で記載するのが適宜である。一般的に、当該請求項に記載の内容以外の構造の組成部分または方法ステップを含まないと解釈される。

 

 審査指南は1993年、2001年及び2006年にそれぞれ改訂されているが、開放式請求項及び閉鎖式請求項に対する基本的な解釈について変更はない。

 

 《審査指南》が請求項を開放式及び閉鎖式の2種の表現方式に区分し,かつ、これら2種の請求項が使用する異なる借用語をまとめているのは,特許出願人が特許を申請する際に、異なる含意の借用語を通じて、特許権の保護範囲を確定するという現実の需要を満たすためである。一般的にいえば,機械領域発明または実用新型技術方案においては、一つの構造技術特徴を増加しても,原技術方案の発明の目的を損なう事には必ずしもならない。従って,機械領域発明または実用新型特許出願文書中の請求項の記載は開放式表現方式を採用することが比較的多い。

 

 反対に,化学成分の相互影響があるため,化学領域発明の技術方案においては、一の成分を増加した場合,往往にして原技術方案の発明目的の実現に影響を与えることがある。従って,化学領域発明の請求項の記載は閉鎖式表現方式を採用するニーズが比較的高い。

 

 《審査指南》中の開放式、閉鎖式請求項の具体的規定から明らかなように,これら2種の請求項は借用語を使用する含意が相違するため,保護範囲も相違する。従って,実質審査において取得する際の権利の難易度も相違する。開放式請求項の保護範囲は比較的広く,実質審査において“新規性”、“創造性”または“サポート要件”等に関する拒絶理由を受けやすく、権利取得の難易度は高い。一方,閉鎖式請求項は実質審査を通じてより容易に権利を取得することができるものの,権利取得後の保護範囲は開放式請求項と比較すれば小さい。

 

 《審査指南》は国家知識産権局が制定、公布、施行した部門規章であり,国務院特許行政部門が特許権付与、権利有効性確認過程で特許出願または登録特許に対し審査を行う際の依拠となるものであり,同時に特許出願人または特許権者が特許申請文書または登録特許文書を記載、補正するための手引きであり,社会公衆が権利を付与された特許請求項を理解する際の重要な依拠となるものである。

 

 特許出願人または特許権者が特許申請文書を記載または補正する際には,《審査指南》の関連規定を理解しなければならず,かつ、《審査指南》の関連規定及びその発明創造の実際情况に基づき、適切な記載方式を選択しなければならない。審査官は審査過程においてまた《審査指南》の関連規定に基づき、異なる請求項に対し区分し、審査しなければならない。

 

 特許請求項について権利が付与された後,《審査指南》の関連規定に従い,社会公衆は、該規定及び特許請求項の用語に基づき、特許権の保護範囲を判断し,どのような経営戦略をとるかを決定する。社会公衆の信頼を維持すべく,特許侵害訴訟過程において特許権の保護範囲を決定する際,上述の関連規定が専利法及びその他の法律、行政法規の規定及び精神に違反しない限り、一般に特許が付与された過程において適用される《審査指南》の関連規定及び特許請求項の用語を尊重しなければならない。

 

 ここで特許権者が特許付与の過程で各種原因により保護範囲が相対的に小さい閉鎖式請求項を選択した場合,請求項の権利範囲が狭くなることを特許権者は受け入れざるを得ない。すなわち、特許権者は、より広い保護範囲の請求項を主張する十分な機会を有しておりながら、敢えて閉鎖式請求項を使用した特許権者は、社会公衆との関係において,自らそ代償を支払うべきである。

 

 最高人民法院は、上述した解釈は1993年当時の審査指南から首尾一貫したものであると述べた。また、このような解釈は特許権者に酷なように見えるが、特許出願時に、自身で具体的情况に基づき開放式、閉鎖式、半閉鎖式等の各種方式を採用することができるため、特許権者の利益を害するものではないと述べた。

 



[1] 審査指南第2部分第10章4.2.1

 

(第3回へ続く)

 

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