「インプラントって危ないんでしょ？」に対する私の答え

2013-04-19 14:31

1.不注意な処置と偏向報道がインプラントイメージを低下させた

　皆さんご存知のごとく、インプラントは入れ歯と比べ大変利点の多い治療法です。私のクリニックでは多くの患者さんがインプラント治療を希望され来院されますが、近頃は患者さんより「インプラントって危ないんでしょ？」と聞かれることがよくございます。

　2007年に銀座の歯科医院で、出血多量による死亡事故の報道があり、担当した歯科医師は業務上過失致死に問われています。

　2011年にはNHKの報道番組「クローズアップ現代」でインプラントの危険性が取り上げられて、一般の方々、患者さん方にすっかり「危険な治療」と誤解された感があります。大学卒業以来、インプラント治療にずっと携わってきた者として、大変遺憾に思う次第です。

　確かにインプラントは虫歯の治療などとはことなり、骨に穴をあける手術が必要である以上、「絶対に安全なもの」、「誰でも気軽に受けられる」とは言えない部分もあります。実際に治療を受けられた患者さんでトラブルに苦しんでいる方もおられるのも理解できます。

　しかし、一定の経験を積んだ歯科医師が、定められた方法で慎重に行うならば、決して難しい手術ではなく、インプラントの優れた点にはスポットを当てずに、話題として危険性ばかりが強調されるのは違和感を感じます。

　先述の死亡事故では、標準的なインプラント手術の手技で施行されずに、問題の歯科医師が自分で考えた方法で、動脈の走行している下顎の内側に向かって穴を空けたために、血管を損傷し重大事故を起こしてしまいました。

　解剖学を十分に理解している歯科医師、口腔外科の臨床経験がある歯科医師ならば、安全かつ適切に手術できたはずです。イレギュラーな手術により生じた不幸な事故ですから、常に起こりうる偶発的事故とは性質が違います。

　これをもってして「インプラント＝危険」とするのは、早計ではないでしょうか？まあ、テレビは必要以上に煽る傾向がありますから、仕方ないのかもしれませんが・・・。

インプラント治療は痛いのか？痛みの程度は？ http://profile.ne.jp/w/c-118895/

2.顎顔面インプラント学会が事故調査を行ったが…

　2011年の「インプラントは危険！」の報道の繰り返し流れた後、5月には日本顎顔面インプラント学会」が大学病院など関連施設を対象に緊急調査を行ったところ、2009～2011年の3年間に421件あったことがわかりました。
http://www.jamfi.net/PDF/anq_report120531.pdf

　しかし、この「421件のインプラント事故」という数字が独り歩きして、週刊誌や新聞に躍ることになります。まるで事故が多発しているかのような印象を与えるニュースのネタ元になったのです。

　各インプラントメーカーの本邦における年間の出荷本数は約60万本とされ、歯科診療所の約2割でインプラント治療が行われています。（どこの学会の統計調査だったか忘れましたが）日本では年間30万件以上のインプラント手術が行われているとされ、実際のトラブルはその3倍、4倍・・・あるいは10倍の事故が起きていたとしても、分母はかなりの数字になるとすると、統計的に「事故が多発している」って言えるんでしょうか？